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第397話 『アテナとガラハッド王』 (▼アテナpart)




 ――――ドワーフの城。

 

 私は、この城の地下牢に移動させられ鎖に繋がれていた。今は、自分の背中はおろか顔や首も自由に触れられない状態。


 こりゃ、まいったね。


 だけどルシエル達が上手く逃げてくれていれば、必ずこの混乱に乗じて助けに来てくれる。だからそれまでの辛抱。


 隣の牢を見ると、人影があり目が慣れてくるとそれが誰だかも解った。ガラハッド王も私と同じく幽閉されていた。



「ふぐ!! うっ! くっ! ふんぬー、ふんぬーーう!!」



 鎖が切れないか、力を入れてみる。しかし、私の力じゃ無理。首には魔法を封じる為の拘束具もつけられていたので、当然魔法詠唱しても発動できない。


 ドルガンド帝国のヴァルターは、この私を直ぐにでも帝国へ連れ帰りたい様子だったけど、意外な事にこの国の王子、ガラードがそうさせなかった。


 もし、私を引き渡してしまった場合、ガラードはヴァルターと何か駆け引きする事になってしまった場合に、私と言う有利になるカードを失ってしまう。つまり、有利に事を進められなくなる。


 だから、今この国を襲っているリザードマンやドゥエルガルを一掃し、その後の帝国との良好な関係を確約する事ができるまでは、私というカードを温存しておこうという魂胆なのだろう。



「ア、アテナ王女……」



 となりの牢からガラハッド王の消えそうな声が聞こえてきた。



「冒険者として活動しておりますので、アテナで結構です……なんですか? 陛下」


「アテナ……すまんな。余が至らぬばかりにな」


「いえ、陛下ではなく、陛下の息子さん……身分的には私とそう変わらないので、この際ガラードって呼ばせてもらいますけど、ガラードが至らないんだと思います」


「……ガラードは、早くに母を亡くしてな。それで、余の一人息子と言う事もあってか、甘やかしてしまった。まさか、帝国と公国に我が国の鉱物資源を莫大に提供するだけでなく、リザードマンの侵攻を許し、ドゥエルガルの反乱まで起こさせてしまうなんて……もはや、この国は駄目かもしれない」


「いえ。諦めては駄目です陛下。国王とは、国がピンチになっても最後の最後まで諦めては駄目な人だと思います。私が力になります。それにこの件が落ち着いたら、私は一度自分の国へ帰ろうかと思っています。そしたら、ドワーフ王国の事も私の父であるセシル王に話します。父も平和を愛する人なのできっと、陛下とは気も合います。いい同盟が結ばれるはずです。だから、諦めないで」



 牢に幽閉されその身体、手足を自由に動かせられないように鎖で縛りつけられても、決して諦めない。そう思う事と強い目で、隣の牢に見えるガラハッド王の目を見つめる。すると、ガラハッド王は微かに微笑んだ。



「だがリザードマンは止められまい。ドラゴンを従えている。地竜、グレイドラゴンと言われる恐ろしい竜種だ。ガラードにしても、どうする事もできまいて。帝国や公国にしても、もう尻尾を巻いて自分の国へ逃げ帰る準備をしている頃だろう」


「フフフフ」


「な、何がおかしい?」


「陛下は私……私とその仲間の力を知りません。地竜? そんなもの、私達が討伐してみせます。だって、私達は魔物退治が得意な冒険者なんですもの」


「…………」


「本当は、キャンプが趣味だから、キャンプする事の多い冒険者になったので、キャンパーって名乗りたいんですけどね。でも、リザードマン達にも帝国にもいいようにはさせたくありませんから。だから、陛下も最後まで決して諦めないで」



 そう言うと、ガラハッド王は暫く視線を落とした後、再び私の目を見た。



「解った。余も腹をくくろう。アテナよ、我が息子ガラードの蛮行を止め、リザードマンや帝国や公国をこの国から追い払いたい。手を貸してくれ」


「はい! お任せください。でもドゥエルガルは、いいんですか?」


「ドゥエルガルは――可哀そうな種族だ、我らドワーフ達に虐げられてきた。反乱は許せんが、関係を修復したいと考えている。ドゥエルガルの反乱に関しては、余たちドワーフも悪いのだ」



 それを聞いて、ガラハッド王が聡明な人だと確信した。ガラードはあれだけど、ガラハッド王みたいな人がドワーフの王国を治め続けてくれているなら、クラインベルト王国とも助け合える良き同盟国となるだろう。


 隙があれば、他国を乗っ取ろうとあれこれ画策し何かにつけて暗躍しているヴァレスティナ公国より、遥かに信頼のおける同盟国になる。



「兎に角、私に任せてください。きっと、ルシエル達がすぐにここに助けにくるはずなので」


「……ミューリやファムは、余の為にガラードに利用されておる。きっと、余を助けるためにそなたらを拘束しようとするだろう」


「それならそれで、なんとかします」


「敵として、現れてもか? そなたら、ロックブレイクから暫く一緒に旅をし、友人となったのであろう?」


「陛下……ミューリとファムは、私達の大切な友人ですよ。友人だから、きっとなんとかします。ルシエルやルキアだってきっとそう思って今頃は、動いてくれているはずです」


「そ、そうか……クラインベルト王国のセシル王は余とは違い、立派な子を授かったのだな。それでも、余にとってはガラードは大切な息子……息子が間違っているなら尚更、もっと厳しく言ってきかせるべきだった」



 この国は今、リザードマンやドゥエルガルが攻め込んできて戦争状態に陥っている。だから、地下牢に見張りはいなかった。きっと、戦いに駆り出されて出払っているのだろう。


 だからガラハッド王とは、そんな話をする事が延々とできた。しかし次の瞬間、地下牢に誰かが入ってくるのを感じた。いや、間違えない。誰かがくる。


 ガチャンッ


 私は、ついに助けがきたと思った。



「陛下! きっと、ルシエルとルキアです。これで私達もこの牢から脱出する事ができます」


「う、うむ」



 近づいてくる。顔をあげて確認する。


 ――茫然。


 ルシエルやルキアの助けと思った。そうでなくても、もしかしたらミューリやファムかもしれないとも思った。


 考えないようにはしていたけど、ヴァルターがここへやってくるかもしれないとも思っていた。でも、どれとも違った。


 その肥満体の身体に、偉そうな髭とマントの男は私を見るなり、いやらしく微笑んだ。



「これはこれは、アテナ王女。やっと、再会を果たせましたな。嬉しい限りでございます。この私めもわざわざノクタームエルドの果ての、ドワーフ王国くんだりまでやってきた甲斐があるというものと存じます」


「ゾルバ!!」



 その男は、私の義母エスメラルダ王妃に従う王妃直轄の鎖鉄球騎士団の団長、ゾルバ・ガゲーロだった。


 このとても予想だにしなかった男の登場に、流石の私も驚いて暫く言葉を失ってしまった。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ゾルバ・ガゲーロ 種別:ヒューム

クラインベルト王国、鎖鉄球騎士団団長。エスメラルダ王妃の直轄騎士団でこれまでにアテナを連れ帰ろうと、何度か衝突した。いやらしい髭に肥満体の身体、偉そうなマントを身に着けているが実力は、なかなかのもの。アテナやルシエルと、一騎で勝負する場面もあり自分の実力にも相当な自信があると思われる。

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