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第366話 『飛び入り参加』




 ファイヤーマンズキャリー。その投げ技をまともに喰らった私は、動けなかった。このモロロント山は岩肌が目立つ山で、地面も岩の部分が多く固い。そこへ、叩きつけられたのだ。



「火事場などで負傷者を救助する際に、こういう風に肩へ抱えあげる。そこから投げ飛ばすから、ファイヤーマンズキャリーって言うんだよ。それじゃあ、可哀そうだけどとどめをささせてもらうよーー。肉弾プレスだ」



 ホルヘットはそう言うと、倒れている私の上にゆっくりと倒れてきた。オークのように肥えた身体が迫ってくる。潰される。


 逃げようと思ったけれど、投げつけられた衝撃で上手く手足が動かない。こうなったらこの攻撃は、もう耐えるしかない。


 そう思って歯を喰いしばり、目を瞑った。すると次の瞬間、私の方へ倒れてくるホルヘットの身体は斜めに傾いた状態でピタリと止まった。



「あれれ? どういうこと?」



 動揺するホルヘット。ホルヘットの倒れようとする身体が、まるで時間を止めたかのように斜めのまま止まっている。


 違う! よく見ると、植物の蔓がホルヘットの腕や足に巻き付いていた。



「うーーん!! 誰か邪魔したかーー。まったくもう」



 ホルヘットは、私への肉弾プレスを諦めると自分の身体に巻き付いた草の蔓を面倒そうにむしり取った。そしてホルヘットが視線を向けるその先には、誰だかは解らないけれど一人の冒険者風の女性が立っていた。



「あらー、駄目よ。そんな可愛らしいメイドさんをあなたみたいな身体の大きな人が傷つけるなんて。関心できないわねー」


「誰だー? お前はー?」


「私? ウフフフ。私は通りすがりの冒険者よ。向こうで、キャンプ張ってくつろいでいたら、騒ぎが聞こえたので様子を見に来てみたのよ」


「それでーー、どうするんだ? オイの邪魔をするのかなーー?」



 ホルヘットの質問を聞いて、その女冒険者はまだ動けないで地面に倒れている私に顔を向けた。私はなりふりかまわずに、その女性に助けを求めた。そうしなければ、コルネウス執政官は、殺されてしまうかもしれない。



「助けて!! 助けてください!!」


「ウフフフ。苦しそうね、きっとこの大きな男の人に、コテンパンにやられてしまったのね。可哀そうな狐のメイドさん。それで、あなたこの私に助けて欲しいのね」


「ち、違います……」


「え? 違うの?」


「この人は盗賊です。この人の仲間に今、この国の執政官が連れ去られてしまって……モロロント山の頂上の方へ向かっていると思うのですが、追って助けてくれませんか? 私の事は、放っておいてもらってもかまいません。コルネウス執政官はこの国の希望なのです」


「うーーん。なんだか、ちょっと複雑な事態に巻き込まれちゃったかなー私。でも、自分の事よりその執政官の心配をしているあなたの事は、興味が湧いてきちゃったかな。ウフフ、だから助けてあげようかなって気になっちゃった」



 女冒険者がそう言って笑うと、ホルヘットは私から女冒険者の方へ狙いを変えて突進した。



「オイが盗賊だと? ふざけなさんなってーー! お前もオイの邪魔をするなら、痛い目に合わせないといけないなーー! ふんがーー!!」


「危ない!! 逃げて!! 逃げて、コルネウス執政官を追って!!」


「そうは、いかなーーい!! 逃がさなーーい!!」



 ホルヘットは、女冒険者に凄まじい勢いで突進した。しかし、女冒険者はひらりと軽やかに避ける。するとホルヘットは、そこからその女冒険者目掛けて、強烈な張り手を連打で繰り出した。



「フンフンフンフン!!」



 見るだけで解る破壊力。物凄い張り手。あの細い首、真面に当たれば、首の骨も折れそう。だけど、女冒険者には全く当たらなかった。



「ウフフフ。凄い張り手ね。でも、当たらなければ意味がないわね。でも、このまま続ければダイエットには、効果があるかもしれないわ」


「生意気な女だーー!! フーーン!!」



 女冒険者の挑発にホルヘットは、顔を真っ赤にする。相手の首が無くなるんじゃないかという位の強烈な大振りの張り手を放った。


 女冒険者はその一撃に合わせてホルヘットの懐に入ると、その伸び切った腕を掴み胸倉を捩り上げて、見事な背負い投げを決めた。



「うわああ!! がへええ!!」



 ホルヘットの巨体が叩きつけられると同時に、砂煙が舞う。震動。女冒険者は、彼が白目を向いて完全に気絶している事を確かめると、私の方へ向かってピースサインをしながら近づいてきた。



「イエーーイエーー、ブイブイー! 私の勝利。ウフフ、凄く楽しかったわー」


「あ、ありがとうございます」


「駄目よ、駄目。無茶しちゃ駄目よ。私が見てあげるから、じっとしていて」



 かなりのベテラン冒険者のようだった。でも、てっきり傷ついた私に回復魔法をかけてくれるかと思ったら、彼女の行動は予想外のものだった。


 まず、なんの躊躇も無く私の胸を触ってきた。



「なななな、何をするんですか!! ちょっと! ちょっとやめてください!」


「やっぱりいいわねー、張りがあるわ。あなた、可愛いし若さもあるし、うらやましい」


「あ、あなただって若いじゃないですか!」


「……え? ほんとに? ほんとにそう思っているの、あなた?」


「え? は、はい」



 女冒険者にそう答えると、両手を合わせ目を潤ませて私の顔に頬ずりをしてきた。



「ひゃああああ!! ややや、やめてください!! どういうつもりですか!!」


「いい子だわ!! あなたとても、いい子だわ! 私、すっごいあなたの事、気にいっちゃった」


「ちょちょ、ちょっと!! ちょっとやめてください!! 耳、耳を触らないでください!! 胸と尻尾も!!」



 どさくさに紛れて身体中至る所を触ってくる女冒険者。


 素手での勝負だけど、私が全く太刀打ちできなかったホルヘットを一瞬にして投げ飛ばしてしまう彼女はいったい何者なのだろうか。


 本当に、単なる通りすがりの冒険者かもしれないけど、その実力はとんでもないレベルだと思った。


 なんとなく……なんとなくだけど、あの方と似ているような気がする。



「う……うう……」



 力を入れて起き上がる。よし、何とか動ける。


 私はホルヘットに遠くへ投げられた涯角槍(がいかくそう)を回収すると、再び女冒険者と向き合った。


 女冒険者は、満面の笑みを見せるとまた私に抱きついてきて頬ずりをしてきた。私は精一杯抵抗して嫌がってみせたけど、女冒険者は全く気にしていない様子だった。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ファイヤーマンズキャリー 種別:体術

投げ技。火事場や負傷した者を安全な場所へ運ぶように抱えがる所からその名がついた。しかし、この技はその抱えあげた所から地面に叩きつけると言う恐ろしい技。

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