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第339話 『身分と言えば……』



 ――――私達は、ベップさん夫婦の営む宿を十分に堪能した。そして、ここでこれまでの旅の疲れを根こそぎ落とすかのように、ぐっすりと眠った。


 翌朝、私は皆を起こさないようにこっそりと朝風呂に入ろうと温泉へと向かった。すると、まさかのユフーインさんが大浴場で身体を洗っていたので、その後一緒に温泉に浸かって世間話などした。


 ユフーインさんは、この王国からあまり出る事もなく、宿経営をしていているので、私の旅の話を凄く興味があるように聞いてくれた。


 いよいよ、チェックアウトの時が来た。


 私は、ベップさんとユフーインさんに「ありがとうございました。また絶対に来ますのでー」と言って挨拶し、メール達にも別れを言った。


 3人はまだこの国にいるらしいけど、私達も彼女達もまだ目的があるので、このまま行動を共にはできなかった。だから、ここで一旦お別れをしておいた。



「それじゃ、お城へ向かおうか」



 ミューリとファムが先導し、私達はその後ろをついて行く。そう言えばと思って、宿の外につないでいた荷運び蜘蛛のモークを連れに戻ると、宿の人達が世話をしてくれていた。


 そして、モークを借りたお店に返さなければならなかったが、親切な事に宿の人達から返しておいてくれるとの事だったので、重ねてお礼を言ってそのご厚意に甘えることにした。


 最後にもう一度、モークを抱きしめたのは言うまでもない事かもしれないけれど、こんなに優しくて可愛い蜘蛛もいるんだなって知った。


 ルシエルはこの蜘蛛を既に街中で見て知っていたようで、それに私が跨ってここまで移動してきた話をすると、ずるいと言って大騒ぎをした。


 でも人が騎乗できる程の蜘蛛に乗って移動するっていうのもまた、クラインベルトでは体験できない貴重な体験だと思う。





 ――ドワーフの城。


 到着すると、まるでミューリと示し合わせように、門の所で知っている顔のドワーフと、初めて見る背丈の小さな女の子が立って私達を待っていた。


 ドワーフは、ギブン。すると、あの髪の毛をサイドテールに結っている小さな可愛い女の子。あれが、もしかしてルシエルを殴り飛ばしたハードパンチャーのノエル!? 


 とてもそうは見てないんだけど、確かによく見ると彼女には到底似つかわしくない、大きく厳ついバトルアックスを背負っている。



「やっときよったか、ミューリにファム。それに久しぶりじゃな、アテナ、ルシエル、ルキア。あとこのこんまい使い魔のウルフは、カルビじゃったな」


 ワウウ?


「久しぶりね、ギブン。ロックブレイクでの、キノコ採取依頼とアシッドスライム討伐以来ね」


「うむ。確かにその通りじゃな。さあ、ついてこい。陛下がお待ちじゃ」



 ギブンについて行こうとすると、ルシエルがノエルに歩み寄って挨拶した。



「よっ、ノエル」


「来たか、ルシエル・アルディノア……」



 ルシエルが拳を前に突き出すと、ノエルはその拳に自分の拳を合わせた。フフフ。どうやら、いつぞやの件の仲直りはできたみたい。一緒にラーメンも食べに行ったのも聞いたしね。うーん……でも、私もそのラーメンを食べてみたかったな。


 城内は、ゴツゴツした甲冑を装備したドワーフ達が、巡回していた。普段の光景なのかミューリ達は気にも留めないけど、ドワーフの使用する武器と言うのは戦斧や大槌など一般的で、私には物々しく見えた。


 玉座の間に繋がる通路で、例のガラード殿下達とすれ違った。シャルロッテの姿は無いけれど、シャルロッテの父親ルイ・スヴァーリ伯爵とキョウシロウもいた。あと、初めて見る公国の者だと思うけどウィザードが一人。


 すれ違ってすぐ、後ろから呼び止められた。聞いた声。そうそう、ちょび髭男爵もそこにいる。



「これ、お前達。ガラード殿下と気づきながらも挨拶もせんと、そのまますれ違い行くとは何事でございますか。無礼でございますよ」


「あっ! これは殿下。申し訳ございません。陛下に直ぐに来るよう言われておりましたので、急いでおりました」



 ミューリが言った。


 すると、みるみるとちょび髭男爵の顔が怒りへと変わっていく。



「無礼だと言っているのでございますよ!! 貴様ら、王族をなんだとおもっておるのでございますよ! ぐちぐち言い訳していないで、さっさと跪くのでございますよ!!」



 ポールの言葉にガラード殿下が頷くと、ミューリやファム、ギブン達も慌てて跪いた。でも、ルシエルは言うまでもなくキョトンとして立ち尽くしている。私も立ったままだった。



「アテナ!! 貴様、ガラード殿下の御前で無礼千万でございますよ!!」



 慌てて手を引っ張るミューリとファム。それに心配そうな顔をするルキアとノエル、それにキョウシロウ。でも、私は従わなかった。


 その態度にガラード殿下も口をひらいた。



「どういうつもりだ、女? この俺様がこのドワーフ王国第一王位継承者ガラード・カザドノルズだと知っているのか? それともこの俺様に処刑されてえ自殺志願者か?」



 私はクスリと笑った。



「ガラード……親しみを込めてガラードって呼ばせてもらうわ」


「な、なんとでございますよ!? 王族に対し、よよよよ呼び捨てとは!!」



 掴みかかってこようと乗り出したポールを、隣にいたキョウシロウとウィザードの男が止める。



「申し遅れましたけど、私はクラインベルト王国第二王女アテナ・クラインベルトと申します。身分で言えば、ガラード。あなたとは変わらないね」



 それを聞いて、ガラードだけでなくルイ・スヴァーリ伯爵とキョウシロウも驚いた。もちろん、ギブンもそうだけど。


 私はそのままちょび髭男爵ポールに詰め寄り、どいてとばかりに人差し指を立ててポールの胸を突いた。


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