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第378話 『交わした約束 その4』





 トリケット村からレティシアさんについてトボトボと歩く事、2時間程である森が見えてきた。


 森の近くに大きな岩があり、その前には帯刀した男が一人立っていた。いかにも冒険者という風貌。傍らには馬。


 レティシアさんは、その男に話しかける。どうやら、男は冒険者ギルドの関係者で、レティシアさんはその男にモロロント山で討伐したガルーダについての話をしていた。


 ガルーダは、火を吐く大きな鳥の魔物で、私達だけでその死骸を冒険者ギルドまで運ぶという事はできず、そのままにしてモロロント山を下山していた。


 コルネウス執政官の事もあってその時は、特にあのガルーダをそのままにしてきていいのかどうか聞く事どころでは無かったけれど、どうやら冒険者ギルドとレティシアさんとの間で話はついているようだった。


 ガルーダ討伐完了後に、冒険者ギルドからその倒したガルーダを回収する人達が向かって後程運んでくれるという手筈で話がついてきたようだった。



「いい仕事だな。流石、Sランク冒険者レティシア・ダルクだ。それじゃ、早速討伐したガルーダの回収の手配をかける。報酬はリベラルで受け取ってくれ」


「ありがとう。それじゃ、気を付けてね」



 男は馬に騎乗すると、何処かへ駆けて行った。



「リベラル?」



 初めて聞く名前に、私はそれを呟いていた。レティシアさんはその言葉を聞いてにっこりと微笑むと答えてくれた。



「交易都市リベラルよ。メルクト共和国は、今盗賊団『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』や、それに乗じて暴れまわる他の盗賊団によって混乱状態だから、冒険者ギルド自体が機能していないのよ。それで、リベラルで依頼を受注したの」


「そういえば、そう言われるとそういう名前の街があったような気もしますが……」


「ウフフフ。交易都市リベラルは、このメルクト共和国北東に位置する都市なのよ。だけど、自治都市になっていて……簡単に言うと、メルクト共和国にあってメルクト共和国ではない街なのよ。自治都市だから、リベラルそのものが一つの国みたいなものかしらね」



 つまり、メルクト共和国にあるもう一つの国っていう事かなと思った。それなら、冒険者ギルドは機能している。



「ガルーダの討伐は誰もやりたがらなくて。それで、頼まれて仕方なくてね」


「ガルーダが危険な魔物だったからですか?」



 私はもう少しで、三方向に千切れ飛びかけた。本当に死ぬかと思った。


 セシリアにもし、あんな三方向に思い切り引っ張られている私の姿を見られたらどうなることか。またからかわれる。助けてはくれるだろうけど、大笑いしてずっとその事を言い続けて、笑い転げるのだろうなと思った。



「ガルーダが危険極まりない魔物。それもあるわ。でも、このガルーダが生息しているモロロント山が今、大混乱しているメルクト共和国にあるっていうのも大きな理由ね。盗賊達が蔓延っている国だから、誰もこの仕事を受けようとはしなかったのよ。それで、仕方がなくね、頼まれて依頼を受けたの。でも、そのお蔭でこんな可愛い獣人の女の子とお近づきになれたんだから、結果オーライよね。ウフフフ」


「ヒ、ヒエ!!」



 そう言って、レティシアさんはまた私に抱き着いてきた。うっう……く、苦しい。こんな感じで明日の朝まで過ごすのだろうか。


 森の中に足を踏み入れ進んでいくと、川のせせらぎが聞こえてきた。


 するとそっちの方を目指し、渓流を見つけるとその近くでレティシアさんは、立ち止まり背負っていたザックを置いた。ザックには、テントと折りたたんだ毛布も積んでいる。



「ここがいいわ。ここにしましょう」


「ここで、キャンプするんですか?」


「ええそうよ。ウフフフ、楽しみね。これからテトラちゃんと二人っきりでこんな森の中で、明日の朝まで過ごすのね。幸せだわ。しかも今日はテトラちゃん、私の言う事をなんでも聞いてくれるんですもんね。おばさんドキドキしてきちゃう」



 言葉の意味が何なのか考えると、恐ろしくなるので聞き流した。



「さあ、それじゃ早速まずテトラちゃんに何かお願いしようかなー。なににしようかしらー」


「え、ええ……いいですよ。約束ですもんね」



 声が震えていた。



「ウフフフ。約束ですもの。私がテトラちゃんに今ここで裸になってって言ったら、その通りにしてくれるのよね。テトラちゃんにそれで、物凄く恥ずかしいポーズをとってってお願いしてもその通りにしてくれるのよね。ウフフ、だってこれは約束ですものね」


「え、ええ。約束は守ります。で、でも、できる事ならお手柔らかにお願いします」


 

 気づくともっと声が震えていた。レティシアさんの恐ろしい発言をまともに聞いて考えていたら、その約束を果たせそうになかった。だから、心は無にする。何も考えては駄目。


 レティシアさんは満面の笑みで私の身体に触れてくると、まず私の長い髪を触った。



「ウフフ、栗色の長い髪」


「ヒ、ヒイイイイ!!お、お手柔らかに!! お手柔らかにですよ!!」



 そして、耳を触る。満遍なく優しく耳を触ると、その耳の先の方を重点的に触った。寒気にも似た震え。思わず声を上げかけたけど、我慢我慢。


 レティシアさんは、私が動揺しまくっているのに気づいているのか、顔に笑みを浮かべると私の腰……というかお尻の方へ手を回す。身体を密着させて、まるで口付けを交わすように顔を近づけてきた。


 近くで見るレティシアさんの顔は、物凄く綺麗だと思った。


 でも、少し怖い。これから私、どうなってしまうのだろう……でも、約束をしたのだから、それは果たしたい。果たさないと、これから私のする約束は軽いものになってしまう。


 そんな事を考えながら、目を瞑って耐えている私の耳もとに、レティシアさんは優しく息を吹きかけるように囁いた。



「それじゃあ、まず最初の私のお願いを聞いて」


「は、はい。なななな、なんでしょうか」



 もう、どうにでもなれと思った。



「それじゃあ、まずそこにある私の荷物からテントを取り出してここに設営してくれる?」


「へ?」


「それができたら、薪を集めてきて欲しいの。水汲みは、そこに渓流があるからすぐにできるしね。それじゃあ、早速お願いできるかしら?」


「へ? え?」


「ん?」


「え? いや、だって……」


「もしかして、テトラちゃん……何か別の事を期待していた?」


「ちちちちち、違います!! 解りました!! 直ぐにとりかかります!!」


「ウフフフ。可愛いわ。よろしくお願いね」



 私は赤面した顔を隠すようにして、早速テントの設営をし始めた。


 ボーゲンがレティシアさんの事をSランク冒険者で凄い人みたいな事を言っていたし、その実力を私も目の当たりにはしたけど、どういう人なのかはまったくつかめないと思った。


 こんな調子で明日まで、私は耐えられるのかなと思うと途端に不安になった。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇交易都市リベラル 種別:ローケーション

メルクト共和国の北部にある都市で、自治都市になっている。つまりメルクトにあるが、メルクト共和国に属さない都市。例えるなら、メルクト共和国領内にある小さな国。交易が盛んで多くの商人達で賑わっている。

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