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第360話 『潜入に適した者』




 ボーゲンがいなくなった。


 私はなんとか普通に動けるまでに回復はしたけれど、ミリスが心配だからとか言って、癒しの回復魔法(ヒーリング)をかけるからと、私の服を脱がそうとしてきた。だから、私は逃げ惑っていた。


 そしてビルグリーノさんには、トリケット村へ攻め込むなら、ボーゲンは絶対必要だから少し待ってほしいと言った。


 ビルグリーノさんは、ボーゲンの名を聞いて不愉快な表情を見せたけど、頼み込むと私に微笑んで「解った、待とう」と言ってくれた。


 私は私のスカートをめくり上げようと追いかけてくるミリスから逃げる……じゃなく、ボーゲンを探す為に彼が消えていった森に足を踏み入れた。


 ボーゲンの事はまだよくわからないけど、近くにいるという確信はあった。だって彼は、とんでもない性格で問題を起こすような態度と発言ばかりするけれど、なんていってもバーンさんが推薦する位の人だから。


 だから、バーンさんの名を汚すような事はしないと思った。上手くは言えないけど、誰かと喧嘩したからって途中で大事な事を投げ出す人ではない。


 暫く、森を歩いていると小さな泉を見つけた。


 その畔に目を移すと、木にもたれかかって煙草をふかしているボーゲンを見つけた。


 急いでボーゲンに声をかけようとしたけれど、一瞬ボーゲンに蹴られた股間にジーーンと痛みが走った。顔をしかめる。すると、自分の心の中でボーゲンにちょっとした怒りが湧いてきた。


 一応、私も女の子。ちょっとは、反省して欲しい。


 私は、普通に声をかけるのをやめてこっそりと、草場の方からボーゲンの方へ忍び寄っていく。いきなり声をかけて、驚かす為だ。それくらいしないと、気が収まらない。


 びっくりして肝を冷やせば、ボーゲンも少しは反省するに違いない。


 ボーゲンの後ろの草場に回り込み、一気に躍り出て大声をあげた。



「わああっ!!」



 ――あれ? いない⁉


 次の瞬間、何者かが私のお尻をひっぱたいた。私はびっくりして、飛び上がった。



「きゃああああ!!」


「なにしてんだ? お前?」



 慌てて振り返ると、そこにはボーゲンが立っていた。まさか、忍び寄る私にもう気づいていて、その裏をとられるなんて……


 私は槍の扱いと、気配を消して潜入とかそういうのには少し自信があったのでショックだった。



「それで?」


「もう、皆準備ができてますよ! 来てください! 一緒に、トリケット村を盗賊達から解放して、コルネウス執政官を助け出しましょう!」


「……ッチ! どうしてお前は俺に付きまとうんだよ。凄く嫌な奴だろ、俺は? こんな奴、放っておけばいいじゃねえか」



 私は、顔を左右に振った。



「私はボーゲンの事を正直まだ解りません。だけど、バーンさんの事は信頼しています。ミラール君やロン君。それにクウちゃんやルンちゃん。皆が慕っているバーンさんの事をです。そのバーンさんが、自分の弟分で信用できるとボーゲンの事を言っていました。だから、ボーゲンの力は絶対に必要だと思っています」



 そう言うと、ボーゲンは驚いた顔をした。



「へえ、お前……バーンさんを信頼しているのか」


「はい!」



 あれ? 機嫌が戻った?



「はんっ! 解ったよ、じゃあそろそろメイベル達の所へ戻ってやるよ」


「はい! ありがとうございます!」



 ボーゲンは、つかつかと皆が待っている方へ歩き出した。私は、ほっと胸を撫でおろしてその後ろをついていく。すると、急にボーゲンはピタリと足を止めた。呟くように言う。



「……悪かったな」


「へ?」


「悪かったよ。お前の大事な股間を蹴った事は悪かった。許してくれ」



 私は顔が真っ赤になった。



「もおーーー!! やめてください!! 謝ってくれた事は嬉しいですけど、もうちょっと言い方に気を使ってくださいよ!! 私、恥ずかしいです!!」



 興奮しながら、ボーゲンに纏わりつくようにしてそう言いながらも顔を覗き込むと、一瞬ボーゲンが笑っているように見えた。


 私が笑顔のボーゲンに気づいて驚いた顔をすると、彼はまた無表情を保った。






 ――――皆のもとに戻ると、全員戦闘の準備ができていた。


 ビルグリーノさんが、ちらっとボーゲンの顔を見ると直ぐに私の方へ視線を変えて言った。



「それじゃ、これからトリケット村を占領する賊どもに奇襲をかけるぞ。まずは初めに、先発隊が村へ潜入し敵を混乱させるんだ。その際、コルネウス執政官の救出は何においても優先しろ。もしもコルネウス執政官が殺されたら、俺達の負けだ。このメルクト共和国は完全に『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の巣となるだろう。だから、何としてもやりとげねばならない。無事救出できたら、外で待機する仲間へ合図を送れ。そしたらここで待機している部隊が、一斉に村へ攻め込んで制圧、俺達の勝利だ」



 メイベルが、はいはいっと手をあげる。ビルグリーノさんがメイベルを指さした。



「それで、初めの奇襲部隊……というか潜入部隊は誰がいくでやんすか? 潜入が得意な者がいいなら、あっしがいきやすが」


「メイベル、行ってくれるか?」


「ええ。潜入は、あっしの得意分野でやんすからね。それと、ディストル、マルゼレータの3人で忍び込むめば手堅いでやんしょ!」


「ま、待ってください!!」



 考えるよりも先に私は手をあげていた。皆の注目が私に集まる。緊張。背中を汗が伝った。



「潜入なら、私も得意です。私と、ボーゲンもメイベルについて行きます」



 メイベルは、私がそう言う事をまるで予感していたかのような顔をした。だが、ビルグリーノさんの顔は険しくなった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


癒しの回復魔法(ヒーリング) 種別:神聖系魔法

黒魔法とは異なり、怪我など癒すことができる魔法。クレリックやプリースト、シスターなどの聖職者が一般的には使用できる。

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