表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

389/1358

第389話 『苦肉のガラハッド』 (▼ミューリpart)





 ――――ドワーフの王国。


 城に戻ると、陛下が何者かと謁見をされていた。


 城内の兵にその事を聞くと、陛下はドルガンド帝国の将軍……そして、ヴァレスティナ公国のルイ・スヴァーリ伯爵と陛下はお会いになっているようだった。


 帝国と公国が、同時に陛下に今謁見しているという事で、グライエント坑道を爆破して採掘場を使用不可能にした事に関しての事だと直ぐに察した。


 陛下と僕達の計画は見事に成功したかに思える。だけど、わざわざ帝国の将軍がこのドワーフ王国にやってくるとなると、何か良からぬ事態になろうとしているのではと考えてしまう。


 それにグライエント坑道を爆破してから、アテナちゃんやルシエルちゃん、そしてルキアちゃん達も行方不明になっていた。きっとアテナちゃん達の事だから、無事でいるとは思うけど――心配……


 今、謁見の間にはルイ・スヴァーリと共にその娘である、シャルロッテも来ているという。


 だとすると、アテナちゃん達だけがあの爆破でもしも逃げ遅れて、生き埋めになってしまったとかそういう事も考えられない。それに、アテナちゃん達がそうなるとは、どうしても思えなかった。


 でも、グライエント坑道からこのドワーフの王国に未だあれから戻ってこないとなると、アテナちゃん達の身に何かが起こっていると思わざるおえなかった。


 陛下に話をきけば解る。帝国と公国が今、陛下と話している内容を聞けばきっと何か解る。そう思った。だけど、謁見の間は閉じられている。話を終えるまでは、他の者は謁見の間には入ることが許されないとのことだった。


 ガラード王子の顔が過る。


 陛下の身に何も起きていなければいいけど……


 謁見の間近くでそう思っていると、同じ風に考えていただろうファムが言った。



「ミューリ。ここで、待つしかない。陛下に何かあれば、ファム達が謁見の間に飛び込めばいい。ファムの風属性魔法とミューリの火属性魔法があれば容易い」


「そうだね。とりあえずは、もう少し待ってみてそれからアテナちゃんの事も含めて、陛下に直接聞いてみよう」



 今はそれしかないし、陛下の思い通りに事は進んでいる。グライエント坑道は見事に破壊し、使えなくする事ができたのだから。


 ――――暫くして、謁見の間の扉が開いた。


 中からドルガンド帝国とヴェレスティナ公国の者達がぞろぞろと出てくる。ガラード殿下、シャルロッテにキョウシロウ。それにドルガンド帝国の軍人達。マントの偉そうな男は、おそらく帝国の将軍。


 シャルロッテとは、一瞬目があった。だけど、彼女は何か暗い表情ですぐに視線を外して立ち去って行った。いったい何が……


 ファムと顔を見合わせると、二人で謁見の間に入った。すると、陛下が僕達の方を見て立ち尽くしていた。



「へ、陛下!!」



 僕達の姿を目にとらえると、陛下の口元が緩んだ。



「今はここに三人だけだ。陛下では無く、ガラハッドと」


「はい、ガラハッド様」


「ガラハッド様」



 ファムも僕に続けて言った。僕は陛下に報告をする。



「もうギブンか他の者から聞いているかもですが、グライエント坑道の爆破及び破壊は成功しました。これで、公国は鉱物資源の採掘を継続する事は不可能でしょう。でも、協力してくれたアテナちゃんやルシエルちゃん、そしてルキアちゃんの姿がその後見つからなくて……」


「そうか。そうだろうな」



 ガラハッド様は何かを知っている。口ぶりからそうだと解る。



「ガラハッド様は、アテナちゃん達がどうしているのか知っているのですか? 皆、無事なんですか?」


「ファムからもお願い。ガラハッド様、教えてほしい。アテナ達は、ファムとミューリの大切な友達」



 必死に縋るようにガラハッド様に訳を聞く。ガラハッド様は、悲しい顔をすると謁見の間にある、先程帝国や公国の者達と会談していた時に使用していた椅子を見て指した。僕達に座れと――


 ガラハッド様がそうして椅子に座られると、僕達も座った。



「アテナはな……いや、アテナ王女とその仲間達は、今この城の中に幽閉しておる」



 幽閉!? その言葉に耳を疑った。なぜ? この計画は、ガラハッド様と僕らがしくんだ計画。ガラード殿下の目を覚まさせる為、この国と殿下をいいように利用しようとする公国や帝国にぎゃふんと言わせるために仕組んだ事。僕達が仕組んだはず。


 アテナちゃん達は、それに手を貸してくれた。首謀者でもないし、この計画はこの国の国王陛下自ら下された。アテナちゃん達が幽閉される理由はなにもない。むしろ、この国の問題に巻き込まれた立場なのに。




「ミューリ、ファム。なぜ、アテナ王女を幽閉しておるのかと怒っておるだろう」


「お、怒ってはいないです! ガラハッド様! ですが……」


「怒っている! ファムは怒っている!! ミューリも内心は怒っている!! ガラハッド様は、ファム達やこの国の為にと力を貸してくれたアテナに恩を仇で返した。でもファム達は、ガラハッド様の事を父親だと思っている。だから、アテナ達にしたことは、それなりの理由があると信じたい。理由を教えてほしい!」



 こら、ファム!! ……なんて言えなかった。内なる思いは僕も同じ気持ち。ガラハッド様には、忠誠を誓っているし父親のようにお慕いしている。だけどアテナちゃん達は、もう僕達の親友。だから……


 ガラハッド様は、僕とミューリの方を見つめると、頭を下げた。



「すまん、ミューリ。ファム。余が不甲斐ないせいで……」



 ガラハッド様が、僕達のようなただの冒険者に頭を下げた。僕とファムは、驚いて慌てて駆け寄る。座っていた椅子が大きく音を立てて転がった。



「陛下!! そんな……頭をあげてください!!」


「ファムとミューリは、ガラハッド様の為に尽くしたい。この国の平和の為に尽くしたい。それがガラハッド様に貰った恩を返す事だと信じている。その気持ちは、決して変わらないから。だから、教えて欲しい。何があったの?」



 ガラハッド様は、宙を見上げるとまず一言呟いた。


 アテナ王女を、ドルガンド帝国へ引き渡すと。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ミューリ・ファニング 種別:ヒューム

ノクタームエルドを中心に活動し、ドワーフ王に忠誠を誓うマッシュヘアの可愛い少女。赤い髪が特徴的で、火属性魔法を得意とする。さっぱりした性格で、温厚。ロックブレイクでアテナ一行と出会い、それから友達になった。ドワーフ王国まで行動を共にする。


〇ファム・ファニング 種別:ヒューム

ミューリの妹で、ミューリと同じくドワーフ王に忠誠を誓うマッシュヘアの可愛い少女。緑色の髪が特徴的で、風属性魔法を得意とする。無口な性格のようで、好きな事になると饒舌になるし負けず嫌い。アテナ一行と知り合ってからは彼女達と友達になる。ルシエルとよく張り合っている。また博識でノクタームエルドの事をよく知っている。


〇ルイ・スヴァーリ 種別:ヒューム

ヴァレスティナ公国の伯爵。公国と使者としての役割と、グライエント坑道で採掘する鉱物資源の輸送を円滑に進める為にドワーフの王国にやってきている。


〇シャルロッテ・スヴァーリ 種別:ヒューム

ルイ伯爵の娘で、鞭使い。金髪縦巻ロールがチャームポイントで、いかにも貴族令嬢という感じだが、その心は優しくて友達思い。アテナ一行やミューリ達と良い友人となる。


〇キョウシロウ 種別:ヒューム

アテナ一行がロックブレイクで知り合った侍。以前恩を受けてそれを返すべく、ルイ伯爵の用心棒になっている。


〇ヴァルター・ケッペリン 種別:ヒューム

ドルガンド帝国の将軍。かつてアテナが幼い頃にアテナとその実母のティアナ王妃を誘拐しようとした事からアテナとは因縁がある。アテナにティアナの面影を見て、連れ去ろうと目論む。


〇ガラハッド・ガザドノルズ 種別:ドワーフ

ドワーフの王国の王で、ノクタームエルドを統べる者。ミューリやファムに対する信頼は絶大で、強い結びつきがある。何よりも国と平和の事を考えている。


〇ガラード・カザドノルズ 種別:ドワーフ

ドワーフ王国の王子で王位継承者。粗暴な性格、ドルガンドとヴァレスティナとの三国同盟を目論む。自国を強国にする為に手段を選ばない行動は父、ガラハッド王の悩みの種。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ