表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

377/1357

第377話 『交わした約束 その3』





「クラインベルト王国の王宮メイド、テトラ・ナインテール。そして冒険者レティシアは、この私を悪名高き盗賊団、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』から無事に助け出してくれた。それだけで、十分に役目を果たしてくれている。だから、私も彼女達にはそれに報いたいと思っているつもりだ。それに二人は、メルクト共和国を救ってくれる為に力を貸してくれている者達だ。私の部下でもなければ、私達に彼女達を縛る権限はない。むしろ、これまでの働きに感謝を示すべきだ」



 コルネウス執政官は、ビルグリーノさんやその他の周りに集まっていた者達にそう言った。ビルグリーノさん達は、コルネウス執政官の言に耳を傾けている。



「テトラ。約束は約束で果たすべきだと思うし、どうするかも君の自由だと思う。私達に君にどうしろという権利はないんだよ。しかし本心は、君の助けは欲しい。だから用事が済んだら、また君は私を助けてくれるか? このメルクト共和国を薄汚い賊共の手から救い出す事に手を貸してはくれないか?」


「もちろんです! その為に私はこの国へ来たんです。ですが、やはり途中で解れたセシリアやローザの事も心配です。彼女達とも無事に合流を果たせたら、再び馳せ参じたいと思います。そうすれば、期待以上の働きができると思います」



 横で聞いていたビルグリーノさんとメイベルは、ちょっと待てというような様子を見せたがコルネウス執政官はにこりと微笑んで頷いた。



「先に言ったように許可するとか、そういうのは無い。君はクラインベルト王国の者だしな。そうした方が上手くいくと思うのであればそうしてくれ。そして、良ければ後程私達の後を追ってきて助けになってくれ。いいかな?」


「はい! 必ずコルネウス執政官の後を追いかけて合流を果たします」



 コルネウス執政官は、微笑んで頷いてくれた。






 ――――翌朝、出発の時は来た。


 ビルグリーノさん達は、馬を集め荷馬車に物資を積んで出発の準備をしている。次なる目的地は、他の仲間も集まっているというテラネ村。そこへ一直線に向かうのだそうだ。


 テラネ村には、国中からコルネウス執政官の噂を聞き付けた仲間達が集結しており、その者達と合流すれば一気に水かさをあげて首都グーリエに攻め込んで『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』からこの国を奪還する事ができる。



「コルネウス執政官や皆をよろしくお願いします。ボーゲン」


「お前に言われなくても解ってるよ」


「ひゃっ!!」



 そう言って、ボーゲンは私のお尻を叩いた。い、痛い。いつも、叩く。



「俺様はまあ大丈夫だが、他の奴らが脱落しないようにしっかりと見張っててやる。だから、お前もそのくだらん約束とやらを片付けて、セシリアやローザと合流を果たしたらさっさと追いかけてこい」


「はい、必ず。……それはそうと、昨日の事ですけど、なぜボーゲンはレティシアさんの事を大丈夫だと言っていたんですか?」



 それが気になっていた。



「ああ。あれが……あの人が俺の知っている冒険者レティシアだと解ったからだよ。……って言っても、会うのはこれが初めてだがな」


「会った事もないのに、なぜそう解ったんですか?」



 質問するとボーゲンの眉間に皺がよった。そして、またお尻を叩かれる。



「ひゃっ!! 痛い! 痛いですって、お尻ばかり!!」


「てめえが、しつこいからだ! あの女冒険者はなあ、有名人なんだよ。レティシア・ダルク。Sランク冒険者で、女だてらにその強さはバケモノだそうだ」


「バ、バケモノ……」



 モロロント山で、レティシアさんの事をそう言った双子の姉妹の盗賊がどうなったかを思い出して、ゾッとした。



「テトラちゃーーん。そろそろ私達も行くわよー」


「は、はーーい。ちょ、ちょっと待ってください」



 レティシアさんの声。ゾッとするだけでなく、額から汗が流れた。



「まあそういう事だ。彼女の事は彼女に聞け。一日あのレティシア・ダルクといるっていうのなら、きっといい勉強になる。それじゃ、俺達は先を急ぐ。必ず、後を追って来いよ」


「待ってください! ボーゲン!」


「なんだよ」



 私はボーゲンの手を取り、両手で握った。一瞬慌てた顔を見せるボーゲンの目を見つめると言った。



「ボーゲンも気を付けてくださいね。そして、ミリス達の事もお願いします」


「あ、当たり前だ! それじゃ、そっちもくれぐれも危ねえ真似すんじゃねーぞ! じゃあな」



 口は悪いし意地悪だけど、考えてみればボーゲンには何度も救われていた。今なら、エスカルテのギルドマスター、バーン・グラッドが彼を推薦した理由がよく解る。


 ボーゲンは、馬に騎乗するとビルグリーノさん達のもとへ行った。



「テトラちゃん……」


「ミリス……ごめんなさい。でも、あとで必ず追いかけるから」


「ええ。でも、十分に気を付けてね」


「ミリス、それにアレアス、ダルカンも気を付けてください」



 ミリス達は昨日、疲労もあってさっさと3人で休んでしまった。だから、昨晩のレティシアさんとビルグリーノさん達やディストルの事を知ったのは朝になってからだった。



「もう一度、ぎゅっとさせてテトラちゃん」


「え? あ、はい!」



 返事をするなりミリスは私に抱き着いてきた。ミリスの豊満な胸に私の顔が埋もれる。……いい匂い。そう思うやいなや、ミリスが私の頭と耳に顔を押し付けてすんすんと物凄い勢いで、においを嗅いでいるのが解った。慌てて暴れる。呆れた顔でその光景を目にするアレアスとダルカン。


 ミリスを少し押して、その放漫な胸から顔をあげると脱出し、私は思い切ってアレアスとダルカンと目を合わせて両手を広げた。


 その姿に二人は目を丸くして驚いたが、二人で顔を見合わせるとミリスの後ろから抱き着いて4人で重なってハグをした。


 私はミリスとアレアスとダルカンの3人を、一度に力いっぱいに強く抱きしめた。



「後で……後で必ず、セシリア達と追いかけます。それまで、絶対に怪我一つしないでくださいね」


「大丈夫。私は、回復魔法が使えるから」


「駄目です!! 怪我一つしないでください。それ位の心構えでいてください」


「フフフ。ええ、解ったわ」


「解った、テトラ。ミリスは俺達に任せろ」


「こう見えて、俺達は3人ともBランク冒険者だからな」



 別れを終えると3人とも馬車に乗り込んだ。メイベルはこちらを見ると、片手をあげた。挨拶。ディストルも馬車に乗っていたが、最後までふてくされていてこちらを見ようともしなかった。


 私はビルグリーノ達が出発した後、見えなくなるまで立ち尽くし、テラネ村へ向かう彼らを見送った。


 そして、随分と待たせたレティシアさんに謝ると二人でトリケット村を出た。まずは、彼女との約束を果たす為に――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ