第344話 『掘った穴』
「着いたぞい。第一目的地に到着じゃ」
ギブンがそう言った場所は、広い空洞になっており湧き水も流れている場所だった。そして、ふと横を見ると今まで進んできた洞窟とは明らかに違った、歪な形をした洞窟があった。
ギブンはそこを指さして言った。
「ここを進めばグライエント坑道まで、超近道で到着する。じゃが、危険があるかもしれん。気を付けて進むんじゃ」
「って、おいおいおい!! 危険ってなんだ? 知っているんじゃないのか? オレ達ノクタームエルドにやってきて日は浅いが、ある程度は冒険してきた。だけど、こんな歪な洞窟無かったぜ」
ルシエルが、ギブンに突っ込んだ。
確かにそうだ。岩でできた壁とその先を、まるで大きく強靭な手で、土でも掘り起こして進んで作ったような洞窟……どちらかというと、穴?
その時、私は気づいてしまった。その穴とは何か……
ミューリとファムも、既にその穴が何かという事には気づいていて、怪しさを感じはするもののその正体に気づかないのはルシエルとルキアだけだった。
カルビに関しては、鼻をスンスンさせて何かもう探っている。
私は、はっきりとギブンに思っている事を言った。
「ギブン、これはもしかして魔物の巣?」
そう考えるのが、一番自然だと思った。ギブンは、唸る。
「いやー、バレたかの。流石は冒険者じゃ。だがその魔物は、もしかしたらおらんかもしらんし、余計な心配はするだけ損かと思うとった」
「……やっぱり。しかもなんて、出たとこ勝負なんだろう」
ギブンと初めて会った時、彼はキノコを採取していてその周辺にいるキノコの魔物に毒でやられていた。なんとなく、この出たとこ勝負な性格がたたっているのではないかと思った。
ルシエルとルキアは、それを聞いて驚いている。当然と言えば当然のリアクション。
「それで、中に何がいるの?」
「じゃから、おるかもしれんし、おらんかもしれん。入ってみなければ解るまいて、そんなに気にしてもの」
ギブンは出たとこ勝負な性格に加えて、ガラードの動向や、ノエルを残してきたとはいえ陛下の事が気になっているのかもしれない。だから、ギブンは強引に先を急ごうとしている。
ファムが、見かねた感じで口を挟んだ。
「正確には、巣じゃないよ。これは、ディグモールの通り道」
ルキアが、何かを思い出したように言った。
「ディグモール! ディグモールってあの土竜ですか?」
「ルキア、よく知っている。その土竜」
ルシエルが、ファムとルキアの顔を交互に見て言った。
「おい、なんだそりゃ? 魔物か? 魔物なのか?」
二人は頷くと、ルキアが自分のザックから1冊の本を取り出して開いてルシエルに見せた。私が以前、ルキアにプレゼントした色々な魔物が記された本。
「これです、ここに乗っています。生息地はノクタームエルドだけではないみたいですけど……鋭い爪と大きな腕で、地中を掘り進む事ができる魔物みたいですね。狂暴って書いてます」
不安な顔をするルキア。ギブンが穴の方を指して言った。
「確かにこの穴は、ルキアが今見せてくれた本に乗っているディグモールが掘って作った穴じゃ。しかしのお、実は既にこの穴の調査は終わっておる。昨日のうちに、儂が下見をしたがディグモールはおらなんだ。だから、危険はないじゃろう」
うーーん。それなら大丈夫かもしれない。ディグモールが掘り進んだ穴だとしても、作ったその後にその魔物がまた穴をわざわざ埋めるなんてこともないだろうし、もう何処かへ行ってしまっているかもしれない。この場所は、ただここを通っただけとか。
「それなら行ってみようか。ここを通るのが、グライエント坑道への近道であるのは間違えない訳だし」
皆にそう言いながらも、岩の隙間から流れ出る湧き水を水筒に補給する。
そして、いざディグモールが作った穴へ入ろうとした……その時、ルシエルが「待て!」っと叫んで皆を止めた。真剣な眼差しで穴の方を見つめる。
ガサガサガサガサガサ……
私達も身構えて様子を見る。ルシエルが呟いた。
「何かがこちらに向かってきている。皆、備えろ!」
キシャアアアアア!!
穴の中から、無数の大きな蟻が飛び出してきた。ジャイアントアント!! 30匹はいる!
「皆、戦闘準備!! ジャイアントアントよ!!」
一番前衛にいた、ギブンが穴から飛び出して来たジャイアントアント達に振り向きながらもウォーハンマーを振り抜いた。それで飛び掛かって来たジャイアントアント達を、豪快に殴り飛ばした。
「行くよ、ファム」
「任せてミューリ」
ミューリとファムも、火と風魔法を使用し、次々と襲い掛かってくるジャイアントアントに向かって放ち、応戦した。倒れるジャイアントアント。
ルシエルとルキアは、早速デルガルドさんに作ってもらった太刀を抜き、構える。そして、ジャイアントアントに斬りかかった。
「たりゃあああ!!」
「行くよ!! カルビ!!」
ガッルウウ!!
ルシエルが太刀『土風』を振った。その正面にいたジャイアントアントは、簡単に真っ二つになる。
「なんじゃこりゃ。とんでもねえ、斬れ味じゃねえか。これはいいものだ!」
「す、凄い太刀……なんとなく太刀を受け取った時に、普通の武器ではない感じはしたけど、こんなに凄い武器だったなんて」
「てりゃーー!!」
カルビが襲ってくるジャイアントアント達の足元に纏わりつき、ふらつかせるとその隙をついてルキアが駆けた。
――――太刀『猫の爪』が走る。
ルキアの周囲にいたジャイアントアントが一斉にその場に崩れた。
嘘でしょ⁉ 私はそのルキアの身のこなしに驚きを隠せなかった。
ルキアは、これまでの旅で経験を沢山積んだ。それに暇があれば武器を振って、冒険者としてレベルを上げる為に頑張って修練してきた。それは私も見ていたし、思っていた。
だけど、ルキアは自分の事をかなり過小評価していて、自分が私と出会った時よりも遥かに強くなり成長している事を気づいてなかったのに。
だから、何か良いきっかけがあればと思っていたけど……今は、自分の技量をしっかりと把握して今までに見せたことの無い程の動きをしている。
ドワーフの王国に来てから、別々に自由行動した時にドゥエルガルの子達と知り合って、そこで派手に喧嘩してきたって聞いた時には、あのルキアがってびっくりしたけど……それがどうやら好転したみたいね。
皆、魔物達と戦っている最中、私はルキアの成長に目を奪われるまま立ち尽くしていた。
使い魔カルビを巧みに操り、獣人特有の俊敏さで敵の攻撃を回避し、太刀『猫の爪』を見事に振るその姿は、少なくともこの私よりも遥かに立派な冒険者のように見えた。
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〚下記備考欄〛
〇ジャイアントアント 種別:魔物
蟻の魔物。大型犬程の大きさがあり、群れで行動する。洞窟に多く生息しており冒険者など見つけると襲ってくる。ノクタームエルドでは、何処でも見かけるポピュラーな魔物。




