第392話 『ガラハッドの決意とアテナの心』
流石に5人掛かりでかかると、シャルロッテはなす術なく倒れた。
……と言うか、倒されてくれたと言った方が正しい。
ファムが警戒していた『鋼鉄鞭』という鉄の鱗が何層にも重なり合って連なっている鞭。それを持っていたにもかかわらず、彼女は5対1という圧倒的不利な状況で使用する事はなかった。
初めから、負けるつもりだった。脱走したルシエルちゃんと、それを手助けした僕達に立ちはだかり、負ける。それが自分の公国での立場と、僕達の友情を守る為の両立する手段と考えたのだろう。
笑みを浮かべながらも、地面に横たわるシャルロッテにお礼を言うと、僕達は地下牢から上の階へあがりアテナちゃんが囚われているという7階を目指した。
待っていて、アテナちゃん! 今行くから!
途中、僕達を追っているドワーフ兵と遭遇。ファムやルシエルちゃんが、風属性魔法で兵達を吹き飛ばして道を開いた。
7階に到着。この階の一番奥の部屋、そこにアテナちゃんがいる。
部屋の位置は、シャルロッテから7階一番奥とだけ聞いていた。でも、その場所は直ぐに見つける事ができた。部屋の扉の前に、見張りがいたから。
「な、なんだ? ミューリ、それにファムか? 何の用だ!!」
「ごめんね」
ルシエルちゃんとカルビが先に動こうとしたけど、先に僕らが動いた。見張り二人のドワーフ兵を、僕とファムが倒す。
そして、扉の前に立つ。
「ファムに任せて! 風よ、扉を吹き飛ばして! 《強風撃》!!」
鍵がかかっていたので、ファムが風属性魔法で扉を破壊し、雪崩れ込むように中へ入った。
「アテナーー!! 大丈夫か!!」
「アテナ!! 助けに来ましたよ!!」
ワウウウ!!
そこにアテナちゃんはいた。彼女は、椅子に縛り付けられている。ルシエルちゃんとルキアちゃんとカルビは、直ぐにアテナのもとへ行き、彼女の縄と魔法の発動を封じる拘束具を解いた。
「大丈夫? アテナちゃん」
「皆、助けに来てくれたんだ! ありがとう。実は……ガラハッド王から聞いたんだけど……」
アテナちゃんが何があったのか話し始めると、部屋に数十人のドワーフ兵と戦士長ギリムを連れたガラード殿下が、入って来た。ドルガンド帝国の将軍、ヴァルター・ケッペリンもいる。ガラ―ド殿下が叫ぶ。
「そこまでだ!! 全員動くな!! よし、者ども!! この者達を全員ひっとらえろ!!」
「御意!!」
ガラード殿下の言葉に、ルシエルちゃんは『ツインブレイド』をアテナに手渡し、太刀を抜く。ルキアちゃんも同様に武器を構えたのを見て、ファムも槍を構え、そして僕も気づいたら短剣を手にしてそれをガラード殿下達に向けていた。
ここで、捕まったらもう……アテナちゃんは帝国へ連れて行かれる。ルシエルちゃん達もどうなるか、解らない。ガラード殿下は怪訝な顔をする。
「おいおいおい。ミューリ、ファム。これは我がドワーフ王国へ対しての反逆か? ん、この騒動は、国王陛下は知っておられるのか?」
ファムが睨んだ。
「違う。これは、友達を守ろうとしているだけ。その帝国の男は信用できない。そんな男に友達を引き渡せない」
すると、ヴァルターは笑いながら言った。
「フハハハハ。友情か、それが大切か?」
「大切」
「ほう、ではこの国と友情のどちらが大切かな。この国は間も無く亡ぶ。だが、この国の芸術的な鍛冶技術や鉱物資源の探索並びに、発掘技術も全てドワーフの王国と共に滅び去るのは、流石に気が重い。非常に大きな損失だ。それらは、我が帝国の軍事利用に大きく貢献できるだろうからな」
僕も、ファムの隣に並びヴァルターを睨んだ。
「つまりアテナを引き渡さなければ、帝国がこの王国を攻め滅ぼす。そういう事だね」
そう言うと、ヴァルターは大笑いした。そうじゃないのか? イラついて、拳を握ると部屋の中にガラハッド様……陛下が入って来た。僕達のあとを急いで追って来たのか、息を少し切らしている。
「そうじゃない。そうじゃないんだ、ミューリ。それにファム。帝国は、このドワーフの王国を守ってくれると言っているんだ」
それって、どういう事? ファムも僕と同様にその言葉に混乱している。
「陛下……どういう事なのですか?」
「うむ。実は今、このドワーフ王国へ向けてザーシャ帝国がこの国を滅ぼそうと迫ってきている」
ザーシャ帝国⁉ ルシエルちゃんとルキアちゃんは、知らないと言った様子をしているがアテナちゃんは、既にその話を聞いているようだった。それに、リザードマンが活動しているという話は、ベップの宿の温泉で話した。
ザーシャと言えば、このノクタームエルドを支配しようとしているリザードマン達の帝国。その帝国は、ノクタームエルドのもっと西に位置するはずだけど、いつしか彼らはノクタームエルドという彼らに最も適した住処を、自分達の帝国にしようとし始めた。
それから幾度もこのドワーフの王国を占領しようと部隊を送ってきては、ノクタームエルドを荒らしてまわった。
僕やファム、それにギブンやノエルは、何度もリザードマン達を撃退して、この国を守ってきた。守る事ができた。
でも、ついに守れない程のリザードマンの軍勢が、今このドワーフの王国を亡ぼす為に迫ってきている。だから陛下は、ドルガンド帝国の力を借りようとしている。そういう事だと悟った……
僕はヴァルターを指さして言った。
「だから、ドルガンド帝国の助けを借りると? 援軍を送ってもらうというのですか? そんなの駄目です。ドルガンド帝国は、ザーシャと一緒です。この国に、そんな大規模の軍隊を入れたらきっと今度は、ドルガンド帝国の兵にこの国に居座られ、いずれ奪われます」
「ファムも知っている。ドルガンド帝国は、ザーシャ帝国……リザードマン達と同じく残虐で冷酷非道。それにリザードマン達が攻めてくるなら、尚更アテナに力を借りるべき。アテナは強いし、ルシエルやルキア、それにカルビも頼りになる。アテナが助けてくれると言えば、クラインベルト王国が援軍を送ってくれるかもしれない。その方がいい」
ファムと共に、陛下にそう言って跪いた。すると、アテナちゃんも跪いて見せた。
「ミューリやファムの言っている事に関しては、私も同感です。ドルガンド帝国は、信用できません。特にこの男は……私はこの男に実の母を殺されたと思っています。そうでなくても、弱っていた母の身体を痛めつけられた。だから、この男も帝国も許さない。だけど、今この国が危険なただならぬ事態に直面しているのなら全力を持って、私も協力したいです。この国に来てから色々な事がありましたが、人も国も大好きになりました。だから、リザードマンにもドルガンドにもいいようにはさせたくない!」
アテナちゃんの言葉。それを聞いたガラハッド様は暫く目を閉じると、僕とファム、アテナちゃんを見て深く頷いた。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
当作品の主人公。クラインベルト王国第二王女であり、Aランク冒険者。二刀流の使い手でありながら、組技や魔法も使いこなす。ドワーフの王国にて、ガラハッド王やミューリやファムと共に、この国の平和を保とうとしている。しかし予期せずドルガンド帝国の将軍、ヴァルターとの再会で内心穏やかでない。だけど、一番大切な事を優先して行動しようと努力している。そしてそれが可能だと信じている。自分にそれができる力が備わっているという過信ではなく、なによりルシエルやルキア、それにカルビといった自分の仲間を信じている。
装備武器:ツインブレイド 果物ナイフ
〇ギリム 種別:ドワーフ
ドワーフ王国の戦士長であり、有事の際の司令官でもある。そしてドワーフ王国最強の戦士と言われている。ゴツゴツの筋肉隆々の身体に鋼鉄のフルプレートメイルを着込んでいる事から、アイアンゴーレムの異名を持つ。ガラード派で、いつもガラードの傍らに侍っている。




