第36話 『再会を祝して…… その1』
かなり、酔っぱらってしまった。まずい。…………いや、酒場の料理も酒も美味かったんだが、それで思った以上に飲みすぎてしまった。
…………うう…………目が回っている。……それにちょっと気持ち悪いかもー。っう……
途中、何度か記憶が飛んでしまっていた。記憶が飛んでいるので、こんな事をあえて言うのは、おかしいかもしれないが、その時の事は断片的にしか覚えていない。
アテナやハルの話によると、オレはかなり酔っぱらうと、笑ったり怒ったり泣いたりしていたらしい。…………ちょっと、ヤバイな。
「どう? 気分は良くなった?」
「ああ。ありがとう。もう大丈夫だ」
隣を見ると、ベッドの上にアテナが座っていた。心配してくれている。
あれから、結構飲んでいたようだが…………気が付いたら、今はもう宿に泊まっている。途中、ダウンしたオレをアテナとハルが、宿まで運んで休ませてくれたんだ。少し思い出してきた。
ん? 部屋を見回す。
「あれ? ハルとルキアは?」
「ハルは、まだ飲みたりんって言って今も飲んでるよ。それに宿で、すでに部屋はとってるから、アタシの事は気兼ねしないで先に休んでねって言ってたよ」
「そうか。じゃあ、心配ないか……それにしても酒豪だな、ハルは」
「それで、ルキアはね…………」
そう言ったアテナの目線の先。アテナとは反対側のベッド。そこでルキアは、くうくうと可愛い寝息をたてて眠っていた。
確かこの子は、人さらいに村を焼かれ、家族や仲間を殺され、奴隷として売り飛ばされそうになっていた所をアテナが助けたんだよな。………………亡くなった子もいたと言っていた。そんな酷い事をするやつがいるなんてな…………
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
アテナは、布団を被った。オレは、気になっていた事を聞いてみた。
「本音を言うと、今日も宿ではなくて、キャンプしたかったんじゃないのか?」
「え? フフフフ。昨日この村近くで、ルキアとハルとキャンプしたからね。今日は満足はしているからいいの」
ふむ。きっとオレが酔っぱらって、辛そうにしているので、気を使って今日の所は宿にしてくれたのだろう。
「ルシエル…………」
「ん?」
「ラスラ湖での事なんだけど…………黙っててごめんね。私…………」
「お姫様だったんだな。でも、それだけだろ?」
「…………びっくりしたんじゃない?」
「びっくりは、したけどさ。でも、アテナはアテナだろ?」
「………………ありがとう、ルシエル」
「お……おう……」
「じゃあ、寝まーーす」
ええーーーー!!
アテナは、そう言ってロウソクを吹き消した。
「なあ、明日からどうするんだ?」
「村を出ます」
「村を出てどうするんだ?」
「明日発表しまーーす。もう、眠いから寝るね」
「…………おーーい、アテナ? おーーい」
アテナの寝息も聞こえて来たので、諦めて寝る事にした。
――――朝。目が覚めた。
「おはようございます! ルシエルお姉さま!」
起きたと同時に可愛らしい猫耳少女の顔が、飛び込んできた。
「ルシエルでいい。もう仲間だ。オレもルキアって呼ぶ」
「はい! 仲間です! よろしくお願いします。……ルシエル」
ルキアは、もじもじしながら顔を赤らめて言った。
「さあ、二人とも支度して。準備を整えたら、早速出発するわよ」
行先は? と聞こうとしたらアテナが先に答えた。
「次の目的地は、ガンロック王国よ」
「ガンロック王国?」
確か、一面砂漠…………いや、荒野が広がっている国だっけか。
「ねえ、この本を見て。キャンプを楽しむ冒険者って本。著者リンド・バーロックが冒険を初めて、最初に行った国よ」
「見たことあるな、その本。ああ、ローザやミャオとラスラ湖でキャンプした時に、アテナが夢中になって読んでいた本か」
にっこりするアテナ。
「っそ! ガンロック王国はクラインベルト王国の隣国なんだけど、私まだ行った事ないんだよね。だから、行ってみたい!! ルシエルもルキアもないでしょ? 行ったこと? それなら、行ってみたいと思わない?」
「うーーーん。思う!!」
「思います!!」
オレは、ルキアとほぼハモる形で答えた。
「じゃあ、早速旅の準備をしましょう。食糧と調味料…………ちょっと、野菜も買っておきたいのよね。あと、早速だけど村を出たらトロフの森って所によるから」
「ハルは一緒に行くのか?」
「あっ。そっか。昨日は、二人ともお酒飲んでバタンキューだったもんね。ハルは、もう少しこの辺りでギルドの仕事をするそうよ。でも、村を出るまでは付き合ってくれるって。丁度、今頃は露店が並んでいる辺りで待ってくれているはずだよ」
ハルは、一緒に行かないのか。気が合いそうだったので、残念に思った。気が合いそうな仲間っていうと、ローザの事を思い出す。元気で、やっているだろうか。
宿を出ると、露店が連なって並ぶ通りにでた。そこで待っていたハルを見つける。ハルにアテナが、手を挙げてかけよった。
「ハル! 待った?」
「いや、大丈夫。これからギルドで仕事受けようと思ってたからさ、色々必要な物を見てた」
「それなら良かった。じゃあ、色々一緒に見て回ろう」
オレ達は、露店に並ぶ様々な商品に、常時、目を奪われながら買い物をして楽しんだ。
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〚下記備考欄〛
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。お酒は人並みに飲める。ニガッタ村で無事アテナと合流を果たす。ルキアに加えてハルも、一緒に仲間になって行動を共にすると思っていた。
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。お酒は結構強い。ニガッタ村でルシエルとの合流を果たす。ハルとも凄く気が合うので仲間に誘いたかったが……
〇ルキア 種別:獣人
Fランク冒険者。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気を使える優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンに冒険者登録をしてもらい、彼の持つ高価そうな特別なナイフを貰った。お酒はぜんぜん飲めない。ニガッタ村で、アテナの仲間だというルシエルと出会う。ハルも一緒になれば楽しいと思っているが同時に、耳をずっとハムハムされるという点では不安になっている。
〇ハル 種別:ヒューム
Dランク冒険者。クラスは【シーフ】。酒豪。気さくで優しい性格。最近はニガッタ村を拠点にして、周辺を荒らす魔物の討伐などを請け負っている。気ままな生活が好きで、1人で行動しているがアテナやルキアと知り合い、仲間と一緒に活動するのもいいなと思う。なのでアテナ達と一緒にパーティーを組んでもいいかもと思うが、結局一緒には行かないようだ。もしかしたら、まだニガッタ村を離れたくないのかもしれない。
〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム
クラインベルト王国、国王直轄の騎士団『青い薔薇の騎士団』の団長。赤髪ショートヘア。エスカルテの街で、アテナとルシエルと出会い親友となる。アテナが王女である事は、知っている。悪に対しては、ものおじせず自信満々の太々しい態度をとるが、信頼する者に対してはたじたじの場面もある。両親を尊敬しているが、加えて甘えん坊でもある。部下の信頼も厚い。
〇ミャオ 種別:獣人
エスカルテの街でお店を経営している商人。アテナとルシエルとは友人。
〇リンド・バーロック 種別:ヒューム
アテナの愛読書『キャンプを楽しむ冒険者』の著者。今よりも昔、旅やキャンプを愛していた人で、クラインベルト王国出身であり、そこから色々な国を回って得た経験を本に記している。アテナは彼の本を読むことで彼の回った国をトレースしてみたいと思った。
〇トロフの森 種別:ロケーション
クラインベルト王国にある森。ニガッタ村近くにある森で、アテナがニガッタ村をあとにして次に向かおうとしている場所。
〇クラインベルト王国 種別:ロケーション
アテナ一行のいる国。緑が多く、恵まれた土地。故に動物や魔物も沢山いる。
〇ガンロック王国 種別:ロケーション
アテナが次に行ってみたいと思っている国。クラインベルトの南東に位置する国で、一面荒野が広がっている国。大地は痩せ、岩がそこら中にある国のよう。
〇ラスラ湖のこと
アテナ一行がローザと別れる際に送別会として、そこでキャンプした。翌朝、ローザを送り出した冒険者としての活動を続けるつもりだったが、王国のゲラルド・イーニッヒ近衛隊長がアテナを迎えに来る。そして、アテナは無理やり王都へ一度帰った。ミャオとルシエルはそのまま置き去りとなり、一旦エスカルテの街へ戻るがルシエルはアテナと別れる際にニガッタ村で再会するという約束をする。そして、ルキアという新しい仲間を迎え入れつつも再び合流する事ができた。
〇お酒に関すること
クラインベルト王国では、年齢による飲酒の制限は特にされていない。だからと言って何かあっても自己責任なので、自分の許容量を図って酒に飲まれるような事をしてはならない。




