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第373話 『頂きのガルーダ その4』




 ガルーダは、痛みと怒りに塗れていた。


 レティシアさんが、ここぞとばかりにガルーダに突っ込んだ。


 ガルーダは首を一回転させると、その口から燃え盛る炎をレティシアさんへ向けて放つ。しかし、レティシアさんはまったく動じずにそのままガルーダに突っ込んだ。火炎。


 レティシアさんは、燃え盛る炎に包まれる。だけど、レティシアさんはしっかりとマントを纏い炎を防ぎながらも前進しガルーダの目前にあっという間に接近した。


 そこから繰り出される突き。――あれは、確かこの山を登っている時に彼女が作っていた棒。そのなんの変哲も無い棒が、ガルーダの胸に深々と突き刺さり、抜けて背から飛び出していた。



 ピギャアアアアアア!!



 だが、手をゆるめない。レティシアさんは、ガルーダに突き刺した棒のこちら側に残っている部分を叩いてへし折ると、両手でその折れた棒を掴み先端の尖った方でガルーダの首へ突き刺した。


 流石に致命傷を二カ所も負わされたガルーダは、吐血し地に落ちた。それから暫く小さく痙攣していたが、やがて力尽きた。



「テトラ、しっかりしろ!! この馬鹿が!! なんて事しやがるんだ!! 俺は、バーンさんに任されたんだぞ!! この国の事だけじゃねえ!! バーンさんは、お前らの事も心配して、俺に託したんだ!! ふざけんじゃねえぞ!! 勝手な事をするな!!」


「う、うう……ご、ごめんなさい」


「ったくよー!! ふざけやがって!! 俺様が死んじまえって言うまで勝手に死のうとするな!!」



 ボーゲンは、もうカンカンだった。あのままガルーダに二人共空へ連れ去られていたら、流石に二人共死んでいただろう。だから、私は一人でも助かればと思って判断した行動だった。死ぬのは、怖い。だけど選択肢がそれしかなかった。


 だけど……思えばルーニ様を救出する時に、セシリアとクラインベルトの城を出発した頃の私じゃ考えられなかった行動。


 あの頃の私なら、ただただ怯えて恐怖し、どうしていいか解らず、こんな時に一人でも助かればいいなんて判断はできなかったと思う。それが、咄嗟の判断であれば尚更だろう。


 私は、少しは強くなったのだろうか……


 でもそれについては、家族を賊に殺されたり奴隷にされたり、今も苦しんでいる子供達を全て助ける事ができれば、少しはその答えが解るんじゃないかなと思った。


 ミリスとメイベルが、慌ててこちらにかけてくる。



「テトラちゃん、大丈夫!! すぐに癒してあげるから私に任せて!!」


「ありがとうございます、ミリス」


「聖なる光よ。この者の傷を癒して!! 《癒しの回復魔法(ヒーリング)》!!」



 ミリスが魔法詠唱すると、暖かい光が私の身体を包み込んだ。ガルーダに負わされた身体中の痛み、それが徐々に緩和していく。


 楽になり、意識がはっきりしてくると私は横になりながらもボーゲンの腕の中にいる事に気づいた。一気に顔が真っ赤になる。



「ボボボ、ボーゲン!! わわ、私!!」



 ボーゲンも、はっとする。



「おわあああ!!」



 やっとその事に気づいたボーゲンは、慌てて手を離して私から離れた。完全に身体をボーゲンに預けていた私は、そのまま後頭部を地面にぶつけた。



「あいたっ!! うううう……」


「ちょっとボーゲン!! なんてことするの!! テトラちゃんは、まだ完治はしていないのよ!!」


「そうよそうよ。私のテトラちゃんが、頭を打ち付けた事によって、おバカになっちゃったらどうするのよ!」



 ミリスとレティシアさんが、ボーゲンを押しのけると私を抱き起して抱きしめた。い、いい匂いがする……だけど、くくく、苦しい!!



「ちょっと、なんですか!! 私のテトラちゃんなんだから、やめてください!!」


「あなたこそ、何? テトラちゃんは私のテトラちゃんよ!!」


「痛い痛い痛い!! ちょちょちょちょちょ……ちょっと二人共やめて!!」



 ミリスとレティシアさんが私の身体を引っ張った。さっきは、ガルーダに身体を千切られそうになったけれど、今はこの二人に身体を千切られる!!



「いったいなんなんですか!! やめてくれるかしら!! 私のテトラちゃんから、その手を離しなさい!!」


「あなたこそ、もう回復魔法で治療し終えたんだから、引っ込んでなさい! あとは、この私がテトラちゃんを、もてる全てを使ってあの手この手で癒すのよ!!」


「痛い痛い痛い!! 痛いですってええ!! やめてください!! わわ、私、千切れます!!」



 ミリスは本当に、レティシアさんと張り合ってしまっていて、物凄い力で私の腕や足や尻尾、身体を引っ張っている。レティシアさんも……ってレティシアさんは、引っ張っているどさくさに紛れて私の胸や耳、お尻をガーゴイルさながらのように鷲掴みにしてきた。


 もう駄目……


 私は、ボーゲンとメイベルに助けを求めた。このままじゃ、本当に千切られる。た、助け……


 しかし二人はすでにすべてがもう解決したかのように、コルネウス執政官のもとに歩み寄って話を進めていた。私は、目に涙を浮かべた。だけど、誰も気づいてくれない。



「お久しぶりでやんす。コルネウス執政官」


「メイベル・ストーリ。すまんな、助けられたようだ。それで、この方達は?」


「こちらは、クラインベルト王国のAランク冒険者ボーゲン・ホイッツ。あそこで、じゃれている3人のうち2人もあっしらの仲間でやんすよ」



 メイベルは、コルネウス執政官にこれまでの事を説明した。


 コルネウス執政官は、それを聞いてクラインベルト王国と冒険者ギルドには感謝しかないと言った。そして、これからこのメルクト共和国を立て直す為に、この国に蔓延る『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』を壊滅させる為の計画を話し合っておきたいと言った。


 とりあえずは、アレアスやダルカン、ディストル達やビルグリーノさんの待つトリケット村に戻ろうという事になった。


 私はミリスとレティシアさんに、身体を引っ張られて好き放題にまさぐられながらも、その話を聞いていた。


 そして「もう二人共、いい加減にしてくださーい!!」っと声を大にして叫んだ。


 ミリスとレティシアさんは、「はーーい」と仲良くこたえた。だけど、相変わらず二人とも私の身体を引っ張っていた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


癒しの回復魔法(ヒーリング) 種別:神聖系魔法

黒魔法とは異なり、怪我など癒すことができる魔法。クレリックやプリースト、シスターなどの聖職者が一般的には使用できる。

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