第401話 『爆炎』
ミューリは短剣、ファムは槍を構えると同時に襲い掛かってきた。
二人の攻撃を、二振りの剣で受ける。ミューリが続けて短剣を振ってきたのでさっと避けると、今度はファムが槍で突いてきた。しかしその攻撃も剣で受け流し、隙をついてファムに蹴りを入れた。
距離をとると、二人はそれぞれ得意な属性魔法を詠唱し始めた。
『ツインブレイド』じゃなくて借りものの剣だけど、正直武術においてはこの二人よりも私の方が圧倒的に有利。それは1対2だったとしても、それでも勝つ自信が私にはあった。
でも、魔法勝負になるとまずい。ロックブレイクにいた頃に、そこへ大量のアシッドスライムが攻め寄せた。
その時の討伐戦や、地底湖でのサヒュアッグとの戦いなどで二人の実力を十分に見てきた。ドワーフの王国へ一緒に旅する中で、二人の得意な属性魔法がかなりのものだと悟った。このノクタームエルドで、二人がかなり有名な冒険者だって事も頷ける。
ミューリは火属性、ファムは風属性魔法のスペシャリスト。一方、私には爺直伝の魔法があるけれど、正直言って魔法自体があまり得意ではない。
まいったなーー、もう。きっと魔法勝負では勝てないかもしれない。
でも二人と戦うという事は、こういう事なのだ。
「手加減はしない、だからさっさと降伏する事を勧めるよアテナ!! 風よ、我に集まりてその刃をもって敵を斬り裂け!! 《斬撃風》!!」
ファムの風属性魔法。風の刃が飛んでくる。しかし、これくらいなら、対応できる。それよりも、ファムの敵と言った言葉の方が私の胸に突き刺さった。まあ、間違いではないけれど……
私はファムの放った斬撃風を二振りの剣で、全て打ち返す。すると、そのファムと交代するように、今度はミューリが前に躍り出てきた。
「これ位じゃなきゃ、アテナちゃんを倒すことはできないと知っているから手は抜かない!! 喰らえ!! 《火球魔法》!!」
私が使う火球魔法よりも一回り大きな火球。ミューリは、それを私目掛けて放ってきた。どうやら、ミューリもファムも何としても私を拘束するつもりなのだと思った。本気を感じる。
だけど……
「私だってその程度の魔法なら使えるわ!! 《火球魔法》!!」
ミューリと同じく、火球を放つ。だけど、ミューリのそれと比べるとえらく小ぶり。べ、別にいいんだもん。打ち負けないように、小ぶりでもしっかりと魔力は込めている。魔法は大きさじゃなくて、質よ!
二つの火球はぶつかり、大きな爆発を起こした。私だけでなく、ミューリとファムも吹っ飛ぶ。爆炎と砂煙。私は叫んだ。
「ガイ!! 鎖鉄球騎士団副長、ガイ・メッシャー!!」
すると、砂煙の中から鎖鉄球を手に持つ筋肉質の男が現れ、近づいてきた。
「アテナ殿下!」
「ガイ! あの姉妹は強敵よ。このままここで、戦い続けてもリザードマンの侵攻は止まらないし、ドラゴンもやがて街へ侵入してくる。だから、止めに行かないと」
「ならば、どうしますか?」
「ゾルバはどっか行っちゃったから……っぷ。あっ、笑っちゃった、ごめんなさい。とりあえずこの場の鎖鉄球騎士団の指揮はあなたがとりなさい! あなたは騎士団を率いて、街で助けを求めるドワーフ達を助けてあげて。私はこの砂煙に紛れて、あの姉妹をなんとかまいて吊り橋に向かう。もちろん頼めるよね?」
「もちろん承知! このガイ・メッシャーにお任せを!!」
街の事はガイに任せた。ガイが周囲に散らばる騎士団達を早速集合させている。それを確認したあと、私は再び周囲に散布している砂煙に紛れて吊り橋の方へ向かった。
あちらこちらで、ドワーフとリザードマンが戦っている。その向こうでも、ドゥエルガルが暴れまわっていた。早く急がないと。
吊り橋までは、まだ少し距離がある。だから、息が切れる程思いきり走った。
どうやら、ミューリとファムは上手く撒けたみたい。
曲がり角を曲がる。曲がった所で、今度は倒れているドワーフ兵達にとどめを刺そうとしているリザードマン達に遭遇してしまった。
「ニ……ニンゲン! コロス!! ドワーフ、コロス!!」
「ぎゃああ!!」
リザードマン達は、倒れているドワーフ達にとどめをさすと私の方へ向かってきた。手には、槍。
「もうっ! あっちもこっちもリザードマンね! 戦争をしているつもりなら、覚悟してもらうわよ!」
まず、最初に槍を突き出してきたリザードマンの初撃を避けると、すれ違いざまに首を刎ねる。更に向かって来る者達を、二振りの剣で次々に斬り倒した。
――残りは1匹。
他のリザードマンよりも巨躯。自信に満ちあふれた目と、立派な斧。それで指揮官クラスと判断できる。吊り橋には急がなくちゃだけど、指揮官クラスの敵は見つけた所で倒しておきたい。
巨躯のリザードマンは、私に狙いを定めるとその切れ味の良さそうな斧を連続で振ってきた。結構な重量のありそうな斧だけど、このリザードマンは軽々と使振り回している。
上手くかわして、すれ違いざまに隙ができるのを待つ。
――ここだ!! 脇腹を斬った。そこから、二刀で交互に打ちこむ。しかし、リザードマンは重量感のありそうなその斧をまるでナイフでも扱っているように、軽やかに扱い私の剣を弾く。再び、距離をとる。
「ニンゲンノメス。オソロシク、ツヨイ。ダガ、カツノハオレ、ザーシャテイコクヨンショウグンノ、オモドダ!! メスダガ、キワメテコウテキシュ。ナヲオシエロ」
「私の名は、アテナ。冒険者アテナよ。リザードマンのオモド将軍ね。あまり時間がないから、ここからは本気でいくわよ」
あまり、時間をかけてもいられないのも確か。でも、今このオモドと言うリザードマンは、自分の事をザーシャ帝国の四将軍だと言った。つまり、帝王を含めて倒さなくちゃならないのは、5人。プラス、吊り橋に迫るドラゴンを倒せばおおかた勝負が付くということを意味している。
ここは、倒して進むしかない。
そう思い、剣を強く握った。飛び込もうとした刹那、オモドの背中を火球が直撃した。爆炎。オモドの苦しむ声とともに、爆炎の中から赤い髪の少女が姿を現した。
「アテナ。こうなってしまったらもう、僕も引き下がれない。まずはガラハッド様を救って、それからこの国を救う。そして、その後に僕とファムがした事の償いをする」
少女の身体から溢れ出して見える魔力。それは赤く、まるでミューリ自身が炎を身に纏って燃え盛っているかのように見えた。
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〚下記備考欄〛
〇斬撃風 種別:黒魔法
下位の、風属性魔法。ブーメラン状になった風の刃が対象を襲う。
〇火球魔法 種別:黒魔法
火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。




