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第34話 『その魔物、ウルフ その4』







 ――――起床。



「ふわーーーーーあ。…………眠い」



 ――――大きなあくび。


 朝は、結構スッキリと起きる方なんだが、昨日はテントに入ってきた子ウルフが気になってなかなか寝付けなかった。


 ふーーーむ。


 ようやく目が覚めてくると、テントを出て近くの小川へ向かった。顔を洗いたい。子ウルフは、オレのあとをぴったりと付いてきて、オレが顔を洗っている横で川の水を飲んだり、燥いだりしていた。



「おい。川に入るんだったら、オレがいる所より下流でやってくれ。顔を洗っているんだぞ」



 ワウ?



「ハアーーー。上流から、おまえのエキスが流れてくるって言ってるんだけどなー」



 言われてキョトンとする子ウルフ。こんな事、言っても通じないか。


 ふと、子ウルフに目をおろす。子ウルフは、そんなオレに対して、上目遣いに見返してきた。



 ――――可愛い。



 …………しかし、よくここまで懐いてしまったものだな。


 一緒に飯を食って、一晩同じテントで寝て…………もうすっかり、攻撃的な様子はないようだが…………


 だが……魔物は魔物。村でも騒ぎになるかもしれないし。残念だが、やはり一緒には連れてはいけないな。



 ………………



「…………残念だと? なんで、残念なんだ?」



 キャンプへ戻り、テントや焚火を片付ける。荷物をまとめると干し肉を一つ、子ウルフに与えた。



「朝飯だが、それが餞別だ。お別れだよ。これから、おまえが人を襲って冒険者に討伐されようがされまいが、それはお前の自由だ。お互いに、生きるためにしている事だしな。お互いに理由がある。だけど、できることなら人は襲うな。それが、長生きのコツだ。じゃあな」



 ハグハグと干し肉を食べる子ウルフに言い、その場を離れようとすると子ウルフは食べるのをやめてまでついてきた。だから、強めに怒鳴った。



「おい!! ついてくるなっ!!!! オレは、エルフでおまえは、魔物だ!! 本来なら敵対関係だ!! しかも、今この辺りのウルフは、人を襲っているとギルドから討伐依頼が出ている!! つまり、おまえとはここまでだ!!」



 クウーーン



 子ウルフがその剣幕に少し後ずさりしたのを見計らって、再びその場を離れようとした。すると、やはりついてこようとする。



「言っても解らないか。じゃあ、しょうがないな!!」



 オレは、弓矢を構え子ウルフ目がけて矢を放った。


 放った矢は、子ウルフの足元すぐ横の地面に突き立った。固まる子ウルフ。



「まだついてくると言うのなら、今度はおまえを矢で射貫く。オレは、冒険者なんだ。魔物は、討伐する。…………これ以上、言わせるなよ」



 そう言って今度こそ、その場をあとにした。子ウルフは、もう追ってはこなかった。



 …………これで、いいんだ。






 アテナとの合流を果たす為、ニガッタ村へ向かう。道なりに歩く。


 途中、犬を連れた旅人とすれ違った。――――あいつの顔が浮かんだ。連れていけないと、おいていった時の目。オレを見つめていた目は、悲しそうだった。


 くっ! もういいんだ。振り払うように、頭をふった。もう忘れるんだ。


 更に歩いていると、道を歩く人が増えて来た。ちらほら見かける。たまたますれ違った商人風の男に話しかけた。



「ちょっとすまない」


「おおっ! エ……エルフ⁉」


「ニガッタ村へ行きたいんだが、もうそろそろ到着するだろうか?」


「ああ……ニガッタ村なら、もうあと20分も歩けばつくよ。あんたが今歩いている道をそのまま進めばいい」


「わかった。ありがとう!」



 ニガッタ村まで、あと20分程。間もなく、アテナと再会できる。たかだか5日間程会っていないだけだが、もう何年も会ってないように感じる。ドキドキと胸が弾む。嬉しい。

 

 ――――そして、ようやくニガッタ村へ到着した。そこは、確かに村ではあるが露店がいくつも並んでおり、エスカルテの街のように人で賑わっていた。

 


「ふむ。食べ物も沢山並んでいるな。うまそうだな」



 見ているとよだれが垂れてくる。暫く、村の露店が並んでいる辺りを歩いていると、冒険者ギルド、それに宿屋や酒場も見つけた。

 

 あれ? そう言えば、アテナとはニガッタ村で合流する事にはなっていたが、ニガッタ村の何処でというような事は、決めていなかった。決めたのは、その別れた日から5日後に合流するという事と、ニガッタ村と言う場所で落ち合う事。



「まいったなー。でも、あの青い髪にボブカット。それに、腰に明らかに特級品の凄い剣を二本さして歩いている女冒険者なんて、目立ちそうだからな。案外すぐ見つかるかもしれない」



 再び、ぐるっと村を一周してみる事にした。そう思った刹那、後ろから名前を呼ばれ肩を叩かれた。



「おいっすー! あんた、ルシエルさんだろ?  ハイエルフの凄腕冒険者」


「別に凄腕じゃない、Fランク冒険者だし…………って、あんた誰だ?」



 目の前には、冒険者風の女が立っていた。あった事もない。それなのに、なぜかこの女はオレの名前を知っていた。



「はじめまして。あたしは、冒険者のハル。あんたの仲間のアテナとは友達だ」


「友達!! もしかして、何処かにアテナはいるのか?」


「いるよ。案内するから、ついてきて」



 案内されるままについて行った。間もなく、アテナにあえる。それは、嬉しい…………


 嬉しいが――なぜこのハルという娘が、今まで会ったことも無いオレを見つけて、呼びにこれるんだ? そう疑問に思っていたら、ハルはそれを察したのか先に言った。



「なぜ、あたしがって思うよね。今ね、アテナは…………いた!! ほら、あの露店!! おおーーーい、アテナ!!」



 ――――あの透き通るような青い髪にボブヘアー! 間違えない!!


 アテナだ! アテナがいた!! 



 ついに合流できた!!









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。アテナと合流する為、単身ニガッタ村へ向かう。途中、子ウルフと出会い妙に懐かれてしまい一緒にキャンプしてしまう。魔物と一緒に村に入ると大変な事になるかもと、ルシエルは子ウルフを追い払った。


〇ハル 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【シーフ】。気さくで優しい性格。最近はニガッタ村を拠点にして、周辺を荒らす魔物の討伐などを請け負っている。気ままな生活が好きで、1人で行動しているがアテナやルキアと知り合い、仲間と一緒に活動するのもいいなと思う。ルキアの耳をハムハムすると、癒される。アテナからルシエルの事を聞かされていた為、ニガッタ村へ到着し彷徨っていた彼女をパッと見つける事ができた。


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。旅と食事とキャンプ好き。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。再び一緒に冒険する為、仲間のルシエルとニガッタ村で合流しようと向かっている。その途中出会ったルキアを、新たな仲間に加え更にニガッタ村周辺でハルという冒険者と知り合い仲良くなる。いよいよルシエルとの再会を果たす?


〇子ウルフ 種別:魔物

狼の魔物、ウルフの子供。脅威度は極めて低い。他のウルフと共に行動を共にしているようだが、その力の低さから仲間から相手にされていない。ルシエルに、追っ払われてからもその後をつけ回す。結果、美味しいサンドイッチをもらい一緒にキャンプをし、テントで共に寝た。ルシエルを頼る所から、親兄弟はおらず仲間にも見放されているようだ。


〇干し肉 種別:アイテム

緊急時の腹減りの為にルシエルが常備している携帯保存食糧。グレイトディアーかビッグボアの肉が主流だが、ルシエルは最近ブラックバイソンの干し肉も探している。もちろんお値段は、それなり。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

ルシエルのパーティーメンバー、アテナと合流する待ち合わせの場所。ライスが特産品で、それを目当てに商人が沢山やってきて賑わっている。宿屋や酒場、冒険者ギルドまであり、通りには露店などもある活気のある村。


〇あくび

8時間、9時間寝ても止まらない時がある。そして、あくびをすると傍にいる人にも伝染する場合がある。それがあくび。ルシエルが昼寝が好きなのは、言うまでもないがアテナも実は昼寝が好き。良く晴れた日にテントを張ってそこで転寝をする喜び。彼女達はそれを知っている。




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