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第379話 『交わした約束 その5』




 ――――トリケット村から、およそ1時間歩いた先にある森。そこで、私とレティシアさんは、二人でキャンプをする事となった。


 キャンプと言えば、ルーニ様を救出する為にセシリアと共に旅立った、あの時の事を思い出す。最初はキャンプなんて言えた代物では無かった。あえて言うなら、野宿。でもあれはあれで懐かしい思い出。


 それからも何度かキャンプをする事はあったので、次第に慣れていった。むしろ、そのキャンプ自体もなんだか楽しいと思える程になってきた。


 キャンプをしている時は、なんだか特別な時間を過ごしている感じがする。だから、セシリアやマリンとキャンプメインで楽しんだ事もあった。


 そう、旅を続ける為に必要な事だったので初めは仕方なくやってはいたけど、いつも間にかキャンプする事に私もセシリアも楽しさを見出していたのだ。


 だから……


 だから、レティシアさんのテントを設置する事くらい、一人でも余裕でできると思っていた。だけど、実際には苦戦している。


 レティシアさんのテントは、なんとなく高額ないいものの感じがするけど、少し組み立てが複雑と言うか私の使用していたものと異なっていて、なかなか上手に設営する事ができない。


 レティシアさんは、椅子代わりになりそうな近くの石に腰を降ろすと、テント設営に悪戦苦闘する私の姿を眺めては、楽しそうに微笑んでいた。


 なんとか、一人でテントの設置を終える。



「はあーー! な、なんとか設営できました!」


「まあ、流石はテトラちゃん。上手にテントを設営できたわねー。えらいわ。それじゃ次は、焚火の準備ね。上手にできるかな?」


「うっうー。ちょ、ちょっと休んでもいいですか?」



 そう言うやいなや、レティシアさんはこれ見よがしというか、わざとらしく悲しそうな顔をして見せる。そして私にギリギリ聞こえる程度の小さな声で呟く。



「私はテトラちゃんのお手伝いするって約束を守ったのに、テトラちゃんは約束を守ってくれない……今日一日は、私の言う事をなんでも聞いてくれるって言っていたのに……」


「えええーー、そ、そんな!! 解りました! 解りましたから!」



 直ぐに謝ると、レティシアさんも直ぐに笑顔に戻った。こ、これは大変な事になってしまったと思った。コルネウス執政官救出の助力を願った代償は、大きい。


 とりあえず、あれこれ考えていても仕方がない。次は焚火。そうなると、薪が必要だから、取ってこなくちゃならない。



「それじゃレティシアさん。私、ちょっと薪を集めてきますね」


「あっ、ちょっと待ってテトラちゃん」


「え? なんですか?」


「逃げたりはしないと思うのだけれど、一応その涯角槍(がいかくそう)を置いていって頂戴」



 え? 何を言い出すのかと思った。メルクト共和国自体、来るのは初めて。だから当然、ここの森の事も知らない。


 森と言えば、この位の規模のものになると少なからず危険な魔物も生息していると思う。なのに、レティシアさんは私に、この涯角槍(がいかくそう)を置いていけと言ったのだ。



「そ、それは、ちょっと……」



 すると。レティシアさんはまた悲しそうな顔をした。



「だだだ、だって、これがないと私、魔物に襲われたら戦えませんよ! ナイフしかないですよ!」


「あっ、そうそう。ナイフも置いて行ってね。っていうか、テトラちゃんとのキャンプが明日終了するまでね。武器になりそうなものは全て私が預かるから。ウフフフ、そんな心配そうな顔をしなくてもきちんと後で返すわよ」


「えええええ!! そんなああ!!」


「ウフフフ、大丈夫。ボーゲン・ホイッツ君から聞いたでしょ? 私、Sランク冒険者なのよ。そんなランクの冒険者がコソ泥みたいな恥ずかしい真似しないわよー。ちゃんと責任を持って、大切に預かるわ。そして、明日必ず返すから。ね?」



 ここで問答しても、約束したのにとずっと言われそうなので、しぶしぶながらも涯角槍(がいかくそう)と、太腿に取り付けていたナイフと、荷物に入れている刃物全般にいたるまで全てレティシアさんへ渡した。



「その槍は、とても大切な槍なんですよ」


「ウフフフ。解ってる解ってる。それじゃあ、薪拾いにいってらっしゃい」


「うっうーー。本当に私に武器を持たせずに森の中へ行かせるつもりなんですね。もし、凶悪な魔物でも出たらどうするんですか? もう……怖いですよ」


「え? この森、危険な魔物なら出るわよ」


「え? 出るんですか?」


「え? そうよ。結構危険な森なのよ、ここ」



 ………………


 すぐさまレティシアさんに預けた涯角槍(がいかくそう)を掴み奪い取ろうとした。だけど、軽くかわされ投げ飛ばされた。私は草の茂みの中へ頭から突っ込む。



「駄目よー、ダメダメ。約束でしょ? テトラちゃんはそんな私との約束を反故にするような悪い子なの?」


「違いますよ!! 危険な森なら何か武器がないと、とても怖くて薪拾いに行けませんよー!!」



 見事に投げ飛ばされた私は草の茂みから顔を出すと、泣き叫ぶようにそう言った。すると、レティシアさんはまた悲しそうな顔を見せるとおもむろに、何処かへ向かおうとした。



「ど、何処かへ行かれるんですか?」


「え? だって薪は必要だから……でもテトラちゃんは私との約束を守ってはくれないみたいだし……」


「もう! 解りました! 解りましたから!!」


「そう、なら良かったわ。流石、私のテトラちゃん」



 直ぐに笑顔になるレティシアさんを見て、なんだか彼女の掌で私は転がされているような気がした。だけど、彼女の言う事は正しい。約束をしたのも事実だし、コルネウス執政官の救出に彼女は力を惜しみ無く貸してくれた。


 そう考えると、私が今彼女に言っている事は、わがままかもしれないとも思った。


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