表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

371/1357

第371話 『頂きのガルーダ その2』




 ガルーダは、そのまま空に舞い上がるとこちらを向いて大きく威嚇した。



 ピイイイイィィ!!



 全身の毛が逆立つ。これは、何か大きな攻撃が来る前触れだと感じた。それを皆に伝えようと振り返ると、ボーゲンが先に叫んで知らせてくれた。



「何かヤバいのが来るぞ!! テトラは、その二人を守れ!! ミリスは俺の方へ来い!!」


「え? あっしは?」


「メイベル、お前はAランク冒険者だろ? てめーでなんとかしろ! 甘ったれてんじゃねえよ!」


「ひんっ! 冷たいでやんすね! これでも一応あっしも、か弱い女子でやんすよ」


「か弱い? お前とディストルは、そんなの関係ねえだろ。そんな事より、来るぞ!!  テトラ!! そっちは任せていいんだよな!!」


「は、はい!! 私に任せてください!!」



 コルネウス執政官とレティシアさんの方を見る。


 コルネウス執政官は、唾をごくりと呑み込むと私の後ろへ隠れた。レティシアさんは、にっこりと笑って私の隣に並ぶ。まさに対照的な二人。



「ウフフフ。テトラちゃんには、こんなに頼もしくて楽しい仲間達がいたのね。ふーーんふーーん」


「レ、レティシアさんは、心配ないでしょうけど……それでもボーゲンに言われたので一応言いますが、私の後ろにいてください。守りますから」


「え!? 守る? 誰が誰をかしら? もしかして、テトラちゃんが私を守ってくれるって言うの? あらヤダ! 頼もしい!」



 いつも目を細めて、にこにこしているレティシアさんの目が丸くなった。っもう!! 完全にからかわれている。


 この人の強さは底知れない。どちらかと言えば、私の方を守ってもらう方が、理にかなっているのではないかとも思う。でもそうだとは解っていても……ボーゲンが守れって言ったからしょうがない。



 ピイイイイィィ!!



 ガルーダの雄叫び。次の瞬間、ガルーダは羽ばたかせていた羽の向きをこちらに向けると、まるで羽で何かを掴んで、振りかぶって投げるかのような大きな動きをした。


 するとその大きな動作と共に、無数の何かがこちらに向けて飛んできた。

 

 私は咄嗟に涯角槍(がいかくそう)を手に、それを叩き落とした。ボーゲンやメイベルも器用にそれを弾いている。もちろん、レティシアさんも。


 私は叩き落としたそれが何か確認する為、視線を地面に落とした。


 ――羽根。


 周囲には、ガルーダの羽根が無数に飛び散って落ちていた。


 ガルーダは、自分の翼の羽根を武器として、私達に向けて飛ばしてきていたのだった。



「全員無事か!!」



 ボーゲンが聞くと、皆大丈夫と合図を送る。私もボーゲンに大丈夫だと頷いたけど、太腿と肩のあたりにガルーダの羽根が突き刺さっていた。


 ぐっと歯を喰いしばり、その羽を引き抜く。ガルーダには、鋭い羽根という強力な武器がある。だけど、毒はない。急所に当たらなければ、大丈夫。引き抜いて、後で手当てをすればいい。



「テトラちゃん!! 大丈夫!! あなた、今の羽根の攻撃を受けたのね!」



 ボーゲンの後ろに隠れ、守ってもらっていたミリスがこちらへ駆けてきた。慌てて「おい! 動くな!」と叫ぶボーゲン。だけど、ミリスは私のもとに駆けてくると、羽根が刺さっていた場所に回復魔法を唱えて手当てを始めた。



 ピイイイイィィ!!



「おいおいおい!! まったく、まだ戦闘中だぞ!! 致命傷でも無いのに、手当てなんて戦いが終わってからだろうが!! もう間に合わねえ、もう一度くるぞ!! テトラ、ミリスも守れ!!」


「は、はい!!」



 ガルーダは、もう一度翼を激しく羽ばたかせ、自分の羽根を再び飛ばしてきた。それでも私の治療を続けているミリス。本当に、間に合わない。



「しゃがんで、ミリス!!」



 私はそう言って、涯角槍(がいかくそう)を持ったままミリスに覆いかぶさった。後ろにはコルネウス執政官が身を低くして隠れている。これで、二人を守れる。


 だけど、ガルーダの鋭い羽根が沢山飛んでくる。なんとか、致命傷になるような場所に当たらなければいいけど……



「テトラちゃん!! あなた!!」


「大丈夫です。そのままミリスは、伏せていてください。コルネウス執政官も同じように身を低く」



 歯を食いしばって耐える。無数の羽根。それが私の身体に無数に突き刺さったと思った。


 しかし、違った。コルネウス執政官の盾になり、ミリスに覆いかぶさった刹那、その私の前にレティシアさんが立った。手には見慣れた槍。え、槍?


 レティシアさんの持っている槍は、私の所持している涯角槍(がいかくそう)だった。慌てて自分の手もとを見ると、やはり持っていない。今さっきまで、私が握っていたのに、いったいいつの間にレティシアさんは、私から涯角槍(がいかくそう)を奪ったのだろうか。まったく気づかなかった。



「ちょーーっと借りるわねー。ちゃんと、後で返すから心配しないでね」



 レティシアさんは、私の涯角槍(がいかくそう)を器用にくるくると両手で高速回転させると、飛んでくるガルーダの羽根を見事に全て叩き落とした。ただの女冒険者と思っていたのだろう、ボーゲンとメイベルは目を丸くしてびっくりしていた。



 ピイイイイィィ!!



 今度は先程までとは違う。ガルーダは、再び急降下で私達の頭上近くまで接近すると、首をくるっと一回転させた。そして大きな嘴を開く。ボーガンが叫ぶ。



「まずい!! 火炎攻撃がくるぞ!! ミリス!! 何か耐火魔法を唱えてそっちにいる全員を守れえええ!!」

 

「え? え? そんなきゅ、急にそんな事を言ったって!!」



 ミリスの身体には、私が覆いかぶさっていた。だから彼女は動けなかった。そして、ガルーダは思いきり息を吸い込んだ後、激しく燃え盛る炎を口から放射した。


 まるで、辺りを薙ぐように火炎を放つ。


 ボーゲンは、川へ飛び込むかのように、後方へ飛んで炎を回避した。


 しかし、ミリスとコルネウス執政官を守っている私は動けない。


 燃やされると思った刹那、レティシアさんはガルーダの前に躍り出て先程と同じように槍を回転させた。炎。


 レティシアさんを襲う猛烈な勢いの火炎は、彼女の高速回転させる槍の前で真っ二つに分かれ、火炎が私達の所まで届く事は無かった。


 レティシアさんは振り返ると、私達の無事を確認してまた目を細めてにこにこと微笑んでみせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ