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第391話 『立場』




 ファムの向かった先。それは、アテナが幽閉されているところ。


 つまり、牢。この城の地下牢だと思った。


 石畳が張り巡らされた城内の通路を全速力で走る。すると、後方から何人ものドワーフ兵達が叫びながら追いかけてきていた。



「待て、止まれミューリ! お前とファムを拘束する!」



 なるほどね、ガラード殿下の手の者か。


 僕は足を止めずに走り続ける。曲がり角を曲がった所で、瞬時に振り返り同じように曲がって来たドワーフ兵達に向かって火属性魔法の火球魔法(ファイアボール)を放った。



「僕の邪魔をしないでくれ!! 大人しく言うことを聞いてくれないのなら、痛い目にあうよ!!」


「ぐわああ!!」


「に、逃げろおお!! 火球魔法(ファイアボール)だああ!!」



 ドーーーーンッ



 炸裂音。そして、通路が炎に包まれた。


 ドワーフ兵の装備は、多少の耐熱が施されている。そして火球魔法(ファイアボール)は、できるだけ威力を抑えて放った。目くらましと足止め程度になればいい。


 ドワーフ兵達が混乱している間に、僕は地下牢を目指した。


 階段を降り、地下牢のあるフロアまで降りた所で、ファムを見つけた。ファムは、牢の中をキョロキョロと見回し片っ端からアテナちゃんを探していた。すると、もっと奥の方で聞き覚えのある声が聞こえる。



「おーーーい!! 助けてくれえええ!! ここだ、ここ!!」


「五月蠅い!! 大人しくせんかい!! こんな騒がしいエルフ、初めて見るわい!」



 ファムの手を掴む。



「ファム、落ち着いて!」


「落ち着けない! 奥から、ルシエルの声がする! ファムはなんて言われようと、ルシエル達を帝国なんかに引き渡したくない!」


「それは僕だって同じだよ! だけど、何かが起きているんだよ! 陛下はこの国が亡ぶかもって言っていた。そういう事態に直面しているのかもしれない。だとしたら、僕達もちゃんと考えて行動しないと」


「とりあえず、ファムはアテナ達を助ける!」



 ファムは、聞かなかった。


 そして、ルシエルの声がする方へ駆けて行くとルシエルを大人しくさせようとしていた牢番のドワーフを後ろから殴りつけて気絶させた。



「ぐほっ!」


「うおー!! 助けが来た!! こっちこっち! 助けてくれ!! 縛られて動けないんだ!!」


「わあ、ミューリにファム! 助けに来てくれたんですね! 早く私達を、この牢から出してください!!」


 ワウウウッ



 ルシエルちゃんにルキアちゃん、それにカルビも無事だったようだ。良かった。でも、3人とも首には魔法などを発動する事ができなようにする特殊な囚人用の拘束具がはめられていて、その身体は縄でぐるぐるに縛られていた。


 カルビまでもがそうされていて、縄で必要以上にぐるぐるにされている。そして一生懸命に脱出を試みて動くさまは、まさに芋虫のようだった。ルシエルちゃんも、よほど暴れたのが、同様に芋虫化している。大きな芋虫と小さな芋虫がユッサユッサ動いている。


 こんなシリアスな場面で笑ってはいけない。そう思ったのに、ファムが我慢できず吹き出して笑った。



「ップ!! アッハッハッハッ!!」


「ちょっと、笑っちゃ悪いって、ファム。アハハハハ」


「こら!! ミューリ、ファム!! 笑ってないで、助けろよ!!」


「もうっ! 必死なんですよ! こんなにぐるぐるにされてしまって、自由に動けないです!」


 ワウウウウウン!



 必死になるルシエルちゃん達のその芋虫姿は、更に笑いを誘う。


 やっぱり……


 やっぱり、皆でいるのは凄く楽しい。今はそんな事を考えている場合じゃないのに、ひしひしとそう感じる。このメンツにアテナちゃんを加えて、皆で冒険した事や地底湖でやったキャンプなどをした事を思い出す度に、またそれができれば凄く楽しいだろうなって思う。


 これからも皆と一緒に色々な冒険をしたい――――


 僕は笑うのを必死に我慢し、ファムと一緒に牢番から鍵を奪い取って牢扉を開けた。


 中に入ると、3人に付けられていた拘束具の鍵もあったのでまずそれを使って外し、縄を解いた。


 ルシエルちゃんが背伸びをするなり、軽くストレッチをしして気合を入れた。



「よっしゃ! それじゃ、助けも来た事だし、いっちょアテナを助けに行くか!」



 ルシエルちゃんがそう言うって事は、アテナちゃんはここには囚われていないってこと? それじゃあ、いったい……



「この城の7階、一番奥の部屋にアテナは捕らえられていますわ」



 誰⁉ 


 振り返ると、そこにはシャルロッテが立って、こちらの成り行きを見ていた。



「シャルロッテ!!」



 僕やファムだけでなく、ルシエルちゃんやルキアちゃんも声をあげる。予期せぬ彼女の登場に驚いている。



「アテナがドルガンド帝国のヴァルター将軍に、帝国へ連れ去られるのは明日の予定。ですが、今城内はガラード殿下の息のかかったドワーフ兵達があなた達を捕えようと大騒ぎしていますわよ。ですから、助け出すなら、急いだ方がいいですわ」



 シャルロッテは、アテナちゃんの居場所だけでなく、城内の状況も伝えに来てくれた。皆の事を、案じてくれているのだと思った。


 そして、彼女も僕達と同じくルシエルちゃん達を助けに来てくれた様子だった。ルシエルちゃん達の弓矢や太刀など、武器を持ってきてくれている。


 もちろん、アテナちゃんの『ツインブレイド』やマントもある。それをルシエルちゃんとルキアちゃんに手渡す。すると、ルシエルちゃんがシャルロッテに抱き着いた。



「ありがとうな、シャルロッテ! お前にも立場があるだろうにな! うんうん」


「ええ、立場はあります。ですが、友達を放ってもおけませんわ。それより、本当に急いだ方がいいですわよ。アテナが連れ去られるのは明日。騒ぎも起きてますし、用心してアテナを他の部屋へ移す可能性もありますわ……そうなれば、ヴァルター将軍がアテナに何をするか解りませんし。だから……」



 そう言って、シャルロッテは鞭を取り出しそれを僕の腕目掛けて放った。



 バシイッ



 シャルロッテの鞭が、僕の腕に巻き付く。僕は驚いて声をあげた。ルシエルちゃん達も同じ様子。



「え!? これってどういうこと!?」


「ルシエルが言ったように、わたくしにもお父様の補佐としてこの国に来た責任と立場がありますわ。でも、皆さんの友人としても役に立ちたい思いがある。解ってくださるかしら」


「……シャルロッテ。君も大変だね。解った、ありがとう」



 ニヤリと笑うシャルロッテ。彼女の使う鞭は、暴れまわる蛇のように、この通路を駆け巡り襲い掛かって来た。


 僕はルシエルちゃんと顔を合わせると、ファムやルキアちゃん、それにカルビと共に5人で一斉にシャルロッテに襲い掛かった。


 彼女にも立場がある。僕達も、彼女の精一杯の優しさに応えなきゃ! それなら彼女の思いを汲んで、彼女の立場を守らないと!!



「オーーーーホッホッホッホ!! 多勢に無勢とは申しますが、このシャルロッテ・スヴァーリの鞭から、そう簡単には抜けられませんわよ!!」


「それはどうかな!」



 僕達5人とシャルロッテは、地下牢のあるこのフロアでぶつかった。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナの仲間であり親友。いつもアテナに対しライバル意識を燃やしているが、ローザやチギーやファムに対してもその闘争本能を見せる熱い性格。無頓着でお調子者だが、ここぞという時の彼女は驚く程頼りになる。

装備武器:太刀『土風』 ナイフ アルテミスの弓


〇ルキア・オールヴィー 種別:獣人

アテナの仲間で、師弟関係であり姉妹のようでもある。アテナの事を尊敬しており、同じように強くて優しく、人を助ける事ができる大人になりたいと思っている。真面目な性格で、いつも勝手な行動をするルシエルに目を光らせている。最近は、ルシエルに反撃されてくすぐり地獄にされたりする。だけど、ルシエルを更生させる為には諦めない。

装備武器:太刀『猫の爪』 破邪の短剣


〇カルビ 種別:魔物

ルシエルの使い魔であるけれど、アテナ一行の大切な仲間。人の言葉をしっかりと理解しており、その判断能力の高さからもウルフの亜種と思われる。ルキアと一緒にコンビを組むことが多いが、最近はその息もぴったりに合ってきた。干し草のいい匂いがするらしく、アテナの隠し事の一つにこっそりとカルビに忍び寄ってその頭や、お腹に顔を埋めてスーハースーハーするというものがある。


火球魔法(ファイアボール) 種別:黒魔法

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。

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