第354話 『グライエント坑道及び、採掘場 その3』
グライエント坑道。その奥で、大きな爆発音がした。辺りが大きく揺れる。天井からは、小石と土がパラパラと落ちた。
「坑道の奥で何かが爆発したぞおおお!! この辺り一帯は落盤する!! 皆、逃げるんじゃあああ!!」
一人のドワーフがそう言って大声で叫んだ。叫び続けて、周囲にいる採掘作業しているドワーフや、ドワーフ兵達を煽った。見事に扇動しているのは、ギブンだった。
「ル、ルシエル!! あなた達、なにをしましたの? まさか、このグライエント坑道を破壊して使えなくするために、何かを爆発させましたの?」
「え? ち、違うよ」
「絶対、そうでしょ!! じゃあ、なぜそんなに汗を掻いて口をとんがらせているの!? 間違えなく、あなた達の仕業ね。してやられたという訳なのね!!」
「うーーん、言いたいけど言っていいか解らんし、もし言ったら駄目だったらアテナに怒られるし……ノーコメントで! だけど、ここから大急ぎで非難した方がいいっていうのは、間違えないぞ! お前らもさっさと逃げればいい」
「そんな事を言っても、わたくしはお父様にこの場所の監督を任されておりましたのよ。このまま、坑道を破壊させる訳にはいきませんわ!」
シャルロッテは、そう言って再び鞭を放ってきた。しかしオレはその攻撃を避けるとともに、ルキアやアテナのいる方へ走り出した。もう、十分だろう。
「お、お待ちなさい!!」
ドドーーーーン!!
更に奥で、爆発音。続けて轟音が鳴り響く!! 最初の爆発では天井から土や小石程度の物が降ってきていたが、ついに大きな石など落下してきた。坑道内も微妙に揺れている。強い震動。
「シャルロッテ様! ここは一旦引きましょう! あのルシエルの様子……アテナ達は、間違えなくこのグライエント坑道を破壊するつもりです!」
「嫌ですわ! なんとしても、ここでアテナ達を拘束するんですわ。でないと、とてもお父様にも申し開きできませんわ」
ドドドドドドド……
どんどん、坑道が崩れていく。しかし、それを更に加速させるように続く爆発音。
ミューリとファムが上手にあちらこちらにダイナマイトを設置し、『遠隔火花操作魔法』って魔法で起爆させている音だ。直にこの辺りも全て崩れて岩と土に埋もれる。
「このままここにいたら死ぬぞおおお!! 生き埋めになって死ぬぞおおお!! 命あっての物種じゃあ!! 皆、列を作って慌てず冷静に、素早く逃げるんじゃああ!!」
ギブンの扇動と、とめどない爆発音。もうこのグライエント坑道にいる作業員のドワーフと大半のドワーフ兵は、坑道の外へと逃げ出していた。
これで、計画成功だ。あとは、上手く脱出して坑道全体を崩したら任務完了だ。
「おおーーい!! そっちはもう大丈夫か!」
アテナやルキアの方へ走る。どうやらそっちの方も、片付いたようだ。
「ちょちょちょっと、ルシエル!! 後ろ、後ろ!!」
「ルシエル!! 後ろを見てください!!」
「え? なんだ、どうした?」
アテナとルキアが指をさしてなにか騒いでいる。走りながらも後ろを振り向いた。
「え!! 嘘だろ!?」
すると、オレの後を何十人ものドワーフ兵が鬼の形相で走って追い掛けてきていた。その集団の先頭には、シャルロッテとキョウシロウもいる。
くっそー!! あいつら、どうしてもここで決着をつけるつもりか? オレはアテナの方に逃げながらもシャルロッテとキョウシロウに向かって叫んだ。周囲の落石は更にひどくなる。
「もう遅い!! もうここは崩れて埋まるって!! シャルロッテもキョウシロウも早くここを逃げろ!! 今はもう、争っている暇じゃないだろうが!!」
「あなた達から仕掛けてきたくせに、よくそんな事が言えますわね! どちらにせよ、わたくしはお父様に任されていたこのグライエント坑道といくつもの採掘場を一度に失ったのですから、大目玉ですわ! これで、ドワーフ王国は追い詰められ、帝国との同盟やわたくし達公国との関係も絶たれましたわ! それならせめて、問題を起こしたあなた達を拘束する。それしかありませんわ」
「えええ!! でも、そんなんでここで生き埋めになったり、落石に直撃して死んだらお終いだろうが!! オレ達、友達だろ? ここは、オレ達に構わずに逃げるんだ!」
「嫌ですわ! あなた達とは、友人ですが今は関係ありませんわ。今、あなた達を追いかけているのは、あなた達の友人シャルロッテではなく、ヴァレスティナ公国のシャルロッテ・スヴァーリですわ」
キョウシロウも、オレを捕らえようと必死になって駆けてくる。
「先に仕掛けたのは、お前達だろう!! お前達を拘束するが、抵抗するようなら斬る。できれば斬りたくない……だから、応じるんだ! そうすればお前たちの命に関しては、俺とシャルロッテ様が必ず守る!」
参ったな。これは、どうやってもついてくる気だ。
オレは、ひたすらアテナのいる場所へ駆けた。ようやく、アテナのもとまで辿り着くとアテナは目の前のトロッコに、ルキアとカルビを乗せて押していた。
「お、おい!! アテナ!! もうそこまで、シャルロッテ達が迫ってきているんだぞ! こんな時に、なにトロッコみたいなめちゃくちゃ面白そうなものを転がして遊ぼうとしてるんだ?」
「いいから!! いいから手伝って!! このトロッコに乗って走って行けば、簡単に逃げ切れるし坑道から出られる!! だから、押して!!」
なんだと!? こんなもんに乗って、ここから脱出するだと!?
それを聞いて、オレはつくづくアテナと一緒にパーティーを組んで冒険をしてよかったと思った。これは絶対に楽しいぞ!
「よーーし!! 今押してやるからなーー!! いくぞーー!!」
後方からシャルロッテとキョウシロウがドワーフ兵を率いて迫ってきている。オレはアテナと並んで一緒に、ルキアとカルビの乗るトロッコを押した。すると、一気にトロッコは動き加速した。
その瞬間を見計らって、アテナもトロッコに乗り込む。
「よし! オレも!!」
一緒にトロッコに乗り込もうとした瞬間に、オレの足にシャルロッテの鞭が巻き付いた。
「ルシエルーーー!!」
「アテナーー!! ルキアーー!! カルビ――!!」
叫んだが、アテナ達の乗るトロッコは猛スピードで坑道の外へと走り去っていく。
オレはシャルロッテ達と共に、この今もどんどん崩れ行くグライエント坑道にとり残されてしまった。
ど、どうしよう……とりあえず、足に巻き付いた鞭を外さねば! 鞭に手をかけようとすると、キョウシロウと共に無数のドワーフ兵が束になって襲い掛かってきた。




