第345話 『ミスリルシールド』
ディグモールの掘った横穴から、一斉に飛び出して襲ってきたジャイアントアント達を全て倒した。
皆、顔を見合わせたタイミングで、ミューリが言った。
「ギブン……こ、これはどういう事かな」
「ぬ。そ、そうじゃのう」
ディグモールが掘って作ったグライエント坑道まで続く横穴。そこから一斉にジャイアントアントが飛び出して来た理由。私はなんとなく、想像がついていた。
「おそらくなんだけど、この穴の奥にディグモールがいるんじゃない? ジャイアントアント達は、この横穴に入っていってディグモールに遭遇し襲われたからここへ逃げてきた。そう思わない?」
ミューリとファムが顔を合わせると、ルシエルとルキアも顔を合わせた。
ギブンはウォーハンマーを手に持ったまま、穴の前に立った。
「どちらにせよじゃ。どちらにせよ、前に進むしかない。事は急いておるんじゃ。このままこうしておる間にも、ガラード殿下はヴァレスティナ公国の者を使って陛下から、国王の座を奪うかもしれん」
「でもそこまでするのかな? ガラードは、ガラハッド王の実の息子なんでしょ?」
ミューリが溜息をついて言う。
「うん。そうなんだけどさ。でも、ギブンの言う通りだと思うよ。ガラード殿下に会ったから、その気性も目の当たりにしたと思うけど、ああいう性格だし完全に周りが見えなくなっている。本人は、ちゃんと物事が見えているつもりだけどね。帝国や公国と関係をつくり、軍事力を高める事がドワーフ王国を救う術だと思っている。帝国や公国と一緒に他の国を侵略し、攻め取る事が平和への第一歩だと考えているんだよ」
「ファムもそう思う。ガラード殿下と一緒にいた鋼鉄のフルプレートメイルを着込んでいたアイアンゴーレムみたいなドワーフの男。あれは、この国の戦士長ギリム。超武闘派で、ドワーフ兵の司令官。その男が陛下ではなくガラード殿下のもとに侍っている状況を見ても、ガラード殿下は戦争反対を主張する陛下とその穏健派の臣下達を、拘束する準備をしているはず」
ドルガンド帝国やヴァレスティナ公国は、私が随分小さい頃からこのヨルメニア大陸の征服戦争を画策していた。それを知らない国も、今はそれほどない。だから、ガラードは焦っているのだろう。でも、それは間違った選択。
戦争は、私の国クラインベルト王国もした歴史はあるけど、守る為の戦いと征服する為の戦いは違う。
「わかったわギブン。先を急ぎましょう。陛下についているノエルがいくら強いと言っても、その戦士長ギリムやキョウシロウ、それにシャルロッテに一斉にかかられたら解らないわ」
私の考えを聞いて、ギブンは安堵の溜息を吐いた。
「良かった、解ってくれたか。それじゃあ、急ごう。儂が先頭で穴を進む。儂には、このウォーハンマーの他にこの大盾があるからの。ミスリス製の盾じゃ。たいがいの攻撃は、これと儂のこの太い腕で受け止められるわい」
「それなら、私とルシエルも先頭を歩く。その後ろにルキアとカルビ。後衛にミューリとファムがついて」
「よっしゃ、オレに任せろ!」
「ルシエル! あまり、一人で前に出ちゃ駄目ですよ! ちゃんとアテナと一緒に行ってください!」
「はいはーーい、解ってるってー」
「もうっ! ルシエルったら!」
ルシエルと、ルキアのいつもの調子を見ると安心する。全員がファーメーションを理解して配置についた。
ディグモールの横穴に入り、前進する。
「それで、ディグモールっていう魔物は強いの? あの数のジャイアントアントの群れが、慌てて穴の外を目指して逃げてくる位だから、強そうだなとは思うけど」
「ああ、それは」
ギブンに聞いたつもりだったが、博識なファムが代わりに答えてくれた。
「強いよ。見た目は大きな土竜。この穴を見てある程度想像はつくと思うけど、小さなものでもトロル位のサイズはあると思う。危険なのは、ギブンに負けない位の大きな両腕と、そこについている鋭い爪だよ。ディグモールは、その二本の腕を使って地中を掘り進むんだ。特にこのノクタームエルドは、岩山だらけだからね。岩の中を突き進むディグモールの腕は、危険極まりない。それに加えて、性格は獰猛だ」
そこら中、岩だらけの地中を掘り進む魔物。
そんな魔物の攻撃をまともに受けたら、とても耐えられないかもしれない。だからと言ってこの横穴の中じゃ、思うように回避もできないだろう。
なら有効な方法は、ギブンのミスリルシールドで、真正面買ってら受け止めてもらうか、もしくは魔法で戦う。
穴内部の壁や天井は岩だから、魔法を放ったとしても、ちゃんと加減すれば穴の中が崩れるという事はなさそう。
ギャアアアアオオオオオ
遠くの方で声がした。
「出た!! ディグモールだ!! ディグモールが出たんだ!!」
「なに、そのわざとらしい怯え方。ちょっと、ルシエル……楽しんでない?」
「え? 別に楽しんではないけど?」
ギャオオオオオオオンン
次の瞬間、穴の奥の方から凄まじい勢いで大きな塊が突進してきた。
「きたぞおおおおお!! ディグモールだ!! 全員、戦闘準備!! 備えろい!!」
ギブンが叫び、大盾を突き出し構えた。
丁度。そのギブンと同じ並びになっていて、こちらを振り返っていたルシエルは、突進してきた大きな塊をギブンが盾で受け止めるのと同時に、身体の半面に当たってしまった。
「ふえ?」
ドーーーンッ!!
大きく吹き飛ぶルシエル。私達が歩き進んできた道を、ルシエルは悲鳴をあげて吹っ飛んでいき、暗闇の中へ消えていった。
「えええええええ!!」
「ルシエルーーー!!」
ミューリとファムが今までに見た事も無い位の表情で、驚いていた。
ギャオオオギャオオオ!!
目の前の塊は、ディグモールだった。まさに巨大な土竜。目も血走っていて、興奮している。それもそうだろう。この魔物は、先程ジャイアントアントの群れと戦っていたのだ。言い換えれば、まだ身体が温まっている状態。
ギブンは歯を食いしばって先頭に立ち、ディグモールの突進と攻撃をミスリルシールドで必死に受け止めていた。
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〚下記備考欄〛
〇ディグモール 種別:魔物
とても大きな土竜の魔物。大地をえぐり突き進む事のできる爪は、恐ろしい武器へと変わる。肉食な上に獰猛で生物を見かけると、襲ってくる。群れるのを好まない。
〇ミスリルシールド 種別」縦
鉄よりも優れた魔力を含む金属、ミスリルで作られた盾。ギブンの所持していたものは通常のものよりも大型でなかなか手に入らない優れもの。ミスリル製品は価値があって値段も高額になるが、店頭に並ぶと直ぐに売れてなくなる。それ程、優れているのだ。




