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第388話 『戦いは始まったばかり』





 私は、テントに入るとレティシアさんと一緒に毛布にくるまった。


 毛布はレティシアさんの所持していた1枚だけ。私が今、真っ裸なのでこの毛布を羽織らせてもらっていたけど、これがないとレティシアさんは何もかけるものがない状態で眠らなくてはならないので、一緒に同じ毛布を被って寝た。


 横になると、酔っぱらっている事をいい事に、私はレティシアさんに思い切って抱き着いてその胸に顔を埋めた。優しい温もりと香り。なぜだか、また涙が溢れてくる。


 それに気づいたレティシアさんが、私の頭を優しく撫でてくれた。まるで、我が子をあやすように。



「いい子ね、いい子いい子。テトラちゃんは、本当にいい子ね」


「……うん



 子が母親に甘える様に言った。レティシアさんからは、本当にいい匂いがした。優しくて安心する匂い。



「テトラちゃんは、今までずっと色々な事を我慢して頑張っていたのね。えらいわ。本当にテトラちゃんはえらい。うんと、誉めてあげなきゃね」


「……うん、誉めてくれると嬉しい……」


「ウフフフ。大きな甘えん坊さんなのね、テトラちゃんは」


「うん」



 自分でも、びっくりする位にレティシアさんに甘えてしまっていた。恥ずかしいけど、こんな私にも優しいママがいるみたいでなんだか嬉しい。お酒の飲みすぎで朦朧としている。だから、思い切ってこんな事が聞けた。



「あの……」


「うん? なに?」


「い、今だけ……今だけお母さんって言っていい?」



 そう言って恐る恐るレティシアさんの顔を見上げる。すると、彼女は今までに無い位の満面の笑みをしていた。



「ウフフフ。本当にテトラちゃんは、甘えん坊さん。いいわよ。ずっと、お母さん……ママって言ってもいいわよ」

 

「ありがとう、ママ……」



 そう言って、再びレティシアさんに抱き着いた。裸なので、すぐに解ったけれどお腹の辺りに、モフモフとしたものが当たった。アローが、そこで私とレティシアさんに挟まれているのだと思った。


 母親に甘えるってこういう感覚なのかな。そう思いながらも、レティシアさんに抱きしめられていると、いつの間にか眠ってしまっていた。


 遠のいていく、意識。その中で、私は妹の顔を思い出した。彼女は今、何処で何をしているのだろう。






 ――――翌朝。


 起きると、裸だったので驚いた。でも、すぐ服を洗って乾かしていた事を思い出す。


 テントから顔を出すと、空は快晴で森の中は物凄い沢山の木漏れ日に包まれていた。鳥の声。あれだけ恐ろしかった暗闇に包まれた森が、今日の朝は穏やかに見える。



「おはようございます。やっと起きたか。でも、ぐっすりと眠れたようで良かったよ。君は甘えん坊にして、なかなかのお寝坊さんだね」



 アロー。人と会話する事のできるボタンインコ。そして、レティシアさん。



「あっ。おはようございます、レティシアさん」



 私は毛布に身を包んでテントから外へ出た。



「ウフフフ。もうママと呼んでくれないのね?」



 どきりっ!



 満面の笑み。私は昨日の出来事を思い出して、恥ずかしくなりレティシアさんの顔から目を逸らした。すると、レティシアさんは私の口に何かを押し込んだ。噛んでみる。


 むっぐむっぐむっぐ……美味しい!



「昨日作った燻製肉よ。これをパンに挟んで……あと、卵焼きを作るからそれで朝食にしようかなって思って。テトラちゃん、好きでしょ? そういう料理」


「はい、ありがとうございます。私にも何かできる事がありますか?」


「そうね。じゃあ、もうあなたの服渇いているから、それを着たら毛布とテント、畳んでくれるかしら」


「はい! 解りました」



 服はもう渇いている。良かった。ずっと、あれから裸なので落ち着かなかった。しかも、昨日は裸のままレティシアさんに抱き着いて眠ってしまったので、まるで自分が赤ちゃんになってしまったような感覚だった事を思い出し、再び赤面する。


 下着を身に着け、いつものメイド服を着るとレティシアさんに頼まれた事、テントと毛布を畳んでまとめた。



「ありがとう、テトラちゃん。それじゃ――はい、どうぞ」



 レティシアさんはそう言って、私の目の前に朝食と淹れたての珈琲を置いた。この人は本当に優しくて理想のお母さんのように思えた。



「ありがとうございます、頂きます」


「はい、どうぞ。ウフフフ。やっぱり、朝はパンと珈琲が合うわよね」



 昨日レティシアさんが作ってくれたペリュトンの燻製肉、それをパンで挟んで焼いたサンドは最高に美味しかった。珈琲も美味しい。


 朝食を食べ終わると、私はレティシアさんに改まって聞いてみた。



「私、このままじゃきっとこの国の為に役に立てないと思います」


「どうしてそう思うのかしら?」


「この森に生息している猿達にすら、散々にやられました。こんな私じゃ、あの盗賊集団『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』どころかあの猿達にだって勝てない。モロロント山でも、私より強い盗賊に何人も会いました。覆面女剣士とその連れの先生と呼ばれていた剣士。巨漢ホルヘットと、双子の姉妹。レティシアさんがいなければ、きっと彼らに負けていました。だから、レティシアさんに、もっと強くなれる様に稽古をつけて頂きたいのです。駄目でしょうか?」



 思い切って言って見た。すると、レティシアさんは困った顔をした。



「うーーん、テトラちゃんなら稽古をつけてあげるというのもかまわないけれど、仲間はいいの? あなたの仲間は今、このメルクト共和国を取り戻す為に、敵と戦う為テラネ村へ向かっているんじゃないの?」


「はい。でも、このままじゃその敵に勝てないんです。大切なものを守れない。それじゃ、駄目なんです。今、私の仲間が私と合流する為に、トリケット村へ向かってきているんです。セシリアと言う親友と、ローザと言うクラインベルトの騎士団長です。彼女達がトリケット村へ辿り着くまででいいので、レティシアさんに稽古をつけて頂けないでしょうか」



 ボーゲン、メイベル、ディストル、ミリス、アレアス、ダルカン。それに、ビルグリーノさんにマルゼレータさん。そして、コルネウス執政官。


 皆は今、首都グーリエを奪還する為に仲間が集結しているテラネ村へ向かっている。


 私は、リーティック村からトリケット村に向かって来ているセシリアとローザと合流してから皆に追い付く考えだ。だから、そのセシリア達がトリケット村へやってくる間……その間だけでも、少しでも私自身成長しておきたいと思った。


 そう、あのローグウォリアーとビーストウォリアーという賊も必ずまた襲って来る。そしたら、次は倒したい。



「解ったわ。それなら、可能な限りでだけど稽古をつけてあげましょう」


「あ、ありがとうございます!! レティシアさん!!」



 私はセシリア達と後に合流できるように、セシリア宛の手紙を早速書いた。これをトリケット村のセシリアが気づきそうな場所に置いておけば、無事合流を果たせるはず。


 とりあえず、まずはもっと今以上に強くならないといけない。そうでないと、今の私じゃメルクト共和国は救えない。


 この国を救うまでの道のりは始まったばかりなのかもしれないと思った。




「ところでレティシアさん。一つ聞いてもいいですか?」


「なにかしら?」


「い、今更なんですが、なぜこんな私にここまでしてくれるんですか?」


「ウフフフ。そうね。……テトラちゃんがとっても可愛らしくて、一目見た時からまるで私の娘みたいだと思ったからかしらね?」



 そう言われて、酔っぱらっていたとはいえ、レティシアさんにママと言った事や、あまえていた事を思い出して顔がまた真っ赤になった。穴があったら、入りたい。そんな気持ち。



「それと、そうね。あなたのその槍術……というか、棒術? それが私の使うものと凄く似ているからかしらね。そういうのって運命的なものを感じるのよ」



 私の戦闘技術は、全てモニカ様から習ったものだった。それを思い出した。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇モニカ・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国第一王女。アテナやルーニ、エドモンテの姉。現在は王国の北方でドルガンド帝国の軍事侵攻を見張っている。以前王宮にいた頃は、テトラと仲良くなりテトラに武術を教え込んで自分の練習相手としていた。師匠のヘリオス・フリートやクラインベルト王国最強の剣士ゲラルド・イーニッヒにもその才能を認められた。

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