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第376話 『交わした約束 その2』




 マルゼレータさんの身体が宙に舞った。そして落下した。


 一瞬の出来事だった。


 いきなり距離を詰めたマルゼレータさんは、両手に持つナイフでレティシアさんを攻撃。それでも攻撃がぜんぜん当たらないので、あのマルゼレータさんの奥の手『レイザーワルツ』が出た。


 身体を回転させ、スカートをふわっと舞い上がらせる。すると、スカートの裾に仕込んだ無数の剃刀のような刃がスカートに合わせて回転し、勢いとともにレティシアさんに襲い掛かる。


 だけど、レティシアさんはそのスカートの刃を簡単にかわすと、なんでもないことのようにそれを手で払い落す。そして、モロロント山で戦った盗賊ホルヘットにした事と同じように腕と胸倉を掴んで背負い投げたのだ。


 地面に叩きつけられたマルゼレータさんは、苦しそうで暫く動けない。それを目の当たりにしたビルグリーノさんは、手に持っていた酒瓶を地に落とした。



「ウフフフ。だめよ、ダメダメ。組技が得意な相手にこんなにも接近するなんて。折角武器を持っているんだから、そのリーチを生かさないとね」



 周囲に集まった人だかり、ビルグリーノさんの仲間達もあっけにとられているようだった。


 しかし、その人だからりをかき分けてくるものがいた。ビキニアーマーの狂戦士。



「ウワーーーハッハッハ!! 喧嘩だ喧嘩!! いいねえ!! 喧嘩のにおいがプンプンするぜえ!! 次はこのアタシだ!! 当然、誰でも参加権はあるんだろ?」



 ディストルだった。ディストルは、手に持っていたスレッジハンマーを宙に放り投げると、指を鳴らして拳を握り構えた。


 私はまた止めに入ろうとしたが、隣にいたボーゲンは今度は腕ではなく尻尾を掴んだ。



「ひゃんっ!!」


「アホ! なんて、声あげやがるんだ!」


「だって、ボーゲンがいきなり私の尻尾を乱暴に掴むから……」


「いいから、黙って見てろって。なんかヤバかったら、俺が止めに入るから。まあ、兎に角大人しく黙って見てろ。お前も武術に関心があるならきっと勉強になる」



 そう言うと、ボーゲンは私の頭を掴んでレティシアさんとディストルの方へ無理やりに向けた。うううう……この扱い……



「あら? 次はあなたね。いいわよ。でも、いいのかしら、そんなビキニアーマーで戦って?」


「あん? これが戦いやすいんだよ。なんか、文句あんのか?」


「まあ、あなたがいいなら私はいいけど、そんな装備だと戦っても私があなたのそのビキニアーマーを剥いでしまえば簡単に決着がつくんじゃないかしら。沢山、殿方もいるし――」



 それを聞くと、ディストルは唾を吐き捨てた。



「へえ、やってみろよ。お前がアタシのアーマーに手をかけて一生懸命剥いでいる間に、この鍛え抜かれた拳があんたの顔面にめり込むからよ」


「まあ、怖い」


「ほざけ!!」



 先に動いたのは、ディストルだった。握っていた拳を突き出す。狙いは顔面。しかし、避けられる。だけどディストルは、放ったパンチを避けられるなり、その拳を開いてすぐさまレティシアさんの肩を掴んだ。



「取った。自分だけが組技が得意だなんて思ってねーよな! アタシの握力は万力レベルだ。もう、離さねえぞ」


「そう、それは残念。早く離した方がいいと思うけれど」



 レティシアさんは、ディストルがもう一方の手で強引に掴もうとすると、それよりも早くディストルが肩を既に掴んでいる方の腕を両手で固定し、くじいた。


 ディストルは悲鳴をあげて、地面に倒れると転がった。



「うぎゃあああ!! や、やりあがった!! 折りやがったなああ!! 殺してやるうう!!」


「心配ないわ。少しくじいただけ。安静にしていれば、直ぐ元通りになるようにはしたつもりだけど、くれぐれもそれまでその腕でパンチを放ったり、あの重そうなスレッジハンマーを振り回さない事ね」



 今度はビルグリーノさんが立ち上がった。片手が腰の剣に触れている。人だかりの中にメイベルの姿も見えた。


 これはもう止めなきゃ!!



「いいからじっとしていろ、テトラ。あのレティシアがやられる事はない」


「例えそうでも、どちらにしても大変な事になります!! レティシアさんが、私達よりも段違いに強い冒険者だというのはよく解りました。でも、このままじゃビルグリーノさんの仲間達みんな、腕をやられちゃいますよ。いいんですか? 闇夜の群狼(やみよのぐんろう)との戦いが、これから控えているのに!! 助け出したコルネウス執政官を守り続けなきゃいけないのに!!」



 するとボーゲンは、はっとした。



「言われてみれば、確かにそうだったな。じゃあ、そろそろ止めに入るかな」



 ビルグリーノさんが剣を抜いた。ディストルも冷汗を流しながらも痛みを我慢し、先に投げたスレッジハンマーを拾い上げてレティシアさんの方へ迫った。


 私はメイベルに視線を送る。すると、彼女も止めに入るというふうに頷いて見せたので、ボーゲンと一緒に飛び込んで、喧嘩を止めさせる為に叫ぼうとした。


 すると、私やボーゲンが何かいう前に、別の誰かの叫ぶ声がした。



「ここまでだ!! もう止めなさい!!」



 なんと、コルネウス執政官だった。



「喧嘩はいい。戦いの最中である事も含め、血の気が多いのも実に心強く思う。だが、もうこれ以上はやりすぎだ。ここまでにしろ」



 ビルグリーノさんは、それを聞いて剣を鞘に戻した。そして、それでもレティシアさんに突っかかっていきそうになっているディストルを仲間に止めさせる。


 しかし、ディストルは自分を止めようのした者達を投げ飛ばしレティシアさんに向かって行った。レティシアさんはにこりと笑うと、ディストルの方へ何かしようとした。


 また投げ飛ばそうとしたのかもしれない。その寸での所で、メイベルがディストルの背後にまわり彼女におぶさるように背に張り付くと、首を締め付け気絶させた。

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