第374話 『迎えに行きたい……』
――――トリケット村。
村に戻ると、皆待っていた。
山頂で何があったか――――ミリスが、アレアスとダルカンに話すと、二人はミリスの無事を喜んで彼女の手を握った。当たり前の事だけど、本当にミリスの事を心配していたようだ。でも、それは解る。ずっと3人でこれまでパーティーを組んで冒険者をしてきたのだし、かけがえのない仲間なのだから。
私もセシリアやマリンの事を、思い浮かべると同じ気持ちになった。
コルネウス執政官は、ビルグリーノさんと握手を交わすと皆を集めて言った。その声に私達だけでなく、ビルグリーノさんの30人程連れていた仲間達も集まってきた。
「まず、私を助けにここまで来てくれた者達に感謝の言葉を伝えたい。ありがとう。私を助ける為にここまで頑張ってきてくれて、傷を負い疲労を負ったその身体を今日はこの村で癒して欲しい。できればもっと休ませてやりたいが、今はこのメルクト共和国が忌むべき下衆な賊共に乗っ取られるかどうかの危機に直面している。だから。誠に申し訳ないが今日一日休んで、明日から再びこの国を占領する賊を叩き潰す作戦に移ってもらいたい」
コルネウス執政官の言葉に皆、頷いている。全員が賛同しているようだった。……いや、部外者のレティシアさんを覗いて。
レティシアさんは、目を細めて微笑んでいるように見えるその顔で、コルネウス執政官を一点に見つめている。
コルネウス執政官は、話を続けた。
「明日出発する予定だ。我々は一直線に仲間の集まっている首都近くにあるテラネ村へ向かおうと思う。そこでは、心強い我々の仲間達が更に合流する手筈となっているのだ。そこで一気に水かさをあげて首都グーリエに雪崩れ込めば、賊共を一気に殲滅する事もできるだろうし、首都グーリエは取り戻せるはずだ。そうすれば、メルクト共和国からグーリエ奪還の噂を聞きつけた者達が更に集まるはず。更に戦力があがれば兵を編成し、完全に国を取り戻す為の掃討作戦に移行する。計画は、できている。この我らのメルクト共和国に平和を取り戻すのだ」
ワーーーっという歓声があがった。流石、この国を統治している執政官の一人だと思った。その演説に、士気が高揚している。
「それじゃあ、ビルグリーノ。よろしく頼む」
「はっ!」
コルネウス執政官がそう言うと、彼に代わって隻眼の戦士ビルグリーノさんが皆の前に立った。
「残念ながら、このトリケット村の人達は捜索したが見つからなかった。考えたくはないが、きっともう賊どもに殺されてしまったのだろう。だが、運よくコルネウス執政官を救出する事はできた。それに食糧と酒も村にはあった。明日からまた戦いだ。今晩は、ゆっくりと疲れを癒してくれ。解散」
その言葉で、全員が村のあちこちに散っていった。
マルゼレータさんは、見つけたお酒を持ってふらふらと他の仲間やビルグリーノさんに一緒に飲もうと声をかけている。邪魔をして悪いと思いながらも私は、ビルグリーノさんのもとへ行き声をかけた。
「あの……ビルグリーノさん」
「おう。クラインベルトの戦闘メイド、テトラ・ナインテールか。あの、九尾の一族らしいな。お前みたいなのが俺達の仲間で心強く思う。それで、どうだ? これからの作戦も話したいし、一緒に飲まないか?」
マルゼレータさんから受け取った葡萄酒の瓶を私に差し出してきたので、私は苦笑いとともにそれを拒んだ。
「あ、あの……一つ伺っておきたい事があります」
「うん? なんだ?」
酒を飲むみながら、上機嫌に答えるビルグリーノさん。ビルグリーノさんの仲間が私の尻尾を触ろうとしたので、その手をペシリとマルゼレータさんが叩いた。
この国を立て直す事ができるコルネウス執政官を無事に救出する事ができて皆、上機嫌なのだ。酔っぱらう程、飲んで喜んでいるのも当然だと思った。
「私達は、メイベルとディストルからこの国を救って欲しいと話を聞いてやってきました。それで実は……負傷した私達の仲間もいまして、休ませる為にここに来るまでに立ち寄ったリーティック村に残してきたんです」
ローザの事。セシリアが、ローザのもとに残った。あとからきっと、追いかけてきてくれるのは解ってはいたけど今も気になっていた。
「おお! そうか。じゃあ、その者達も俺達に追いつけば戦力は更に跳ね上がるな。ハハハハ」
「私のかけがえのない仲間です。同じクラインベルトの王宮メイドのセシリア・ベルベット。そして、クラインベルトの国王直轄騎士団『青い薔薇の騎士団』その団長のローザ・ディフェインです。『闇夜の群狼』は、とんでもなく巨大で強敵です。倒すにはきっと彼女たちの力は必要になると思います」
ビルグリーノさんは、飲んでいた酒をマルゼレータさんに手渡すと懐から煙草を取り出し咥える。すると、マルゼレータさんは近くで焚火をしている仲間のもとへ行き、火を貰ってくるとビルグリーノさんの咥えている煙草に火を付けた。
マルゼレータさんは、なんて気配りのできる人なのだろう。もしくは、ビルグリーノさんの彼女なのかもしれない。
余計な事を想像してしまい、頭を左右に降って振り払う。
「フフ……いいたい事は何となく解っているよ。つまり、その仲間を迎えに行きたいんだな」
「はい。あの時、彼女たちをそこに置いて前へ進んだのには理由があります。コルネウス執政官が盗賊に捕まり、一刻を争う事態だったからです。確かに今も、この国の一刻を争う事態である事には違いありません。だけど、セシリアやローザがいれば、もっと……」
ビルグリーノさんは、考える素振りを見せると思い切り吸った煙を一気に吐き出した。
「……しかしなあ。敵は多い。テトラもモロロント山で手強い敵と交戦しただろ? それにメイベルからも聞いた。ローグウォリアーとビーストウォリアーっていう、とんでもなく強い奴らもお前らに付きまとっているんだろ? それに女盗賊団アスラ。このメルクト共和国には、闇夜の群狼だけではなく、その混乱に乗じて他の盗賊団も暴れまわっている。今や、とても危険な国と化してしまっているんだ。その中で、コルネウス執政官を無事に、テラネ村まで護衛するとなると……今は一人でも心強い仲間が必要なんだよ。解るよな」
私は俯いた。ビルグリーノさんの言っている事は正論だ。それに私はバーンさんの代わりにこの国を救う手助けをするという使命がある。だけど……
セシリアやローザの顔がちらつく。
「ちょっとごめんなさいねーー。残念だけど、テトラちゃんはあなた達とは出発しないわよー。ごめんなさいねーー。ウフフフ」
いきなりそんなセリフが飛び込んで来た。
ビルグリーノさんやマルゼレータさんと共に特徴的な声の方へ振り向くと、そこには葡萄酒を飲んで頬をほのかに赤く染めるレティシアさんの姿があった。
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〚下記備考欄〛
〇ローグウォリアー & ビーストウォリアー
ボロボロのローブに身を包み、仮面をつけた刺客二人組。テトラやローザ、ボーゲンとも戦った強敵。二人一緒に使う合体技『ビックザマウンテンボム』は、超強力。テトラ達を仕留めるべく、影から狙っている。




