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第369話 『もうすぐ頂上』




「あら、何処に行くのかしら。ちょっと待ってくれない? そして、私にもっとあなた達の姿をよく見せてくれるかしら。ウフフフフ」


「きゃああああ!!」



 辺りに鳴り響く悲鳴は、あからさまに恐怖で声をあげているものだった。


 ノンナは、着ている服を切り刻まれ、裸にされてその場に蹲る。それを見たカンナは両手のナイフをレティシアさんに向かって投げた。もちろん、レティシアさんに、そんな攻撃は通じない。


 そう思ったけれど、レティシアさんは更にその上の事をして見せた。持っていたナイフをカンナに向かって投げると、続けて自分に飛んできたナイフを見事に掴んでそれも投げ返した。


 カンナの表情が絶望に満ちる。


 ナイフはカンナの身体に突き刺さる事は無く、かすっただけだった。しかしそう思った刹那、カンナが身に着けていた服の前がはだけ、履いていたズボンが下に落ちた。


 固まるカンナと、蹲るノンナ。私は二人のそんな恥ずかしい光景を見てはいけないと、赤面しながらも両手で顔を覆った。だけど、指の隙間から見てしまっていた。



「あら、可愛らしい。その下着のプリント何かしら? 解った! 栗鼠さんね。かーわいい。じゃあ、ノンナちゃんはなんだったのかしら? もしかして兎さんだったのかしら。こんな事なら、下着だけでも残しておくんだったわ」



 あまりの衝撃に、その姉妹だけではなく私も静止していた。そして、レティシアさんが一歩歩いたのを皮切りにカンナは、丸裸の妹ノンナの手を引いて走って逃げ出した。


 その光景を眺める様に見てレティシアさんは、目を細めて幸せそうに微笑んだ。



「い、いったい何者なんですか? レティシアさんは? 強いとかそんなレベルじゃないですよ、こんなの」


「あら、そう? 私よりも強い人なんて探せばまだ何人かいるわよ。例えば伝説のSSランク冒険者、ヘリオス・フリートとかそうなんじゃないかしら。私でも、きっと勝てないわ。でも、今ならどうかしらね。ウフフフ」



 ちょっとこの人は、強さのスケールが違うと思った。


 そう、確かにこんな物凄い人に出会ってびっくりはしている。さっきの盗賊団の双子の姉妹だって、絶望した表情をしていた。私だって、偶然知り合ったレティシアさんが、こんな桁違いの強さをもっていた事に対して驚きを隠せない。


 だけど……私は少し慣れ始めていた。


 なぜなら、レティシアさんのような異常な強さの人に私はこれまでも何人か出会った事があるからだ。


 因みにその人とは、実際に手を合わせた事もある。全く、手も足もでなかったけれど――今でもその事は忘れない。初めてその人に認められた時に、この涯角槍(がいかくそう)を譲り受けたのだ。



「とりあえずテトラちゃん、そんな話はあとあと。それよりもそのコルネウス執政官という人を助けに行かないといけないのでしょ? 急がないとね」


「あっ。そうでした!」



 大切な事を思い出した。その拍子に、無意識に思わず頭の上にある三角の耳をピクリと動かしてしまった。それを目にしたレティシアさんは、また物凄い勢いで抱き着いてくる。



「可愛いー!! テトラちゃん、本当に私のお気に入りだわ!! 本当に可愛い!! もう、おばさんの娘にしちゃいたいくらい!!」



 ……え? おばさん?



「さあ、急ぎましょう! 急いで、その執政官さんを助けに行きましょう!」


「は、はい!」



 レティシアさんが、あの双子の姉妹を倒してくれたお陰で私は、その間にホルヘットと戦って負ったダメージが回復していた。これなら……これなら、きっと執政官を助け出せる。


 そう思って二人でモロロント山の山頂を目指した。もうそこは、ここからでも見えている。


 頂上付近まで迫ると、コルネウス執政官の姿が見えた。会った事はないけど、綺麗に整っているお髭。そして高価そうな衣服を着ている事から彼がそうだと解った。


 だけど、なんだか様子がおかしい。


 まだ、少し遠目だけど徐々に彼のもとへ辿り着くにつれて、その異変に気付く。コルネウス執政官は、尻餅をついている状態でその場に座り込み、きょろきょろと空を見回していた。怯え。しかも、その周囲にはコルネウス執政官をここまで連れ去った盗賊達が無造作に転がっていた。


 これって、どういう事?



「レティシアさん! 様子が変ですよ! コルネウス執政官は無事のようですが、なんだか変に空を見回していますし、一緒にいた盗賊達も何かにやられたように倒れています」


「そうね、そうよね。そう見えるわよねー。あーーあ。できれば山頂に着くまでに、解決したかったのだけれど、もう駄目ね。駄目な状況に陥っちゃっているわねー」


「な、何が駄目なんですか?」


「テトラちゃん、実はね。私、冒険者なの」


「そ、それ、さっき聞きましたけど」


「あっ。言ったっけ? それなら話が早いよね。ちょっとここでクイズなんだけど、その冒険者の私がなぜ、このモロロント山にいたのでしょうか? この問題解るかしらー?」



 レティシアさんのその場の空気をまったく読まない、いきなりのクイズに何か不吉なものを感じた。予感ともいう。



「も、もしかして何か冒険者ギルドの仕事をしに来たのですか?」


「わああ!! 流石、テトラちゃんね。お利巧だわ。あとで、たっぷりとなでなでしてあげるわね。そうなの、私この山にギルドの依頼を受けてお仕事をしにやってきたのよ」



 ピイイイイィィィ!!



 その時、上空で何かの鳴き声が聞こえた。鳥?


 コルネウス執政官もその鳴き声を耳にすると、慌てて立ち上がる。そして、私達の存在に気付くとこちらへ向かって何かを叫びながら思いきり駆けてきた。



「魔物だあああ!! 空に魔物がいて襲って来るぞおお!!」



 私はレティシアさんの顔を直ぐに見た。すると、彼女は動揺する事もなくウフフと笑う。



「気を付けてね、テトラちゃん。襲って来るわよ」


「レ、レティシアさんは、冒険者ギルドでなんの依頼を受注したんですか?」


「あっ、やっぱり気になる? そうね。もうどちらにしても解っちゃうわよね。実は、ガルーダの討伐よ」



 ガルーダ。聞いたことがある。強暴な鳥の魔物で、人間を襲って食べる。


 た、大変!!


 私は急いでコルネウス執政官のもとへ走った。もちろん、頭上を警戒しながら。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ガルーダ 種別:魔物

モロロント山の山頂を縄張りにしていた大きな鳥系の魔物。狂暴で人間も襲って食べる。

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