第406話 『吊り橋へ急げ』 (▼ルシエルpart)
――――街中は完全に戦場と化していた。街中の至る所で、ドワーフとリザードマン、それにドゥエルガルが戦闘を繰り広げている。
「どうしよう、ルシエル」
ワウウ……
心配そうな顔をするルキアとカルビ。オレは、とても不安げな二人にニヤリと笑って見せた。
「大丈夫、アテナの事は心配するな。アテナの事だから、自分で何とかしそうだけど、脱出に苦戦しているようなら後でちゃんと計画を立てて助けに行けばいい。それよりも、オレ達が今なんとかしなくちゃならないのは、まずはアレだ」
グオオオオオオオオンン
ドワーフの王国内に響き渡り、聞こえてくる地竜の雄叫び。そっちを親指でさした。
「吊り橋の方だ!! 急ぐぞルキア、カルビ!!」
「はいっ!」
ガルゥ
急いだ。ドワーフとリザードマン、それにドゥエルガルが見渡す限り――街中のあちこちで入り乱れて戦っている。
ふとミューリやファム、それにメールやミリー、ユリリアの事が心配になる。だからこそ、早くあの地竜をなんとかして、さっさと街を襲ってきているリザードマンやドゥエルガル共をなんとかしなくてはと思った。
すると、街の中で見覚えのある3人組が、リザードマンを相手に戦っている姿が見えた。あれは、メール、ミリー、ユリリア。
「ルシエル!! あの3人、メール達じゃないですか!!」
「ああ、解っているって。助けるぞ!」
太刀『土風』を抜く。すると、隣を駆けるルキアもアテナからもらった太刀『猫の爪』を抜いた。そして、メール達に襲い掛かっていたリザードマン共を残らず斬った。3人がこちらに気づいて駆けてくる。
「ルシエルさん!! それにルキアちゃん!!」
「おーおー、やっとるかねー」
張りつめた緊張を少しでも和らげようとちょっとふざけただけなのに、ルキアが小さな可愛い手で生意気にも拳をつくりポカポカと叩いてくる。そんなのぜんぜん効かねーけど、ワハハ。
「ちょっと、こんな時に何をふざけているんですか! ルシエルはこんな時にもまったく、もう!」
「おーおー、解った、解ったってー! それはそうと、メール達はこんな所で何をやっているんだ? ここは、オレ達とドワーフ兵に任せて何処か安全な場所に避難していた方がいいぞ」
メール達はお互いに顔を見合わせると、困った顔で言った。
「で、でも……冒険者ギルドの方へも行ってみたんですけど、その辺りも戦場と化してました。この国にいる冒険者の人達もこの国に残ってドワーフ兵に加勢していたので、私達もお役に立てるかなって思ったんです……だけど逆に足を引っ張りそうだったので、何処か隠れてやり過ごせる場所を探して彷徨ってたんです」
そこで、リザードマンに襲われたところで、運よくオレ達と合流できたという訳か。なるへそ。
でも、リザードマン共はかなり危険だ。メール達の力になりたいと言う気持ちも解るが、確かに今は避難していた方がいいだろう。……それなら、あそこならいいんじゃないのか。
「メール、ミリー、ユリリア。お前達は、ベップの宿へ行け。あそこは街外れみたいなところだし、きっとこの中心街よりは遥かに安全だ。それに、ベップさんやユフーインさんとか宿の皆を守ってくれ」
オレのその言葉に3人は頷いた。
「解りました。それじゃ、ルシエルさんやルキアちゃんも無事でいてくださいね」
「くれぐれも無茶をしないでくださいね。カルビもだよ」
「駄目だと思ったら、すぐに逃げてきてください」
3人はそう言うと、ベップの宿がある街の北側へ駆けて行った。彼女達の姿が見えなくなると、オレとルシエルとカルビは、吊り橋の方へと向かった。
吊り橋目前までやってくると、そこでも多くの者達が戦っていた。既に倒れている者も沢山いる。
戦っているのは、ドワーフ兵とドゥエルガル。そして、その先を中心街の方へ駆けて行くまた別のドゥエルガルの一団がいた。それを見て、ルキアが声をあげた。
「あっ!! ゴーディ、それにテディも!!」
「え? もしかして、ルキアの知り合いか? 宿で話してくれた、ドゥエルガルの友達か!」
「あ、はい! あの一団、率いているのはドゥエルガルのリーダーですよ。ボーグルさんっていう……弟のブラワーもいます!」
もう吊り橋目前の所まで来ている。グレイドラゴンの雄叫びもかなり近くに聞こえるがその大きさからいっても、もう街への門をくぐった直ぐ先にいる感じだ。早く行かなければ。
だけど、ルキアはさっきのドゥエルガルの友人たちの方を向いたまま固まったままだ。
ふう……しゃーなしだな。今のルキアは、もういっちょまえの冒険者だ。なら、大丈夫だろう。
「行ってくるか、ルキア?」
「え?」
「あのドゥエルガル達、お前の友達なんだろ? それに、あれがそのドゥエルガルのリーダーっていうのなら友達のお前が行けば、色々と解決するんじゃないのか? 例えば、この襲撃を止められるとかな」
「は、はい。できれば行ってゴーディたちを止めたいです。だけどそんな事、この私にできるのでしょうか⁉」
オレは、ルキアの耳を思い切り噛んでハムハムした。
「ひゃあああっ!! ちょっとルシエル!!」
「あれこれ考える暇があるんなら、さっさと行ってこいよ。ドラゴンなんて、オレ一人で十分だからよ。それにアテナもどうにかしてきっとくる。だから、行って来い。ドゥエルガルの奴らはお前じゃなきゃ、どうにもできないだろ。ドラゴンをなんとかすんのは、オレかアテナの仕事だ」
「ルシエル……じゃあ、私ちょっと行ってきます!!」
「おう! 吉報を待ってるぜ! まあ、その頃にゃきっとこのオレが、グレイドラゴンを倒してしまっているだろうけどな。ハハハハハ」
ルキアは、にこりと微笑むと友達のドゥエルガルがいた一団を追って中心街の方へ駆けて行った。それを見たカルビがこっちを振り向く。
軽く頷いて見せると、カルビはルキアの後を追いかけて行った。




