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第365話 『岩肌目立つモロロント山 その3』





 だいたい山の中腹位まで来ただろうか。


 そこまで登ると、コルネウス執政官を連れて山頂へと逃げる盗賊達の後姿が再び目に入った。


 モロロント山は、岩肌が目立ち草木が少なく遠くまで見通せるので、確認する事ができた。



「絶対に、追いついて助け出します。絶対に……」



 メイベル達が放った合図を見て、今頃ビルグリーノさんやミリス達が村へ攻め込み乱戦になっているかもしれない。


 ボーゲンも今頃、私の後を追ってこの山を登ってきてきれているに違いない。だけど、待ってはいられない。今、コルネウス執政官の一番近くにいるのは私なのだから。


 また、頭の中にセシリアの姿がちらついた。こんな時にセシリアがいたら、適格な指示をしてくれる。それに、とても心強いのになと思う。


 だけど、いない。だから私がしっかりしないと……しっかりしないと、コルネウス執政官は助け出せない。


 必死になって盗賊達の後を追っていると、そのうちの一人が仲間と別れてこちらに向かってきた。足止めする気だ。


 私は涯角槍(がいかくそう)を握りしめ、向かって行く。こっちに向かってきた男は、私の近くまでくるとウォーハンマーを両手で握った。腕力に頼るタイプ。来る!!


 男はさっきの女剣士や先生と呼ばれていた男と同じく覆面だった。身体は、肥えていてオークのようだと思った。


 男はウォーハンマーを振り上げると、それを思いきり振ってきた。それを避けると、男の側面に回り込んだ。太っているからか、力は強そうだけど攻撃は決して早くはない。



「悪いですか先を急いでいるので、一撃で決めさせてもらいます!」


「へえ、めっちゃ早い動きだねえ。こんな早いと、オイの攻撃なんて当たらんねえ」



 男はおっとりした声でそう言うと、手に持っていたウォーハンマーをポロっと地面に落とし、素手で私の涯角槍(がいかくそう)と腕を掴んできた。まさかの行動だったので、それを許してしまった。


 握られた腕がミシミシと悲鳴をあげる。



「うっ!! このままじゃ!!」



 武器を取られる訳にはいかない。このままだと、握り潰されそうな腕を我慢し堪えて、思いきり男の腹を蹴った。だけど、太っている男の大きな腹は、私の蹴りを弾き返した。


 そして男は、私の腕と涯角槍(がいかくそう)を握ったまま体当たりをしてきた。衝撃。手を離してはいけないと思った。だけど、男はもう一度体当たりを繰り出そうとする。



「どすこーーーいっ!!」


「うあっ!!」



 まるで、走る馬車と正面衝突したかのような衝撃。私の身体は、宙に飛び涯角槍(がいかくそう)は男に取り上げられてしまった。


 地面に落下する直前でなんとか両手をつき、バク転して後方へ転がる。



「ほっほーーう。やるねえ、あんた。名前は? 名前はなんて言うの? え?」


「わ、私はテトラ。テトラ・ナインテールといいます」


「へっへーー。テトラちゃんね。可愛いねえ。とっても可愛い。だけど、ビルグリーノの手先にしておくのは、もったえないなあ」


「手先じゃありません。協力関係です。大人しくコルネウス執政官を返してくれませんか?」


「それはできない相談だ。オイの名前はホルヘット・ガレーソン。グリエルモとは、同士だ。コルネウスのもとへ行きたければ、オイを倒すしか道はないねえ」



 どうしよう。この人、強い。それに、私の戦術とは相性が悪い気がする。涯角槍(がいかくそう)を取られちゃったし……どうすれば、勝てるんだろう。


 ……ここへきて、とんでもないのが現れたと思った。


 ホルヘットが手に握っている、私の涯角槍(がいかくそう)にチラチラと目をやる。すると、それに気づいたホルヘットがニヤニヤと笑った。



「これ、欲しいんでしょ? 物凄く物欲しそうにこれ見てるもんねー。もしかして、君……槍がないとオイと戦えなーーい? ずばりそうでしょ?」


「そそそ、そんな事ありません」


「ふーーん。そう。……じゃあ、こんなもの無くてもオイと戦えるよねーー、そういう事だよねーー」



 次の瞬間、ホルヘットは涯角槍(がいかくそう)を空高く投げた。


 涯角槍(がいかくそう)は、遥か向こうに落ちて地面突き立った。もう、これで素手で勝負を決するしかなくなってしまった。



「さあ、オイと素手で対決だあ。フッヘッヘッヘ。テトラちゃんって言ったね。君みたいな可愛い子と手を合わせる事ができるなんて。オイはついてるよねーー」



 両手を突き出し、独特な構えを見せるホルヘット。


 獣人は本来、ヒュームに比べると身体能力や動体視力に優れているという。だけど、私は素手での戦闘は得意じゃない。モニカ様とも、剣や槍など武器を手にして稽古してきたけど……


 とてもじゃないけど、こんな力自慢の大きな男の人と素手で勝負なんてできるはずないと思った。



「あなたと勝負している暇なんてないでんです! どいてください!!」



 ホルヘットの横を通り抜けようとした。向かって行く素振りを見せて大回りに、かわして逃げる。



「あーー。テトラちゃん逃げる気かーー。オイから逃げる気かーー」



 ホルヘットは両手を突き出したポーズから、身を低くすると私の方へ思いきり踏み込んできた。早い!! そして、腕を掴まれた。掴まれた腕がミシミシと音を立てる。激痛。



「い、痛い!!」


「テトラちゃんの腕は細くて柔らかいねーー。だけどこの腕であの槍の一撃を繰り出しているんだよねーー。ふーーん、凄いなーー」


「離して!!」


「え? ヤダよ」



 ホルヘットのヘラヘラした顔は、いつのまにか真顔になっていた。そして、私の腕を掴んだままもう一方の手を私の足の間に滑り込ませてきた。



「えええええ!! ちょちょちょ、ちょっとそこは!!」



 とんでも状況に私は掴まれていない方の手で、ホルヘットの腕を掴んで脱出しようと試みた。だけど、駄目だ。


 ホルヘットの腕は私の股下を通過して、腰のあたりまで伸びてきて、その辺りを掴まれた。それからホルヘットは、そのまま私の脇の下に首を入れて私を肩に担ぎあげる。まるで、俵を運ぶのに担ぎあげているよう。


 股下に腕を入れられた時は、動転したけれどこれは……投げ技。



「テトラちゃん、可愛いからさーー。あまり気が引けるんだけどさーー。このまま横に投げ落とす技なんだよねー、これ。ファイヤーマンズキャリーって投げ技でね。火事場とかで人を救助する時に抱え上げて背負うやり方があるんだけどね、そこから一気に投げ落とすんだ。へへへ」


「ちょ、ちょっと待ってくだ……」



 言い終える前に、ホルヘットは私をこの岩山の固い地面に叩きつけた。


 





――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ホルヘット・ガレーソン 種別:ヒューム

モロロント山にて覆面女剣士&先生の次に現れた敵。オークのような体つきの男。太っているので動きが遅いと思われがち。しかし、掴み技が得意で強力な張り手も放つ強敵。戦い方もテトラよりも上手。

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