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第383話 『小鬼のアクセサリー』




 薪が置いてあった場所に置かれていた紙。それを読むと、薪を持ち去ったのはレティシアさんだという事が解った。


 まったく気づかなかった。しかも、気になるのはレティシアさんは私とあの猿達とのやり取りを見ていたのだろうかという事。でも、今それを考えてもしょうがない。後で、本人に聞いてみれば解ることなのだから。


 そしてレティシアさんの残した手紙の内容。それには、こんな事が書かれていた。


 


 テトラちゃんへ。


 薪集め、ご苦労様。でも、いつまでもこの森のお猿さんと遊んでいちゃだめよ。もうあと何時間かで暗くなるわ。それまでに、晩御飯を取ってきてください。集めた薪は、私がキャンプまで運んでおくから。そうそう、あとお肉、期待しています。


 あなたのレティシアより。



 

 私は、土まみれになったメイド服を払うと、大きく溜息をついた。すると、肩にとまっていたアローが、私の頭の上に移動して言った。



「大丈夫、心配はいりません。僕がお手伝いしますよ」


「ほ、本当ですか?」


「ええ、もちろん。こう見えても、僕はナビゲートなど得意ですから」


「ナ、ナビゲートですか?」


「ええ。だって、その手紙に書いてあるでしょ? お肉取りに行くんですよね? それなら、お手伝いできると思いますよ。この森に生息している魔物等は、だいたい把握していますからね。……一応聞いておきますが、お猿さんは食べませんよね」


「お、お猿さんは食べません!!」


「そう、良かった。じゃあ、あちらへ行きますか。あちらへ行けばグレイトディアーやビッグボアも生息しているようですし」



 グレイトディアーは、鹿の魔物。ビッグボアは、猪の魔物。どちらも追いつめられると危険な魔物。だけど、確かに味は美味しい。



「だ、大丈夫でしょうか?」


「は? 何が?」

 


 私は自分で作った棒と、石のナイフをアローに見せた。



「私の武器と言えば、これだけです。涯角槍(がいかくそう)という、一級品の槍を持ってはいるんですが……それは、この手紙を書いたレティシアさんと言う人が預かっていて……あれがあれば、もっと確実に狩れると思うんですが」


「それならさっき、弓矢や槍を持つゴブリンを見ましたよ。追い掛けてみますか?」


「え? 私……というかレティシアさんだってゴブリンなんて食べないですよ」


「ハハ、知っています。まあまあ物は試し、付いてきてみてください」



 アローはそう言うと、私の頭上から飛び立って何処かへ向かって飛んでいった。慌てて後を追いかける。


 森の中を駆けること10分もしない場所で、アローは木にとまった。



「ま、待ってくださーい!!」


「シッ! 近くにいる。あまり、大声をあげないでください。ほら、あそこ」



 見ると、そこにはゴブリンがいた。5匹。しかも、集まって何やら話している。


 更によく見てみると、ゴブリンが囲んでいるその場には、翼のついた変わった鹿が横たわっていた。身体には、何本かの矢が刺さり槍も刺さっていた。出血から見ても、もうあの翼のある鹿は助からないだろう。



「あ、あの鹿、翼が生えていますね」


「あれはペリュトンですね。翼の生えた鹿。この辺には、生息していない魔物だけど幸運が舞い込みましたね」



 アローの幸運が舞い込みましたねという言葉で、はっとした。アローが、ゴブリンに目を付けていた理由。それがこれだと気づいた。


 ペリュトンが手に入るとまでは、知らなかったにしても、アローはゴブリンが狩った獲物を初めから横取りするつもりだったようだ。


 漁夫の利とでもいうのだろうか。でも、折角獲物を狩る事ができたゴブリンを倒して、奪うのはどうも気が引ける。


 だけど、前にも同じような事があった。セシリアと負傷したローザと別れ、トリケット村を目指していた時にゴブリンの軍団に目を付けられ襲われ続けていた時。あの時、私達を襲いにきたゴブリン達が仕留めた鹿を私は横取りした。



「色々考えているね。何が正義で何が悪かっていう道徳的な事かな? でも、どちらかというとあのゴブリンは倒すべきだと思いますがね。見えますか? あのゴブリン達の首飾りや腰につけているアクセサリーが?」



 アローのその言葉にゴブリン達を見る。すると、ゴブリン達が身に着けている首飾りなどから血が滴っていた。


 飾りは、宝石などではなく、人間の鼻や耳、目玉が飾りとなっていた。私はそれを直視すると吐きそうになった。



「うっ……」


「ちょっとちょっと……吐いてもいいですが声をあげてはいけませんよ。このまま気づかれずにいれば、不意打ちが成功しますからね。こういう多人数を相手に戦う場合、不意打ちが一番効果的で且つ合理的なのです」



 まだ、気持ちがざわついている。あのゴブリン達は人間を襲った所だ。アクセサリーにしている人間のパーツがまだ新しく、血が滴っている事からそれが推測できる。



「人間だって狩りをする。魔物だって同じ。だけど、ゴブリンは楽しんで人を殺す。時間をかけて、残虐に死に至らしめ愉悦に浸る。彼らの生きざまは、まさに醜悪で残忍極まりない。世の中には、優しく穏やかな魔物ももちろん存在するが、ゴブリンという魔物ではその例を聞いたことがない。ここで、奴らを成敗して獲物をぶんどったとしても、何も問題はないでしょうな? それにこのまま、この魔物達を野放しにしても、また人間を襲うだろうしね。しかもゴブリンは、女子供や老人と弱い人間を優先的に狙う習性がある。……君次第ですが、どうしますかテトラ?」



 アローの言葉に私は、俯いていた。



「テトラ?」


「う、うおええええ……」


「テトラ! 大丈夫ですか!?」



 次の瞬間、胃の中の物を嘔吐してしまい、ゴブリン達に気づかれた。私はすぐに棒を握って、それを向かってくるゴブリン達に突き刺した。技は無い。力任せな攻撃だった。


 ゴブリン達を倒し終えると、彼らの身に着けていたアクセサリーを全て外して、土に埋めた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ゴブリン 種別:魔物

小鬼の魔物。人間の子供位の背丈の魔物だが凶悪。複数で行動している事が多く、手には様々な粗悪な武器を持ち、人間や動物を襲う。天敵は冒険者。


〇ペリュトン 種別:魔物

翼の生えた鹿。草食で、捕食者に狙われ危険を察知すると、翼を使って大空へ羽ばたいて逃げる。その肉は美味だが、空へ逃げる上に遭遇する確率も少なく肉やなど素材と共に希少価値が高い。


〇人間のパーツで作ったアクセサリー 種別:装飾品

ゴブリンなど人型の凶悪な魔物が人間を襲い、作り上げる。身に着けている事でそれを目にした人間が恐怖する事を彼らは知っている。

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