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第396話 『青い髪の束』




 圧倒的な光景だった。


 魔物の群れに遭遇したので、部下達を率いて殲滅しようとした刹那、陛下は地竜を操りその魔物達を一瞬にして殲滅した。


 地竜は巨大な爪や牙、尻尾だけでなく口からは、とんでもない威力の凄まじい光線を放った。それで残る魔物達を全て焼き払った。


 洞窟の中は、魔物達の焼けた臭いで充満した。しかし、その嫌な臭いよりも圧倒的なその力を操る陛下に全てのリザードマンが歓喜し平伏していた。


 確かにこれならば、ドワーフ共を攻め滅ぼすというのも現実味を帯びてくる。この地竜には、誰でも敵いはしないだろう。


 俺は圧倒的なその光景に目を輝かせ、足を止めている者達に声をかけると再び軍を引いてドワーフの王国へと軍を率い進んだ。



「ちょっと待て、ギー!!」



 俺の名を呼ぶ声。振り返ると、カメオンだった。カメオンは陛下に任じられた俺も含めた4匹の将軍の一人。他にオモド、ギャオスが任じられている。


 ギャオスは、我らザーシャ帝国最強の戦士で、実質ナンバー2である俺をいつもライバル視している屈強なリザードマンだ。奴らとは仲間であり、時にはいがみ合ったりしているが、こうなると心強い。



「カメオン、どうした。自分の隊へ戻れ」


「そんな事よりも、またギャオスがお前の悪口を言って触れ回っているぞ。お前はヒュームの雌に、無様に負けただけでなく首ったけだとな。言いたい放題に罵ってそれを他のリザードマンに広めている」


「言わしておけ。そのうち、俺こそがザーシャ帝国ナンバー1だという事を知らしめる。この戦いが、それを立証するいいチャンスになる」


「だと言うと思った。しかし、本当なのか? お前がヒュームの雌なんかに……」


「雌ではない。アテナだ。アテナは、誰より強く美しい。種族の壁など気にもならん程にな。それを知らずしてほざいておる輩など、くだらぬ者共だ。お前もアテナに会って見ればわかる」


「しかしな、ヒュームだろ……」



 後ろから思い切り誰かにぶつかられた。将軍のこの俺に⁉ カッとなって剣に手をかけて振り返る。イグーナだった。


 我らがザーシャ帝国の偉大なる女戦士。だが、俺にはただの跳ねっ返りに見える。アテナと知り合ってからは、特にそう見えた。


 アテナの剣技は見事なものだった。このイグーナはリザードマンの雌の中では右にでるものは無い位の剣の使い手だが、やはりアテナには及ばない。


 アテナには、イグーナには無い見惚れる剣技がある。剣を振るひとつひとつの動作が、美しすぎるのだ。俺を投げた体術も、芸術と言ってもいい。あれを武芸というのかもしれない。リザードマンには、武芸などというものは無い。より早くより強く剣を……槍をふるえるかと言うのみ。



「ギー!! あんた、サヒュアッグの巣を殲滅しに行ってから随分と素っ気ないじゃないか。もしかして、ヒュームの小娘にご執心って噂は本当なのかい? それが本当だとしたら、アタシはドン引きなんだけど。あんたには、アタシのようなリザードマンの雌こそが相応しいわ」



 そう言って身体に触れてきたイグーナを振り払った。リザードマンはプライドも高い。だからイグーナは、そんなこの俺の態度に怒りを見せた。「信じられない! ギーは狂った!」そう言って、俺を軽蔑し自分の配置されている隊へと戻った。


 アテナの事を思い浮かべると、なんと思われようがそれでいいと思った。俺は力で生きてきた。だから、俺がヒュームの女に思いを寄せようが他の者にどう思われようが、このドワーフの王国を攻め落とすという大きな戦いで、大きな手柄を立てればまた俺を見る仲間達の目も変わる。そう思った。



「ギャハハハ!! ギー!! お前、ついにヒュームの雌なんかに発情しちまう変態に成り下がっちまったようだな。ザーシャ、ナンバー2と言われたお前がこんな変態野郎だったとはな。ウケるぜ! 俺様だけでなく、ザーシャの民全てが残念がっているだろうぜ」



 今度はザーシャ帝国、最強の雄が俺を笑いにやってきた。ギャオス。俺とアテナの事はもう誰にも知れ渡っている。



「雌ではない。アテナだ。それと、ギャオス。俺はこのドワーフ殲滅戦争で。ザーシャのナンバー1になる。お前はその次か、もっと下へ転がり落ちる。しかも二度と這い上がれんだろう」



 ギャオスの目が爬虫類そのものの目に変わる。リザードマンは本当に怒りを感じたり感情的になると、よりそういう目に変わるのだ。



「ほう……言ってくれるな、ギー。お前こそ、背中に気を付けろ。ドワーフ共の刃でなく、同族の刃に気を付けろ。たまたまドワーフを狙った刃が、的を外れてお前の背に突き刺さるっていう事故が起きるかもしれんぞ! ギャハハハ」



 アテナには会いたいと思った。再び会えるのならば、会ってみたい。会話ができなくてもいい。もう一度……


 だが今は、ザーシャ帝国の将軍の務めを果たべきだと思った。この戦いで戦果第一をあげれば我らが帝王ザーシャは必ずそれに報いる恩賞と名誉を与えるだろう。


 そうすれば、例え俺がアテナと会おうが、アテナを我がザーシャ帝国……その頃には、今のドワーフ王国がザーシャ帝国になっているだろうが、そこにアテナを招く事もできる。


 懐から、大切な御守りを取り出す。青い髪の束――それを俺は、御守りとしていた。


 アテナからもらった、彼女の髪。これがあれば、離れていてもずっと近くにアテナがいるような気持になれた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ギー 種別:リザードマン

ザーシャ帝国四将軍の1匹。ザーシャ帝国5000匹の中でナンバー2の実力を持つ。アテナ一行が地底湖でキャンプをした時に、メール達がサヒュアッグに攫われた。アテナがメール達を救いに行った時に出くわして戦ったが、アテナには勝てなかった。当初はアテナを殺して食べるつもりだったが、刃を交えて彼女を知ると興味を持つ。そして尊敬と特別な気持ちを抱くようになった。聡明さはザーシャ帝国ナンバー1だろう。


〇カメオン 種別:リザードマン

ザーシャ帝国四将軍の1匹。ギーとは、それなりに仲が良く一緒に行動する事も多い。だがアテナと出会い戻ってきて別人のように変わってしまったギーに疑問を持つ。


〇ギャオス 種別:リザードマン

ザーシャ帝国四将軍の1匹。ザーシャ帝国5000の戦士達の筆頭。最強の戦士。実力の近いギーに対して、疎ましく思っており事あるごとに挑発してくる。アテナの件以降は、更にギーに対しての態度が酷くなる。


〇オモド 種別:リザードマン

ザーシャ帝国四将軍の1匹。パワーだけなら、ザーシャ最強だと自負している。サヒュアッグや人間達との戦闘においては、いつも斬り込み隊長をかってでる。


〇イグーナ 種別:リザードマン

ザーシャ帝国、雌最強の戦士。四将軍に次ぐ実力を持っている。ギーに好意を持っているが、アテナの一件を知るとギーに冷たくあたる事が増える。最強の子孫を残す為には、ギャオスではなくギーがいいと思っている。

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