第37話 『再会を祝して…… その2』
野菜を中心とした、いくつもの食材を買った。
そう言えば、アテナが昨日買ったライスの事を思い出して、その重さを聞いてみた。そしたら5キロもあるという。驚きだ。
この先、ずっと歩いて旅する事も考えるとかなりの負担になる。だから野菜とライスを、オレとルキアも一緒に分担して持ちたいと提案した。購入した代金もその分出すと言ったが、アテナは終始いらないと言って受け取らなかった。
必要な物を買い揃え、いよいよ出発する為に村のゲートへ向かう。
「アテナ」
「ん? なに?」
「野菜とかの他に買っていた、あの茶色い粉はなんなんだ? 調味料か? 固形のやつは、バターだろ?」
「ええ。固形のやつは、バターよ。茶色の粉末はねえ…………ふふふふ。お楽しみ」
やはり、アテナは一国の王女だからなのか、色々珍しい物を知っている。あの瓶に入った茶色の粉はいったいなんなんだろう。
村のゲートへついた。ハルが少し、寂しげな表情を見せた。
「あたしも冒険者だから、色々旅して回っているけど…………もう暫くは、ここにいる。だからまた戻ってきて再会できるような事があれば、遠慮なく声をかけてちょーだいよ」
「ありがとう。ハル! 旅先でも冒険者をやっている限り、またきっと会えるよ。その時は、またよろしくね」
「ハル…………あ……あ……ありがとうございました!」
「ルキア……あたしもありが……」
――――ハムハムハム。
「ひゃあああ!! ちょちょっちょっと…………やめてください!!」
「やー、ごめんごめん。その猫耳を見ていたら、もう暫くは、ハムハムできないのかーーって思っちゃって! 最後にちょっと…………ね?」
「最後にちょっとってなんですか? っもう!」
ルキアは、プンスカしていた。それを見て、アテナは爆笑している。
「ハル。短い間だったが、じゃあ…………」
握手を交わす。オレもハルに別れを言おうとした時だった。村のゲートのすぐそばで、悲鳴が聞こえた。女の悲鳴。
「なんだ⁉ 何かあったのか?」
弓矢を手に取る。アテナも悲鳴の方へ走り出した。そのあとをハルとルキアも追う。
行ってみると、エルフの娘が倒れていて、その周りを男達が囲んでいた。そして、更に近づくとその倒れているエルフの横にあの忘れもしない、子ウルフがいた。いったいどういうことだ?
ハルが声をかけた。
「なにがあった? 大丈夫か? 魔物か!! そのウルフに襲われたのか?」
エルフは、動かない。気を失っているのか?
「ああ!! 大丈夫だ! もう大丈夫だ! みんな向こうへ行ってくれ!! こんなガキのウルフなんぞ、簡単にぶち殺せる」
髭面の男が言った。
「さあ、みんな向こうへ行け!! 騒がせて悪かったな!! このエルフは俺達の仲間で、いきなりこのウルフに襲われた。村の近くで油断していたぜ。もう大丈夫。皆向こうへ行ってくれ」
顔に傷のある一番大きな男が言った。そのすぐあと、エルフが少し動いてこちらを見た。気が付いたのか。
「た…………たす…………けて…………」
ガルウウウウウ
男達を威嚇する子ウルフ。そして、その助けを求めるエルフの言葉に男達は、冷たい視線をおくる。
アテナが剣を抜いた。
「おい! アテナ! いきなりこんな事言って、驚くだろうが…………あの子供のウルフなんだが、オレの知り合いなんだ。だから…………」
アテナは、それを聞くと一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに微笑んで言った。
「わかったわ。りょーかい」
アテナが走る。子ウルフがそれに反応してアテナに飛び掛かったが、アテナはその攻撃をすっと避ける。そこから男達の方へ移動し、剣を振り払った。男達が構えていた武器が宙に飛ぶ。
「このアマ!! どういうつもりだ!!」
――――アテナは、あっという間に、5人の男達を倒した。ハルが心配して声をかけてきた。
「え? ん? アテナ? これは??」
「心配しないで、皆死んではないから。それより、ハル。村の自警団と、ギルドの人を呼んできて」
アテナは、そういうと倒れていたエルフに癒しの回復魔法を使った。するとようやく子ウルフは、落ち着いた様子になった。そして、オレのもとに近づいてきた。しゃがんで、頭を撫でてやる。
クウーーン
「まったく、おまえというやつは……」
暫くして、自警団とギルド関係者がやってきて男達を逮捕した。
――――いったい、何が起こったのか?
ことの顛末はこうだった。倒れていたエルフと男達は、仲間ではなかったそうだ。たまたま村付近であったというのだ。男達は、美しいエルフの娘を見るやいなやちょっかいをかけた。エルフの娘は、山賊のようなガラの悪い男達に恐怖を感じて、急いで村の中へ逃げ込もうとした。
それで、その行動に腹を立てた男達は、感情に任せて乱暴をしようとエルフを襲った。人通りが多いので、さっさと気を失わせ森か何処かへ連れ去るつもりだったんだろう。しかし、気を失わせたところで何処からか子ウルフが飛び出してきて、男達に襲い掛かったという事だ。
――――かくして、エルフは助けられ乱暴を働いた男達は、逮捕された。後程、王国騎士団に引き渡される。
男達が自警団に連れていかれる。髭面の男は、連行されながらも叫んでいた。
「覚えていろ!! 貴様ら!! 顔は覚えたからな!!」
「うるさい! さっさと歩くんだ」
「それはそうと、あの魔物もどうにかしろよ。確か今、冒険者ギルドからウルフの討伐依頼が出てたっけな。俺達人間を襲った危険なウルフは、ちゃんと始末しろよ!!」
「いいから、喋るな!! 言いたいことがあれば、後で騎士団にでも話すんだな!!」
「ちきしょーーーー!!!!」
男達は連れていかれた。そして、助けたエルフがお礼をいいにきた。もう大丈夫のようだ。
だが…………子ウルフの方は、ギルド関係者と近くにいた冒険者によって、囲まれていた。皆、子ウルフに武器を向けて警戒している。
ギルドの関係者と思われる男が剣を抜いて、子ウルフに近づいていく。それを見て、オレは急いで駆け寄った。
「まて!! そのウルフは、子供だ!! 殺すな!!」
「駄目だ。最近ウルフの群れが何度もこの村付近で人を襲っている。原状、冒険者ギルドでも討伐依頼を出して駆除している。このウルフも子供なのだろうが、やがては大人になる。ならば、一緒だ。悪い芽は早めにつんだ方がいい」
ガルウウウウウウ
自分が傷つけられると悟り、抵抗しようとする子ウルフ。アテナが身を乗り出した。
「その子ウルフは、さっきのガラの悪い男達に襲われていた、エルフの女の子を助けたわ!」
「そうか。きっとそれは何かの偶然だな。偶然、たまたまそう見えただけだ。俺は、このニガッタ村の冒険者ギルドの責任者だ。これだけ、人が集まって見ている。立場上、魔物を野放しにもできん。あきらめろ」
ルキアも何か言おうとしたが、声を発する前にその横からハルが言った。
「エギーデ。やめてやれよ、そいつは殺すなよ。こっちで、なんとかするからよ。な? その魔物はこっちで、処分するから連れて行くよ。それで、いいだろ?」
ハル!! すまない。そう思って、ハルに目配せを送るとハルはウインクした。しかし、ギルド責任者…………エギーデは、ハアーーーーっと長い溜息を吐くと、ハルを無視する形で子ウルフを囲む男達に指示をだした。すると、男達は一斉に子ウルフに飛び掛かり、あっと言う間に子ウルフを抑えつけ拘束した。逃げ出そうと暴れる子ウルフ。しかし、男達は魔物などの扱いに手慣れた冒険者。子供のウルフ1匹の力ではもうどうにもならない。
ガウッガウッガウ
くっ!! こうなったら仕方がない。オレは、子ウルフの方へ駆け寄った。
「面倒になる! さっさと終わらせろ!!」
エギーデが叫んだ。子ウルフを抑えつける男達のうち、一人がナイフを抜いた。
オレは、やめろと大声で叫んで、ナイフを持つ男の行動を阻止しようとしたが、そうなる事を先によんでいたエギーデがオレの目前に立ちはだかった。
駄目だ。ギルドの責任者なんて、倒したら大変なことになる。アテナにもルキアにも迷惑がかかる。それは、わかっているが…………だめだ。子ウルフの威嚇するように唸っていた声は、いつしか怯えているようなものに変わっていた。
オレは、もう一度やめろと叫んで突っ込んだ。
だが、子ウルフの目前に突き出されたナイフは、無情にも子ウルフ目がけて振りおろされた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〚下記備考欄〛
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。ニガッタ村でアテナと合流後、新しい仲間ルキアも加えてトロフの森へ向かう。しかし、村を出る所で道中に出会った子ウルフと再会する。
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。趣味は、旅と食事とキャンプ。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。ニガッタ村にてライスを5キロも購入。しかし、ルシエルも大喰らいだし、ルキアという仲間も増えたのでこれ位買っておかないとと思っている。ついでに野菜などの食材、香辛料やバターなども入手。
〇ルキア 種別:獣人
Fランク冒険者。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンからもらった大きなナイフを武器にする。ニガッタ村に来てから事あるごとにハルに耳をハムハムされすぎて、ちょっとハムハムされている部分の毛が逆立ってきている。
〇ハル 種別:ヒューム
Dランク冒険者。クラスは【シーフ】。気さくで優しい性格。最近はニガッタ村を拠点にして、周辺を荒らす魔物の討伐などを請け負っている。気ままな生活が好きで、1人で行動しているがアテナやルキアと知り合い、一時的に行動を共にする。ニガッタ村を出る時に子ウルフが騒ぎを起こしていたが、そこに現れたギルド関係者とは、顔見知りのようだ。
〇エギーデ・ロドヴィン 種別:ヒューム
ニガッタ村の冒険者ギルドの責任者でBランク冒険者。ニガッタ村は、特産品があり商人も多く行きかい賑わっている。よって、冒険者ギルドや自警団が村の警備を行っている。常に誰か問題を起こさないかと見張っているが、特に魔物に対しての目は厳しいようだ。
〇エルフ
森の知恵者や守護者と言われる。だいたいは、森の深くで生活をしている種族だが中には、今回のエルフやルシエルのように冒険者などになるものもいる。その種族ほとんどの特徴として、金髪で耳が尖っているなどあるが、ダークエルフなど肌が黒い種族もいる。そして生まれながらに精霊の力を使える素質があり、精霊魔法などを得意とする。
〇自警団
村や街などが自分達を守る為に雇っている警備団。小さな村だと、自分達で武器を手に取ってローテーションで自警団として警備している場合が一般的。お金のある町などは、冒険者や傭兵を雇ったりする。
〇子ウルフ 種別:魔物
狼の魔物。エスカルテの街からニガッタ村へ旅するルシエルと出会い、ついには懐いてしまった子ウルフ。最初は敵意剥き出しだったが、何度かルシエルとやり取りする間にルシエルの事が好きになった。それで、ニガッタ村の方まで来てしまった。
〇茶色の粉末 種別:アイテム
ニガッタ村で売っていたスパイシーな香辛料の粉末の塊。アテナは、ニガッタ村で手に入れたライスに加えて、この茶色の粉末を使用して何かいいものを作ろうとしているようだ。ライスに茶色のスパイシーなと言えば……まさか……
〇癒しの回復魔法 種別:神聖系魔法
黒魔法とは異なり、怪我など癒すことができる魔法。クレリックやプリースト、シスターなどの聖職者が一般的には使用できる。




