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第390話 『拘束された王女』




 ――――クラインベルト王国の第二王女。アテナ・クラインベルトをドルガンド帝国のヴァルター・ケッペリン将軍へ引き渡す。謁見の間で、ガラハッド様はそう決めたのだという。


 なぜ? そんな事を……


 ガラハッド様は、僕とファムに経緯を話してくれた。


 まず、ガラハッド様と僕達で計画をしたグライエント坑道の破壊は成功した。鉄鉱石やミスリル、クロム鉱石などこれまで大量に採掘していた採掘場は、全て使用不可能になった。


 それによって、これまで帝国及び公国へ送り届けてきた夥しい量の鉱物資源の輸出はストップ。それでも、当初これ位の量を手に入れたいと考えていた鉱物資源の量の確保は達成していたようで、これで帝国と公国のノクタームエルドでの採掘作業は中止となった。


 帝国、公国との親交に槌力したガラード殿下とドワーフの王国については、これで帝国と公国は軍事的に侵略はしないと約束をした。しかし、それは書面を交わしている訳でもなく口答でのこと。


 そしてそれはドルガンド皇帝との直接的なやり取りではなく、あくまでも鉱物資源の収集確保を命令されてきているヴァルター将軍とのことなので、当面ではという事だが……


 それでも、ドルガンド帝国の隣国であるノクタームエルドとしては、その約束は当面であっても大きい物だった。約束が当面であっても時間を稼ぐ事ができれば、ドワーフの王国側もそれに備えて準備ができる。


 更にこれで、ガラード殿下と帝国のヴァルター将軍、そして公国のルイ・スヴァーリ伯爵との間に友好のパイプラインが出来上がったのだ。


 しかし、それはガラード殿下が思っているだけで、実際は違うかもしれない。両国の使徒に手の上でいいように転がされているかもしれない。


 ガラハッド様はそれらの先を読み、これからまた隙をついて侵略してくる可能性が高い帝国や公国を迎撃し、跳ね返す策を考えていた。


 しかし、いずれにせよ時間は必要だという事。僕は、その話を聞いてはっとした。



「も、もしかして、これからその侵略戦争を喰いとめる為の戦争の準備をする……時間を稼ぐために、ヴァルター将軍にアテナちゃんを差し出したんですか?」



 ガラハッド様は俯いた。頷きはしていない。つまり他に理由がある。



「ミューリ、ファム。解ってほしい。ガラードのやっている事は間違いだ。しかし、この国がドルガンド帝国に侵略されないように、ガラードのしている事がその役に立っている事も事実なのだ。グライエント坑道の破壊は、これで良かった。しかし、お前達がそこに向かって計画を遂行してくれている間にも、状況は変わったのだ。変わってしまったのだ!! 余には、このドワーフの国を……ノクタームエルド全体を守る責任と義務がある」


「そ、そんな。じゃあ、アテナちゃんは帝国に引き渡されるの? 引き渡されてどうなるの?」


「すまない。ヴァルター・ケッペリンという男。どうやら、あのアテナ王女、それにクラインベルト王国の今は亡きかつての王妃、ティアナ王妃とも因縁のようなものがある。きっとアテナ王女を自国へ連れ帰ったら……」


「聞きたくない!! そんなの聞きたくないよ!! アテナちゃんは僕らの親友だ!!」



 気が付くと僕は、火炎魔法を発動させていた。椅子やテーブルを焼く。たちまち炎が燃え上がり、謁見の間には炎と煙が広がった。


 部屋の外からドワーフ兵達が入ってくると、この状況に驚き武器を僕達に向かって構えた。しかし、ガラハッド様は捕らえよとは命じなかった。



「余が炎を見たいと、ミューリに命じた!! これは事故だ!! お前達、すぐに消化をせよ!」


「御意!!」



 武器を向けていたドワーフ兵達は、そう聞くと警戒を解いて水を汲みに走ったりと、消火活動に専念し始めた。



「ガラハッド様は、アテナ王女達の気持ちを裏切りました」


「そうだ。しかし、それはこの国を守る為。それは、何事にもかえられん。義理人情だけでは、国を救えない場合もある。人々の上に立つものは、ときに苦しい決断に迫られる場合があり、それと向き合わねばならん」


「くっ……」



 公国は兎も角、帝国はどちらにせよこの国を侵略しようとしている。ガラード殿下はその事をあまく見ている。ガラハッド様はそれに気づいているが、それ以上の何かに追い詰められている様子。


 僕は、もう一度ガラハッド様からその何かを聞き出そうとした。それを知らずして、とてもアテナちゃん達の事を帝国に突き出すなんて、できるはずがないしする気もない。


 ガラハッド様に、その事を問いただそうとしたその時だった。


 ファムが物凄い勢いで謁見の間を飛び出ていった。きっと、ファムは捕らわれているアテナ達のもとに向かったのだろう。



「ミューリ! アテナ王女を拘束したのは、帝国のヴァルター将軍だ。アテナ達がグライエント坑道を無事に脱出した所で、捕らえたと彼から聞いた。余は、そのヴァルター将軍が拘束したアテナ達を守る為に、彼にそういう勝手な事をさせまいと、一度アテナ王女を彼から奪い返し幽閉したのだ。それしか、アテナ達を助けるもっともらしい手はなかった」


「友達を救ってくれてありがとうございます、ガラハッド様。でも、そうやって助けたアテナを、またあのヴァルターという将軍に引き渡すのですね」


「そ、それは……それは仕方のない事なのだ。余もあらゆる事を考えてみたが、その上での苦肉の決断だ。アテナ王女を引き渡さないと、この国は亡ぶかもしれない」


「とりあえず、ファムを止めに行ったあと、一緒に一度アテナのもとに行き、彼女に会います。それで、どうするかを考えます」



 ガラハッド様は、待てと言わなかった。てっきりそう言うと思ったのに……それ程、ガラハッド様も苦しい選択を迫られたという事なのだろうと思う。


 僕は、急ぎファムの後を追った。

 


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