第372話 『頂きのガルーダ その3』
ガルーダは、再び勢いをつける為に空に舞い上がり急降下すると、今度はその研ぎ澄まされた両足の爪で私達を攻撃してきた。
「受け取って、テトラちゃん!!」
「はい!」
レティシアさんは、私の方へ涯角槍を放ると私はそれを掴んだ。そして、こちらに突っ込んでくるガルーダへ向けて思いきり槍の穂先を突き出す。
ピイイイイィィ!!
仕留めたと思った。しかし、ガルーダの動きを捕らえたと思って、その胸辺りに向かって突き出した槍はガルーダを掠めていた。ギリギリで、かわされたのだ!! 反撃だと言わんばかりに、ガルーダの眼が鷹のように鋭くなる。
ガルーダは、私の一撃を寸での所で避けると共に、その大きく鋭い爪で私の肩を鷲掴みにしてきた。
「ああああっ!! 痛いっ!!」
一瞬、肩が吹き飛んだと思った。それ程の激痛と衝撃。なんとかしなければともがいていると、ガルーダはもう片方の足の爪で私の腕を掴み上げ、そのまま上空へ飛び立った。足がふわりと地面から離れる!
ま、まさか!! このまま空高くまで連れていかれて、パッと離されでもしたら……私は落下し、その高さに比例した衝撃で地面に激突する。
背筋に冷たい汗が走った。
しかし、3メートル程の高さまで持ち上げられた位の所で止まる。
見ると、私の両足に何かが巻き付いている。ガルーダに身体を空に持って行かれないように引っ張られている。これは……植物の蔓とロープ!?
「大丈夫? テトラちゃん! 今、助けるから少し我慢してね!」
「我慢しろよ、テトラ! 俺様がすぐ助けてやる!! 絶対に連れて行かせやしねえ!」
私の右足にレティシアさんが投げた植物の蔓が巻き付き、もう片方の左足にはボーゲンの投げたロープが巻き付いていた。
私の身体は真上と、左右の三方向に一度に思いきり引っ張られていた。まるで、拷問されているかのように――
「いたたたたたた!! ちょちょちょちょ、ちょっとおおおおお!! ボーゲン!! レティシアさん!! 痛いですよおおお!! 身体が千切れちゃうううう!!」
ピギャアアアアアア!!
これには、私を空へ掴み上げようとしたガルーダも驚いたようだった。だけど、私はもっと驚いている。
ガルーダとレティシアさんとボーゲンによって、三方向に引っ張られる私の身体は今にも千切れ飛びそうになっていると思った。しかも身体は宙に浮いていて、自由にできない。どうする事もできない。
「か、身体が千切れちゃう!! だ、誰か!! 助けてええええ!!」
あまりの痛さに叫んだ。引っ張られているのは、三方向だけど八つ裂きにされる気分とは、こういうものなのだろうか。この拷問に、耐えきれない私は更に泣き叫んでうったえた。
それを聞いたボーゲンは、私の片足に巻き付けていたロープを放り捨て、こっちの方へ走ってくると跳躍し私の身体に抱き着いた。
「うおおおお!! 今、助けてやるからな!! もう少し我慢しろ、テトラ!! 今、このガルーダを仕留めてやる!!」
「ヒイイイイイイ!! 痛い痛い痛い!! ボーゲン、助けて!!」
ボーゲンは、私の肩と腕をがっちりと鷲掴みにして空へ連れ去ろうとしているガルーダへ、ナイフを取り出してそれを伸ばし突きさそうとした。
ボーゲンのナイフが、ガルーダの身体に刺さればその痛みで私を掴んでいる足を離すかもしれない。しかし、もう少しの所で届かない。
私の片足はまだ引っ張られている。レティシアさんに助けてと視線を送ると、彼女は必死になって足に巻き付いている植物の蔓を両手で引っ張っていた。うううう……もうだめ……
足が……上半身と下半身が真っ二つになって千切れ飛ぶ。そう思った。でも、その前にもう痛みで気絶しそうになっていた。激しい痛みの中、意識がどんどんと遠くなっていく。
……もう本当に……駄目……
リアやミラール君。ロン君に、クウちゃんにルンちゃん。カルミア村のパルマンさん。皆の顔が走馬灯のように浮かんでくる。
『闇夜の群狼』を倒すんだって決めた時に覚悟はしていたつもりだったけれど、まさかこんな所でこんな残酷な死に方をする事になるなんて……
私の身体を両足の爪で掴んで、上空まで連れて行こうとするガルーダ。それをさせまいとするボーゲンとレティシアさん。
「おい、テトラ!! しっかりしろ!! くそがああ、もういい!! 女冒険者、その蔓を離せ!! このままじゃ、テトラが死んじまう!! 俺がなんとかするから、もういい!! この狐女は俺様が絶対に助けるから、蔓を離すんだ!!」
ごめんなさい、セシリア……それにローザ。私は、ここまで……
レティシアさんを睨みつけるように説得するボーゲン。レティシアさんが蔓から手を離すやいなや、私の方へ彼女も走り出した。でも、間に合う距離じゃない。
このままじゃ、私と一緒にボーゲンも空に連れていかれて落下死させられる。ボーゲンだけでも、なんとかしないと。私は残る力を振り絞り、ボーゲンの身体を突き飛ばした。
刹那、私の身体が一気に浮き上がる。ガルーダ。
「さようなら。あとの事をお願いします。ボーゲン」
「テトラ!! この馬鹿、はやまりやがって!! くそくそくそーー!!」
目を閉じて、死を覚悟した。その瞬間だった。一つの影が私とガルーダにかかる。真上?
「諦めるのは、まだ早いでやんすよ、テトラ! とおっ!!」
グサリ!
見ると、私を掴んでいるガルーダよりも高く跳躍したメイベルがマンゴーシュをガルーダの背中に突き刺した。
メイベルは突き刺したマンゴーシュを引き抜くと、そのまま連続でガルーダの身体を斬りつけた。ガルーダの血と羽が宙に舞う。
ピイイギャアアアアア!!
「あっしの攻撃で、この危機は好転するでやんす。これは、そういうストーリーでやんしょ!」
苦痛に歪むガルーダ。私は解放されて落下した。
だけど地面に叩きつけられる直前で、ボーゲンが抱きとめてくれた。私は目に涙を浮かべながらもボーゲンの物凄く怒っている顔を見上げてほっとしていた。




