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第394話 『引き裂かれる心』




 ――――ドラゴン。もうそこまで迫り来るリザードマンの軍勢。それにドゥエルガルの反乱。


 それを聞いたこの部屋にいる全ての者が、まるでいきなり時間が止まったかのように凍り付いた。


 ドラゴンがどの程度の大きさで強さのものか、脅威度は解らないけど、この国の精鋭部隊が迎撃に出て何もできずに全滅したのだ。それだけでも、かなりの力を持っている魔物だと容易に推測できる。


 その時、アテナちゃんがこの凍り付いた状態を打ち破った。



「うん、解った。そのドラゴンは私が倒す。だから、諦めないで」


「ドラゴンを倒すだと? 嘘だ。お前のような少女に、ドラゴンが倒せる訳がない」



 ガラード。そして、ここでヴァルターが続けた。



「その通りだ。ガラード陛下……おっと、まだ気が早いな――ガラード殿下の言う通りだ。まず、普通に考えればわかるだろ? こんな可愛らしい少女に、ドラゴンが倒せるか? まったく下らない、虚言だ。アテナを再び拘束せよ。リザードマンが迫っているとなると、私はアテナを連れてもうここいらで帝国へ戻る」



 それを聞いてガラードは慌てる。



「ままま、待て!! ヴァルター将軍!! お主が帰ったらこの国はどうなる? 帝国の援軍は? それを約束せんと、アテナは渡せんぞ!!」


「解っている。先に言ったように、ノクタームエルド国境付近に我が精強な軍団が待機中だ。私がそこまで戻れば、すぐにこの国へ援軍を送ろう。その後の指示は追って待て」


「ぐ、ぐぬうう」



 ヴァルターは、ガラードにも偉そうに指示をしていた。帝国の軍人がこの国の王子に対して。それはもう、帝国にガラードがいいようにされていると、一目で解るものだった。


 ガラードは、思いつめた顔をする。すると、新たな伝令が息をきらして部屋へ入って来た。



「伝令!! リザードマン達は吊り橋を越えて王国内に雪崩れ込んできました。今、全ドワーフ兵が食い止める為に当たっていますが劣勢です!! 街中で潜んでいたドゥエルガル共も、それに乗じて暴れまわっており、もはや手が付けられません!! このままでは!!」



 ガラードはそれを聞くと、決意した目で僕とファムを睨んだ。



「ミューリ、ファム。アテナ及びその仲間を拘束せよ。そして、ヴァルター将軍へ即刻引き渡せ。それができなければ、俺は苦肉の決断をする。今この場で実の父の首を刎ね、俺が王になりこの国を守る!! 本気だぞ!!」



 僕はガラードのその言葉と、この緊急事態に動揺していた。アテナちゃんやルシエルちゃん、ルキアちゃんやカルビの顔を見る。皆、僕とファムの大切な友達。キノコ採取や地底湖キャンプ、蟹鍋、サヒュアッグとの戦闘――ノクタームエルドでの彼女達との胸躍る楽しい冒険の数々が頭を駆け巡った。



「余の事はかまわん、アテナ王女の助けを借りよ。決してガラードに従ってはならん!!」



 ガラハッド様のその言葉で、ガラードの目の色が変わり剣の柄を握る手に、力が入るのが解った。そして、それに気づいたヴァルターがいやらしく笑っているのも見えた。


 僕の目から涙が溢れた。



「すまない!!」



 僕は気づくと、短剣を抜いてアテナちゃんに襲い掛かっていた。僕の大切な友達を拘束する為に――


 しかしアテナちゃんは、僕に掴みかかられる瞬間に愛用の『ツインブレイド』をまたルシエルちゃんに放り投げて渡すと、叫んだ。



「行って!!」



 短い言葉。でも、それだけで全てを理解した表情をするルシエルちゃん。



「ほら、ルキア、カルビ!! ぼやぼやするな、逃げるぞ!! 風よ!! ぶっ飛ばせ!! 《突風魔法(ウインドショット)》!!」



 ルシエルちゃんの風属性魔法で、部屋の中にいたドワーフ兵達が吹き飛ばされ倒れた。僕はルシエルちゃんの名を叫んだ。だけど、彼女は立ち塞がったヴァルターの顔面に、見事な右ストレートを叩き込むと同時に、疾風のようにこの隙をついてルキアちゃんやカルビと共に部屋を飛び出して逃げ去った。



「追え追えーー!! アテナ王女を捕らえよ!!」



 ドワーフ兵達が部屋を飛び出していった。ヴァルターは、ルシエルちゃんに殴られた左頬を摩りながら立ち上がると鬼の形相でガラードに言った。



「あいつらもだ。あいつらも連れて行く。それでないと、援軍はおくらない事にした!!」



 そして、僕が取り押さえているアテナちゃんに近づこうとした。だけどそのアテナちゃんの前にアイアンゴーレムの異名を持つ、戦士長ギリムが立ち塞がる。


 ガラードは、自分の父ガラハッド様とアテナちゃんを地下牢に幽閉するようにドワーフ兵に命令すると、ヴァルターに言った。



「全員捕らえてから引き渡す。ヴァルター将軍、あんたはそれまでこの国にいろ」


「なんだと!?」


「必ずこの国に援軍を送ると確約してからだ。それからでないと、アテナは引き渡さん。なに、アテナの仲間は、すぐに捕まえるから安心して少し待っていろ」



 ガラードのその言葉に加え、戦士長ギリムに阻まれた事にヴァルターは舌打ちすると、ガラードに次いで僕とアテナちゃんを睨みつけ部屋を出て言った。


 アテナちゃんをドワーフ兵に引き渡す。その間、僕はアテナちゃんの顔を見る事ができなかった。僕は、親友を裏切った。心が裂かれるようだった。


 ファムが僕の腕を掴む。



「思い詰めないでミューリ。ファムもミューリと同じ事をした。ガラハッド様とこの国の為には仕方のないこと」


「ぼ、僕はとんでもない事をアテナちゃん達に!!」


「うん。だからって友達を犠牲にした事は許されない。だから、全てが終わってからまたどうすればいいか考える。全て解決したら、帝国にファムとミューリだけでも乗り込んで行ってアテナ達を助け出す」



 帝国は冷酷残忍。特にヴァルター・ケッペリンという男はそういう噂しか聞かない。引き渡せばアテナちゃん達はどうなるか解らない。ヴァルターを殴ったルシエルちゃんはきっと拷問の末、殺されるだろう。だけど、今はガラハッド王とこの国の事を何よりも考えないとと思った。


 許して欲しい……許して……ごめん、アテナちゃん。


 目からぼとぼとと涙が溢れた。ファムを見ると、同様に泣いていた。僕達はつらい選択をしなきゃならない。


 そんな僕らの姿を見て、ガラードは「すまんが全ては、陛下とこの国の為だ」と言った。そして、僕の肩を触ろうとしたので、僕はそれを思い切り振り払って睨みつけた。



「殿下がガラハッド様に刃を突き付けた事は、忘れません!! ですが、今殿下がおっしゃったように……今この時は陛下の為、この国の為に全力を注ぎます。だから何としても、ルシエルちゃん達は僕達が捕らえて連れ帰ります。ですが、リザードマンとドゥエルガルを殲滅したあとは、僕らの好きにさせてもらいます。いいですね」


「解った。それができれば、アテナ達を助けに帝国に行くなりなんでも好きにしろ。それに助けが必要なら、俺も助力は惜しまん」


「そんなのいらない!!」



 僕が言い返す前にファムが言った。


 僕とファムは、逃げ出したルシエルちゃん達を捕らえる為に、部屋を出た。それでも、僕もファムも涙は止まらない。アテナちゃん達に申し訳なくて、申し訳なくて……


 ルシエルちゃん達は、まだきっとこの王国に潜んでいる。潜んで、アテナちゃんを助け出すチャンスをうかがっているはず。


 僕とファムは、流れる涙をぬぐいもせずにルシエルちゃん達を探し出し拘束する為に街へと向かう事にした。

 





 城を出ようとしたその時、後ろから一人の少女……更に城門の前に一人のドワーフが立って僕らを待っていた。忘れようとしても、忘れる事なんてできない馴染みのある顔。



「ノエル……それにギブン」


「うはは! 面白そうな事になってんじゃねえか! あたし達にも手伝わせてくれよ!」


「フォッフォ!! 久しぶりに、アース&ウインドファイア再結成か。これは確かに面白そうじゃ。最近運動不足での、困っておった。儂も一つ、かませてくれんかの!」



 僕とファムの目の前に現れた二人は、かつての僕らのパーティーメンバーで、僕達にとってもっとも心強い者達だった。


 そう、アテナちゃんが頼りにするルシエルちゃんやルキアちゃん、カルビのような存在。


 僕とファムは、ついに声をあげて泣いてしまった。すると、ノエルとギブンが僕ら姉妹を優しく抱きしめてくれた。


 僕達なら、きっとこの苦境を乗り越えられる。


 4人でそう決意を固めた所で、僕達の前に一人の女が満面の笑みをして現れた。


 ――白衣の女。その女は、少し前にロックブレイクで僕達にキノコ採取の依頼をしてきた依頼者だった。僕は、その仕事を受けた事がきっかけでアテナちゃん達と知り合う事ができた。


 女は、僕達に近づいてくるとポーションのような薬を差し出してきた。ただ、その色はなんとも毒々しい。



「お久しぶりズリー!! 自分の事、覚えているかな? 自分は、もちろん片時も君達の事を忘れた事なんてなかったよ。ホントだよ。その証拠に、助けになりにきたんだよー! 誰かにすがりたい、そんな気分でしょ? ――はいっと。これは、君達がとってきてくれた5種のキノコと、特別な薬草などの素材を調合して作った特別な薬だよ。飲めばたちまち元気もりもりスーパーマンになれるよ。いや、スーパーガールかな。いや、どっちでもいいや。いずれにしても、きっといいメロディを奏でられるはずさ」



 僕達はその白衣の女メロディ・アルジェントから、その薬を受け取った。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ノエル・ジュエルズ 種別:ハーフドワーフ

ミューリとファムのパーティーメンバー。二人のピンチの時には、駆け付ける。見た目は少女だが、とんでもない腕力とパンチ力を持っている。そしてその身体には似つかわしくない大きなバトルアックスを所持。ルシエルとの仲は深まったはずだが……


〇ギブン 種別:ドワーフ

ミューリとファムのパーティーメンバー。二人のピンチの時には、放ってはおかない。見た目は白い髭の典型的なドワーフだが、老練な戦い方とドワーフ持ち前の腕力とタフネスを誇る戦士。年寄りと思って侮ると、大変な事になる。


〇メロディ・アルジェント 種別:ヒューム

怪しげな白衣の女。愛称はメロ。ロックブレイクでアテナ一行がミューリ達からキノコ採取の仕事を請け負ったが、ミューリ達自体は実はメロからその採取依頼を請け負っていた。ミューリとファムはマイコニッドが大量にいる事を知っており、自分達だけでは危険だとアテナ一行を雇っていた。メロはマリンとも面識があるがマリンは得体の知れないメロを嫌っている。だけどメロもマリンの事w得体の知れない魔法使いだと思っている。いったい何者?

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