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第375話 『交わした約束 その1』




 レティシアさんは、にこりと微笑む。



「テトラちゃんと私は、モロロント山で一つ約束を交わしたのよ。いえ、こういう場合は【契約】っていうのかしらねー。ウフフフ」



 あっ。そう言えばそうだった。


 コルネウス執政官を、巨大盗賊団『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』から救出する為モロロント山を登って追っていた時に、レティシアさんとは偶然出会った。そして彼女は、危機に直面していた私を助けてくれた。そう……ある条件を交わして。


 ビルグリーノさんが私の方を見る。



「どういう事だ? 何を約束した?」


「ええ……実は……」



 私はビルグリーノさんとマルゼレータさんに、レティシアさんとの事を話した。


 1日……1日だけ一緒にキャンプをして、その間レティシアさんの言う事をなんでも聞くのだと。もちろん、それを聞いたビルグリーノさんは顔をしかめた。


 そしてビルグリーノさんとマルゼレータさんは、怪訝な顔でレティシアさんを睨んだ。しかし、当のレティシアさんは変わらず目を細めてニコニコとしている。



「本当に申し訳ないんだけどな。テトラはこの国を立て直すという計画に必要な存在だ。今、一分一秒無駄にできない時に、例え1日でもその俺達の戦力をあんたに貸すだなんてできないな。諦めてくれ」


「えーー? それは駄目よ。約束は約束よ。それとも大義の為に立ち上がって戦っているとはいっても、約束の1つも果たせないの? それに国を立て直すのは、テトラちゃんの仕事じゃないでしょ? テトラちゃんは、この国に蔓延る盗賊団を倒して、虐げられている人達を助ける……もちろんそれはコルネウス執政官も含めてだけど、国をどうのっていう所までは考えてないんじゃない? そういうつもりなんじゃないの」



 確かに私もそう思った。私は、そもそも国を立て直しに来たつもりじゃないし、そんな大それた能力はない。


 私にできる事はビルグリーノさんのようなレジスタンスの戦力の1つとなって、かつて賊に攫われたルーニ様やリアのような子達がいたら救いだして、その子達に笑顔を取り戻す為。


 立て直すじゃなく、助ける為にやってきた。似ているようで、私の中では意味合いが違う。



「あげ足をとるな! 兎に角、テトラは我々の貴重な戦力だ。例え、一日でも渡す事はできんな」



 レティシアさんを睨みつけるビルグリーノさん。その形相は、先程まで酒を飲み上機嫌だったものではなく怒りに満ちていて、隻眼である彼の眼帯をしていない方の目からは、まるで火が迸りそうな程になっていた。



「テトラ。あなたの返事を聞きたいわ。私との約束、それを反故にしてもいいのかしら? 正直、私もこんな事をこれ以上大きくして荒げたくもないから、あなたがそういうのであれば……」


「ビルグリーノさん。レティシアさんとの約束は本当です。私はそれを確かに彼女と約束しましたし、果たす義務がありますし、私はそれを果たしたいです」


「テトラ……お前……」



 ビルグリーノさんに、呆れた顔をされた。レティシアさんは、私のその言葉に、満面の笑みを見せた。マルゼレータさんが、進み出る。



「それなら、それでいいじゃない。義理堅いんだよ、テトラはねー。だから、これはそれとは別」



 マルゼレータさんは、そう言うとナイフを抜いてレティシアさんに迫った。私は「待って!」と叫んだ。その声に何事かと周囲にいるビルグリーノさんの仲間達も集まって来た。



「なんだ? 喧嘩か?」


「おおーい!! 来いよ皆、マルゼレータと、誰かが喧嘩するって!! 見ものだぞ!!」


「相手って、あのモロロント山にいた女冒険者か。可哀そうに。マルゼレータ相手じゃ、何もできんだろ?」



 マルゼレータさんは、両手に持つナイフをレティシアさんに突き付けると言った。



「女冒険者さん? あなた随分と若く見えるけど、あたしより結構な年上ね。同じ女だからね、解るんだ」


「ウフフフ。そうねえ。正直言うと、私は確かにおばさんだわ。だけど、それが何? もう何もなければ、話はお終いよ。テトラちゃんは、明日1日私の玩具にさせてもらうわ」



 えええ⁉ お、玩具!! 寒気とともに背中に冷たい汗が滴った。



「ちょーーっと、待ちな! それとは別って言ったろ? おばさん、ちょっとあたしと遊びなさいよ。酔っぱらいの相手をしなって言ってんだ!!」



 マルゼレータさんは、そう言い放つと両手のナイフでレティシアさんを攻撃した。ナイフの切っ先がレティシアさんの喉や手首、心臓を狙う。


 え? これが喧嘩? こんなの殺し合いじゃ――


 急いで二人を止めに入ろうとした。すると、腕を掴まれ止められた。ボーゲンだった。



「ボーゲン!! 二人を止めないと、このままじゃ大変な事になる!!」



 しかし、ボーゲンは首を横に振って私を行かせようとしなかった。


 ビルグリーノさんは、この事態なのに酒を飲み笑って二人を見物している。周りの人達も、二人の喧嘩を観戦し声をあげてもりあがっていた。



「ボーゲン!! 離してください!! レティシアさんは、間違っていない!! 約束は確かにしましたし、私は納得したんです!! その時はそうしないと、確実にコルネウス執政官を助け出す事ができないと思いました。それなら、少しでも救出の確率があがるのならそうするべきだと思いました。だから、私は約束したんです。それに、レティシアさんは、いい人だと思います。私がガルーダに空へ連れ去られかけた時に、ボーゲン……あなたとレティシアさんが私を掴まえて助けてくれました」



 だけど、もう少しで身体が三方向に千切れる所だった。それは計らずとも拷問のようになってしまった。しかしその記憶は、今は頭から振り払った。


 ボーゲンは、私の手を離すと私の頭をポンポンと軽く叩いた。そして――



「いいから、黙って見ていろ。きっと面白いものが見れるぞ」



 短くそう言った。


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