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第393話 『ご乱心』




 ガラハッド様は、僕とファムに微笑みかかえると、腕を大きく掲げ宣言した。



「全兵士に告ぐ!! これより我がドワーフ王国は、迫り来るリザードマン共の攻撃に対し防衛し、その後反撃に転じる。よって直ちに防衛戦の準備をせよ!」



 その言葉にアテナちゃん達の顔が笑顔になる。僕とファムもだ。



「すまない事をしたなアテナ王女。それにその共の者達よ」


「共ではなく、友だ」

 


 ルシエルちゃんが、ニカリと笑ってそう言った。アテナちゃんもにっこりと笑う。



「陛下。それじゃ、私達も協力します。直ぐに私達を自由にしてください。リザードマンとの戦いに、私達も是非加えてください」


「それは助かるが、それで本当にいいのか? 狂暴で残忍なリザードマンは、大軍でここへ向かってきておる。それにそなたは、王族であろう……」


「いえ、今はただの普通の冒険者ですよ。Aランク冒険者。つまり、魔物退治はお手の物です」



 アテナちゃんはそう言った。ガラハッド様はそれを聞くと、何度も頷いた。


 僕とファムも、アテナちゃんにありがとうと言おうとした。しかし、それよりも先にガラード殿下が動いた。


 ガラード殿下は、素早くガラハッド様の後ろへ回ると剣を抜き、実の父親であるガラハッド様の首元に躊躇うことなく刃をあてた。



「駄目だ!! 駄目だ駄目だ!! 絶対に駄目だ!! 鉱物資源は、もはや当分は帝国へも公国へも送れない。ミューリ、ファム! お前らが採掘場を爆破するなんて馬鹿なマネをやってくれたからな。このままじゃ、誰も助けてはくれん!! すぐに帝国か公国に援軍を送ってもらわねばならんのだ!! 帝国は、ノクタームエルドの隣国だ。助けてもらえるなら、そうするべきだ。だがそれには条件がある。王女一人を引き渡すだけで、この国は滅びから救われるのだ」



 ガラード殿下のその言葉に、ヴァルターがにやりといやらしくほくそ笑む。



「いかんぞ、ガラード。助けを求めるべきであれば、それはアテナ王女だ。クラインベルト王国のセシル王は義理堅く、情に厚いと聞く。クラインベルトに助けを求めるのが正しい。ドルガンド帝国は、ザーシャと同じだ。リザードマンと同じく冷酷残忍だ。知っているであろう?」


「それでもヴァルター将軍は、ノクタームエルドとドルガンドの国境付近まで、軍を進めさせ待機させているのだという。クラインベルトまでは、とても助けを求めにいってられない。それに弱国だ。誰かさんが、帝国からドワーフの王国への直通のグライエント坑道を、使い物にならなくしてしまったが、それでもヴァルター将軍が一言かければ、精強な帝国軍が駆けつけてくれる。そうだな、将軍?」



 ヴァルターは、軽く頭を下げてまたもやほくそ笑んだ。僕もこの男が、アテナちゃんのように嫌いになってきた。ガラード殿下は、この男の口車に乗せられている。でも……


 アテナちゃんが進み出た。



「ガラード!! 陛下に剣を突き付けるなんてやめて! 本当の敵はリザードマンでも私達でもない。帝国よ!! リザードマン達を跳ね除けられたとしても、帝国の正規軍をこのノクタームエルドに入れては駄目!!」


「うるさい!! うるさいうるさい!! さがれ!! さがらんと、我が父を傷つけねばならなくなる!! そうなれば、それはお前らの愚行のせいだからな!! 俺は本気だぞ!!」



 ガラード殿下はそう言って、ガラハッド様の首元にあてている剣を少し引いた。ガラハッド様の首から赤い線が現れそこから血が流れ出す。



「うう……ガラード……」


「やめて!! ガラード殿下!! 陛下は僕とファムの大切な!!」


「大切な……なんだ? お前らは父の拾いものだろ? 俺はドワーフ王ガラハッド・ガザドノルズの実子だ。故にお前らより、俺の判断が正しいのだ!!」



 アテナちゃんが、ルシエルちゃんとルキアちゃんに何か合図を送った。この場をどうにかするつもり⁉ 


 僕の心はざわついた。もちろん、ガラード殿下に言われた拾い物という言葉。その言葉に、怒りのようなものも感じていた。でも、冷静さを失っては駄目。


 そして、アテナちゃんの行動……迂闊な事をしてそれでもしガラハッド様に何かあったら。


 ……ガラード殿下が驚いて、ガラハッド様の首を刎ねるような事があったら……そう思った。そうしてしまう可能性があるのだ。ガラードという男は……


 ガラハッド王には、確かに拾ってもらった。でも実の娘のように可愛がってくれた。血が繋がっていなくても心は繋がっている。僕とファムの、父親のような存在。ガラードなどよりも、僕らのほうがガラハッド様やこの国の事を考えている。間違っても、王に刃を突き立てようとする事なんてしない。する訳がない。


 ガラハッド様の首筋に流れる血を目にした時、王と国を必ず守るという何か固い決意のようなものが、身体の中で燃え上がった。熱く燃え上がる炎。



「ガラード!! それ以上、ガラハッド様を傷付けてみろ!! 僕がお前を炭屑にしてやる!!」


「なんだと、今この俺様になんて言った? 一介の冒険者の分際でこの国の王子に向かってなんと言った!? 覚悟はできているんだろうな、ミューリ」



 ファムが進み出て槍の穂先をガラードへ向ける。



「覚悟なんてもの、とうにできている。ファムやミューリは、ガラハッド様に忠誠を誓っている。ガラハッド様の為なら、実の息子であるあなたも……」


「やめよ!! ガラードもミューリもファムもやめんか!!」



 ガラハッド王が叫ぶ。アテナちゃん達からも目が離せなかった。勝手な行動をされたら、ガラハッド様が馬鹿息子に殺されるかもしれないからだ。何よりもガラハッド様の事が、優先だった。



「伝令!!」



 その時、この緊張した修羅場を打ち破るかのように、慌てたドワーフ兵が部屋へ入って来た。伝令は、ガラハッド様の首に刃を当てるガラードの姿を見て一瞬固まったが、ガラハッド様が「続けよ!」と言ったので、伝令は内容を報告した。



「ザーシャ帝国は、このドワーフの王国付近まで接近中。まもなくリザードマンの先発隊が吊り橋近くまで接近し、いずれ街へ攻め入ってくるでしょう!!



 ガラードが怒鳴る。



「なぜだ? なぜそんな事になっている!! 迎撃部隊はどうしたのだ!!」


「既に我が軍の迎撃部隊は、応戦に向かいましたが全滅致しました!! リザードマンは恐ろしいドラゴンを従えており、我が国の精鋭でも、全く太刀打ちができません!!」


「ド、ドラゴンだと⁉ 嘘だろ?」


「更に、ドゥエルガルにも不穏な動きが。ドゥエルガルのリーダー、ボーグル・ブラウマンは、ドゥエルガルの戦士たちを率いこのドワーフの王国へ向かって来ているのようです。武装もしている事から、この混乱に乗じて奴らもこのドワーフ王国を奪い取るつもりでしょう」



 ボーグル? その言葉を聞いていたルキアちゃんは、顔を真っ青にしていた。ルキアちゃんからは、ベップの宿に泊まった時にドゥエルガルの住処に行ってきた話を聞いた。そのリーダー、ボーグルとも知り合いになったと――


 彼女もそうだとは思うけど、僕もとても複雑な心境になっていた。そう、僕とファムはガラハッド様とこの僕達が大好きなドワーフの王国を守る為にどうすれば一番いいのかという決断に迫られている。

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