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第35話 『五日ぶり』






 ――――アテナが、そこにいる。

 

 声をあげて、近寄っていくとアテナもこちらに気づいて、笑顔で手を挙げた。手招きしている。あれ? 一緒にいる獣人の少女はだれだ?



「久しぶりーーって……5日ぶりだけどね。あはは。もうなんか、ずっと会ってなかったみたい。ルシエルを連れてきてくれてありがとう、ハル」


「お安い御用ですぜ。へっへっへ。暇してたからね、丁度いい暇つぶしになったよ」


「アテナ! 会いたかったぞ! オレもなんだか、長い間会ってなかったような感じがしている。兎に角、無事再会できて良かった!」



 アテナと無事再会できた喜びも高まって、ぎゅっと抱きついてしまった。



「ぎゅっ!!」


「フフ……ルシエルったら…………」



 …………そう言えば、ローザの姿はここには無い。やはり、騎士団の使命とやらでここへはこれなかったか。



「それでどうだ? あたしがルシエル探しに行っている間に、交渉は上手くいった?」



 交渉?



「なんだ? 交渉って?」


「このニガッタ村はね、ライスが特産品なの。凄く美味しくて、王国中からお客さんがわざわざ買いに集まってくる程なんだよ。それで、私もその美味しいライスが食べたくて買おうと思ったんだけど、想像してたよりニガッタ産ブランドのライスって、高くて…………それで、もう少し安くならないかって交渉をしていたんだけど、それにかなり時間を費やしてたから」



 じゃあ、ハルは――――



「それであたしは、その間やる事もなく暇してたし、ルシエルの話をアテナから聞いてたから、もしかしたらもう村に到着しているかもしんないって探しに徘徊してた訳」


「なるほど、そういう事だったのか。ありがとう、ハル。しかし、話だけでよくオレがルシエルだってわかったな」


「輝く程の黄金の長い髪で、天使のような美しい顔のハイエルフ。弓を所持していて、テントなど大きめの荷物をしょっている。そして、エルフには似つかわしくない感じの、男みたいな喋り方をする。エルフってだけでも、目立つしすぐわかったよ」



 ハルは笑いながら答えた。



「……そ……そうか。ちょっと天使のような……ってところは、恥ずかしいからやめて欲しいな」


「そう? だってルシエル、かなりの美人だよ」


「もういいよー。そうだ!  あと、気になっているんだけど、この獣人の子はだれなんだ?」


「は……はじめまして! わわっわ……私、ルキアって言います!! アテナにお願いして、この度、このパーティーに新メンバーとして入れてもらいました! 一生懸命、お役に立てるように頑張ります! よろしくお願いします!」


「新しい仲間なのか!! おどろいた。ローザを思い出すな。ハルもなのか?」


「え? あたしは、ゲストかな。一時的に行動している仲間……友達だね」


「ほう。なるほど。じゃあ、改めて自己紹介だが、オレはルシエルだ!! ルシエル・アルディノア。ハル! ルキア! これからよろしく頼む」



 二人と握手した。ルキアは、緊張しているのか、握手する手が震えていた。



「じゃあそろそろ交渉を終えないとね。そんな訳で、おじさん……この美味しそうなライスを、もう少し安く分けてもらえないかしら」

 

「こんな美女が4人もお願いしてんだからさ。っな。おじさん――ん、おねがーーい」



 ハルが甘えた感じで、店主に詰め寄る。困る店主。



「美女ってオレもか⁉ 恥ずかしいから、そんな事を人前でいうなよ」


「わ……私、び……美女では…………」



 ルキアは、顔を赤くしている。



「わかったわかった!! じゃあもう少し、負けてやるからそれでいいだろ? まったく最近の若い娘は…………」


「やったーーーー。負けてくれてありがとう! おじさん!! ナイスな値切りありがとう! ハル!!」


「なんじゃそりゃ」



 ハルは、爆笑。アテナは、飛び跳ねて喜んだあと、ライスを購入した。


 それから、ハルの案内で酒場に入った。どうやら、アテナとハルとルキアで色々あったらしく、ハルがオレも含めてこの酒場でご馳走してくれるらしい。



「いらっしゃいませ。ご注文は、お決まりですか?」



 ウェイトレスがオーダーを取りにやってきた。



「アテナもルキアもルシエルも、今日はじゃんじゃん頼んでね。あたしのおごりだから!! とりあえず、エール4つねー」



 エール⁉ 


 酒だ。オレは産まれてこの方、酒を飲んだことがない。大丈夫だろうか。不安が顔に出ていたのか、アテナが突っついてきた。



「もしかして、ルシエルはお酒飲んだことない? 私も冒険者になってからは、飲んでないけど」


「ってことは、アテナは飲んだことが、あるのか?」


「まあね。おめでたい時とかかな」



 ふむ、なるほど。王宮にいた時に、飲んだんだな。



「駄目だったら、あたしが飲んでやるからさ。とりあえず、形だけでもって事で、最初の一口だけでもね。ルキアは、お酒は一口にしておこうね」


「は……はい」


「ああ。そうだな」



 エール、それに茹でた豆に骨付き肉、揚げた軟骨がやってきた。4人ともエールの入ったジョッキを片手に持つと、ハルが立ち上がって、



「それじゃ、この出会いを祝しまして――――カンパーーーーイ!!」



 音頭をとった。


 オレは、エールを一口飲んでみた。



「うまいな!」



 それを見ていたハルが、ウェイトレスを呼んで追加注文をすると、アテナはあまり飲みすぎないでねと釘を刺した。


 っふふ。飲みすぎるなと言っても、オレは子供ではないからな。いちいち言われなくても、解っているぞ。


 そして、ふとルキアの方を見るとエール一口でもう撃沈していた。アテナに膝枕してもらって、うんうん唸っている。


 新しい仲間のルキアには、色々聞きたかったんだが…………まあ、これから一緒に行動するなら、これからいくらでも話せるだろう。



「しかし、この酒……美味いな」


「葡萄酒もあるよー。飲む?」



 ニヤニヤしながら、ハルが進めてきた。



「勿論だ! 今日は、飲むぞ!」



 オレは、親指を突き立てて自信満々にそう言ってやった。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。アテナとはラスラ湖で別れる事となったが、現在いるニガッタ村で無事合流を果たす。そして、新しいパーティーメンバーのルキアとも知り合う。


〇ハル 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【シーフ】。気さくで優しい性格。最近はニガッタ村を拠点にして、周辺を荒らす魔物の討伐などを請け負っている。気ままな生活が好きで、1人で行動しているがアテナやルキアと知り合い、仲間と一緒に活動するのもいいなと思う。ルキアの耳をハムハムすると、癒される。猫耳だけで手いっぱいだが、実は尻尾もハムハムしたいと思っている。


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。ラスラ湖でルシエルと別れるが、ついに約束したニガッタ村で再会を果たす。途中出会い、行動を共にする事になったルキアとハルをルシエルに紹介した。


〇ルキア 種別:獣人

Fランク冒険者。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気を使える優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンに冒険者登録をしてもらい、彼の持つ高価そうな特別なナイフを貰った。ニガッタ村までの道中、アテナの仲間であるルシエルの事を話しに聞かされていたがついに対面する。そして、緊張している。ルキアはエルフと会うのも生まれて初めて。


〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム

クラインベルト王国、国王直轄の騎士団『青い薔薇の騎士団』の団長。赤髪ショートヘア。エスカルテの街で、アテナとルシエルと出会い親友となる。アテナが王女である事は、知っている。悪に対しては、ものおじせず自信満々の太々しい態度をとるが、信頼する者に対してはたじたじの場面もある。両親を尊敬しているが、加えて甘えん坊でもある。


〇アテナがライスを購入しようと交渉していた店主

アテナ達可愛い女子に詰め寄られて、ライスを値引きしてしまった。アテナ達は確かに美少女ではあるが、店主の好みは実はもっと熟女が好みだったので値引きは渋々だった。好きな朝食は、ハムエッグトーストと珈琲。機嫌のいいときは自然に口笛を吹くが嫁に冷たい視線で見られ、それからはこっそりと口笛を吹いている。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

ルシエルのパーティーメンバー、アテナと合流する待ち合わせの場所。ライスが特産品で、それを目当てに商人が沢山やってきて賑わっている。宿屋や酒場、冒険者ギルドまであり、通りには露店などもある活気のある村。アテナとルシエルは、この村で合流するという約束を果たす事ができた。あとは、美味しいライスを購入して食べてみるだけ。



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