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第4話 『ウィリアム・ハーケン』 (▼ウィリアムpart)






 ――――ネバーランの森。



 その鬱蒼とした森の奥に、ネバーラン遺跡というダンジョンがあった。


 そのダンジョンは、冒険者ギルドではランクA以上でないと挑めないと言われていた。……なのに、俺達は、他の一般的なそこいらの冒険者より強いんだという慢心と多額の報酬目当ての欲で、このダンジョンに無謀にも挑んでしまった。今更ながら、全く馬鹿な事をしたと思った。――――そして、案の定危機に陥ってしまっていた。



「逃げろ逃げろ! 絶対に振りかえるな!いいか! 走ることに集中するんだ! 振り返らずに全力で逃げ切るんだ!!」



 グオオオオオオ……



 迫ってくる魔物。いや……魔族。大量のレッサーデーモン。このダンジョンに入り、通路を抜けた最初の大部屋に大量のレッサーデーモンが出現した。そう、罠だったのだ。そういう罠。このダンジョンは、侵入する冒険者やトレージャーハンターなどをいきなり全滅に落とし込む。そういうたちの悪い罠が張り巡らされていた。


 以前、ギルドか酒場でそういう悪質な罠があるダンジョンがあるという噂は、聞いたことがあっが……まさか、自分がその罠に引っかかるなんて! くそったれ!!



「いや、そんな事よりも今はどうにかして、レッサーデーモンを振り切る事を考えないと!! 物理攻撃が効かない魔族相手に、何処までやれるか。きっと、追いつかれれば殺される。ほら休むな!! 皆、走るんだ!!」



 俺のクラスは、戦士。仲間はモンク、シーフ、魔法使い。冒険者ギルドのランクは、全員Ⅽ。せめてプリーストなどの神聖系魔法が使える者がいればレッサーデーモンに有効なダメージを与えられるのだろうが…………


 …………ええいっ! いないものは、考えたって仕方がない!


 冷静に考えてみても今、この敵に有効打を与えられるのは、魔法使いしかいない。しかし、魔法使いは敵の最初の攻撃で怪我を負ってすっかり戦意喪失している。


 …………ここまでなのか…………



「くそうっ!!」



 こうなってしまっては…………こうなってしまっては、もはやこうするしかない。


 急ブレーキ。走って逃げる足を止め、勢いよく振り返り武器を構える。


 ウォーハンマーを振り回し、向かって来るレッサーデーモンにブチかます。だが、ウォーハンマーを叩きつけられたレッサーデーモンは、その衝撃で吹っ飛ばされはするものの大したダメージにはならず、すぐに体勢を整えてこちらに攻撃を仕掛けてくる。魔族に物理攻撃は、有効ではないのだ。ウォーハンマーで殴っていても、倒せない。



「……うっ……くっ……」



 聖水も持ってはいない。やはり、神聖系魔法でもないと、こいつらには勝てんか。ぐっ…………



「助けてくれええーー!! ウィリアーム!! 助けてくれ!!」



 隣にいるシーフの足がレッサーデーモンに掴まれて、乱暴に引きずられる。そのシーフの足を掴んでいるレッサーデーモンの顔面にウォーハンマーを叩き込んで吹き飛ばす。


 駄目だ!! ここまでだ!! 俺は、大声で叫んだ!!



「皆!! 皆、逃げろ!! ここは、俺が喰い止める!!」



 その言葉に、仲間たちは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに俺の方を見てこう言った。



「すまねえ!! 恩に着る!」


「ありがとう!! 君の勇姿は忘れないよ!」


「また、生きて帰ることができたら酒をおごらせてくれ!」



 早い。正直言うと、もしかしたら「俺も戦う!」って言ってくれるんじゃ……とも少しは思ってた。だから驚いた。だが、考えるな。誰かが残って食い止めないとこのパーティーは確実に全滅する。でも誰かが壁になれば残りの3人は、助かる。そして、今ここでその壁に適役なのは、戦士の俺しかいない。


 3人の仲間が逃げるまで、己の大きく鍛え上げた体を盾としてレッサーデーモンを喰い止めるんだ。



「どりゃあああああ!! かかってこいよ!! 最後まであがいてやる!!」



 奮闘した。どうにか仲間が逃げ切る時間を稼げた。でも、その代償として左腕を折られ腹に穴を開けられた。出血が止まらない。視界がぼやけてきた。やはり、こんな数のレッサーデーモンを一人で相手するなんて正気じゃない。


 壁となって勇敢に戦い仲間を守ることはできたが、俺はここで死ぬんだろうか。


 こんなダンジョンに欲に目が眩んで、挑まなければ良かった。今、こんなことに陥っているのも納得だ。慢心が招いた結果なのだから。はっはっはっはっ。笑えてくるぜ。大笑いする。


 俺の冒険もここで終わり……最後に仲間を救えてよかった……


 そう思った。


 …………そう思った瞬間に、肩と太ももをレッサーデーモン達に深くえぐられる。強烈な痛みが俺に襲い掛かる。



「いっでえええええ!! ちくしょおおおお!! めちゃくちゃいてええええ!! こんな思いして、俺は死んでいくのか!!」



 死ぬほど痛い。その時、心から強く後悔する気持ちが溢れた。


 痛い!! 嫌だ!!



「うわあああああ!! 死にたくない!! 死にたくなーーい!!」



 泣き叫び暴れる。ウォーハンマーを大きく振り回してからダンジョンの出口に向かって走り出した。


 嫌だ! 死にたくない。なぜ、あいつらはこんな盾になろうとしている仲間をあっさり見捨てて、逃げられる? あんな奴らの為に命を差し出さなくてはならないなんて納得できない。あんな調子のいいやつらの為に死ぬなんて絶対にごめんだ。


 俺は、絶対生きる!! 生きるんだ!! 生きたいんだ!!


 追いかけてきている複数のレッサーデーモンに、背中を何回も削られる。流血。痛い。出口!! 

 

 外に飛び出した。


 しかし、数体のレッサーデーモンは、遺跡の外に飛び出した俺への追撃を止める気配はなかった。何処までも息の根を止めるまで追ってくるのか。


 殺されるっ!!!!


 目から涙がこぼれ落ちる。逃げる――全力で走って逃げる。



「た……助けてくれ…………誰か……」



 狙いをつけられ強烈な一撃が背中に飛んでくる。



「うわああああ!!」




 ――――!!




 刹那、襲ってきていた数体のレッサーデーモンがバラバラになって消し飛んだ。


 その光景に残りのレッサーデーモンの追撃が止まる。いきなり仲間達があっさりとやられた事に動揺している。


 …………女? ……女の子?



「女の子⁉ あの女の子が倒したのか? 一瞬でレッサーデーモンをやったというのか? し……信じられん」



 目の前には、凶悪な無数のレッサーデーモンから俺を守るように少女が剣を抜いて立っていた。勇ましくも気品を感じさせられる後ろ姿。それは、透き通るような綺麗な青色の髪色をした、ボブヘアーの似合う可愛らしい少女だった。



「ふう……間一髪! ってところかしら」



 彼女は、そう言って振り返り、俺にウインクした。……いったい何者なんだ?



 グゴゴゴオオオ!!!!



 レッサーデーモン達は、標的を俺からその少女に変えて一斉に襲い掛かった。



「危ない!! 逃げるんだ!! その数のレッサーデーモン相手じゃ、太刀打ちできない!!」



 叫んだ。こんな可愛らしい少女が、魔族に切り刻まれる光景など見たくはない。


 しかし、目を疑うような事が起きた。


 少女は、恐ろしい形相で一斉に襲い掛かってくるレッサーデーモン達を余裕の笑みを浮かべたまま迎え撃った。殲滅するのに、さほど時間はかからなかった。


 信じられなかった。



「た……助かった。俺は、ウィリアム・ハーケン。Cランク冒険者で、仲間と一緒にこの遺跡ダンジョンに挑戦していた。……身の程知らずな事をした、思い知ったよ。実力も達していないのに、欲を出してこんな危険なダンジョンに挑戦してしまうなんて…………しかし、君が助けてくれた。ありがとう」



 少女の手を握った。小さな手だ。この手で剣を握って、あの数のレッサーデーモンを倒したのか。



「私は、アテナ。Dランク冒険者よ。本当に間に合って良かった」


「なに? Dランクだと⁉ 冗談だろ? あんな簡単にレッサーデーモンを倒せるDランクなんて聞いた事が無い」



 あの遺跡は、Aランク推奨のはず。まして、Cランクの俺達が全くかなわず絶望を味わったのに、このDランクの少女は、あんなにもあっさりとあれだけのレッサーデーモンを殲滅したなんて。本当に信じられん。



「あれだけのレッサーデーモンを苦も無く倒せるなんて……君はいったい何者なんだ?」


「だから、Ⅾランクの冒険者なんだってば。別にランク=強さって訳でもないでしょ? あの、遺跡ダンジョンが冒険者ギルドでAランク推奨って言うのなら、Aランク以上のそれなりの強さを兼ね備えている冒険者ならクリアできるって事でしょ? なら、ちょっとAランク並みに腕に自信のある私が、ダンジョンに出現するレッサーデーモンに勝てたとしても、それ程不思議じゃないってことよ」



 うーーん……納得できん。物理攻撃が効かないレッサーデーモンを斬り殺した剣も普通ではない。



「それはそうと、あなたの傷の手当てもしないとだし……近くでキャンプを張っているから、頑張って支えるからなんとか頑張ってそこまで歩ける? お兄さん、結構重量ありそうだから、私じゃ抱えきれないわ」


「ウィリアムでいい、アテナ」


「ウィリアム。あなたの傷は、見かけより酷いわ。すぐ治療したいから、急いでくれる?」


「すまない……手をかしてくれて恩にきる」



 レッサーデーモンにやられた傷で身体のあちこちが痛い。特に、抉られた太ももと腹の傷は今にも気を失いそうな程に痛い。


 ウォーハンマーをなんとか拾い上げてよろよろと歩き出すと、アテナはかわりにウォーハンマーを持ってくれようとした。ウォーハンマーを預けると、その重さでアテナは押しつぶされた。押しつぶされて動けないアテナは、じたばたと動いて脱出しようと必死になって藻掻いている。


 今にも死にそうなぐらい傷を負って、泣きそうな位痛いのに、そんな彼女を見てうかつにも笑ってしまった。



「ぷっ……はっはっはっは!」


「こ……こらーー!! 助けてあげたのに! 助けてあげたのにー! ちょっと、この重いのどけてよ! ゴンブトハンマー!! 早く治療しなきゃいけないのに」



 本当に、このアテナという娘はとても魅力的で不思議な子だ。


 ウォーハンマーを拾い上げて、アテナを救出。そして、ウォーハンマーは、自分で引きずってアテナについていこうとした。そうするとアテナは、ヨロヨロと歩く俺の体を支えてキャンプまで連れて行ってくれた。途中、俺が気を失わないように何度も何度も頑張れと励まし声をかけてくれた。




 気遣いながら、よりそって支えて歩いてくれるアテナの綺麗な青い髪は、優しいいい匂いがした。

 








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ウィリアム・ハーケン 種別:ヒューム

Cランク冒険者で、クラスは【ウォーリアー】。絵にかいたような戦士でウォーハンマーを愛用の武器としている。腕力には自信もあって、仲間と一緒にネバーランの遺跡に眠るまだ手が付けられていない財宝に目が膨らみ挑むが……


〇アテナ 種別:ヒューム

Dランク冒険者。今もまだ、商人モルト・クオーンから頂いた特上なブラックバイソンのお肉の味を思い出しては、また食べたいと思っている。


〇レッサーデーモン 種別:魔族

下級悪魔。下級と言っても、悪魔は幽体アンデッド程ではないが物理攻撃に強く、魔法にも耐性があったりするので神聖系魔法などで対抗しないといけない。よって、下級冒険者は悪魔と遭遇すると基本的には聖水などの備えがなかったり、パーティーにクレリックやプリーストのような聖職系のクラスがいなければ戦いを避ける。


〇ネバーランの森

クラインベルト王国にある、とある鬱蒼とした森。森林ウルフなど魔物も沢山潜んでいる。本作品1話で、アテナがいた森。


〇ネバーラン遺跡 

ネバーランの森の奥深くにある遺跡。まだ調査もろくにされていないダンジョンで、冒険者ギルドからも危険視されている。


○ウォーハンマー

戦槌。パワー系の戦士職が好む武器。ウィリアム愛用のウォーハンマーは大型で重量もある為、アテナは彼のハンマーをゴンブトハンマーと名付けた。


〇冒険者ランク

一般的には7段階のランクに分けられているが、一番上位にssランクと言われる特別なランクがある。


Fランク = 冒険者見習い

Eランク = 下級冒険者

Dランク = 一般冒険者

Cランク = 中級冒険者

Bランク = 上級冒険者 

Aランク = ベテラン冒険者

Sランク = 特級冒険者

ssランク= 伝説級冒険者



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[一言] 青春だ……………ww
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