第338話 『洞窟温泉 その4』
シャルロッテは、真っ直ぐと私の目を見て言った。
「この国の王子、ガラード殿下は実の父親であるガラハッド王から、玉座を奪おうとしているのですわ。理由は、単純明快。軍事力強化とこの国の繁栄。ガラハッド王は平和を願っておられるようですが、直にドルガンド帝国は世界征服へと侵略を開始するでしょう。ガラード殿下は、それに備えようというお考えなのですわ」
なるほど。だから、その強国ドルガンド帝国に鉱物資源などの軍需物資を売りつけ、関係を築きつつも国の力を一気に引き上げる為の資金調達をするという暴挙ともいえる、強行手段に出たわけね。
「わたくし達公国も同じ。今もし、もわたくし達の公国と帝国が戦争をすれば、公国は負けますわ。だから、クラインベルト王国と同盟を結ぶ裏で、ドルガンド帝国とも同盟を結び、色々と帝国に好きにさせないよう打開策を模索しているのですわ。そして、ドワーフ王国のガラード殿下と手を結ぶ理由。それは、殿下に協力すればわたくし達公国にも、鉱物資源を山のようにまわしてくれるから……かしら」
公国と帝国が、表面上だけでも仲良くしているような理由なんてそんな所だとは思っていた。シャルロッテの言ったことは、予想通りの事だった。
結局、公国も帝国も野心ありありで、ノクタームエルドの豊富な資源をめぐってドワーフの王国を利用しようとしているだけ。
「僕は、シャルロッテには悪いけれど、ガラード殿下の好きにはさせない。なぜなら、僕もファムもガラハッド王には、返しきれない恩がある。例えガラード殿下が相手であっても、シャルロッテやキョウシロウが相手でも、僕らはガラハッド王の為に戦うよ」
ミューリの言葉を聞いて、シャルロッテは微笑んだ。それは、いつも高い所から見下ろして笑うような高飛車な笑いではなく、女神のような優しい微笑みだった。
「当然ですわ。わたくしもお父様の命令には絶対的に従わなければなりませんわ。それで、反吐がでそうな位にやりたくもない誘拐などの計画にも手を貸しましたわ」
確かに思い出してみると、地底湖キャンプで再会したシャルロッテの印象は、可愛いくて優しい女の子というだった。
対して、ガンロックであった時は凄く不貞腐れたというか不愉快な感じだった。あれは、やりたくもない誘拐なんてものをしなければならない事に関して、ご立腹だったのかもしれない。今更ながら、そう思う。
「いい、これはアテナとミューリ。二人に言っておきますわ。地底湖キャンプ、凄く楽しかったわ。お二人だけでなく、ルシエルにルキア、ファム、それにメールやミリー、ユリリア。……カルビ。皆、わたくしの大切な友人ですわ。だから今の内に、はっきりと申し上げておきたいのですの。ガラード殿下や公国のしている事、もちろんわたくしのお父様に関してもですが、やろうとしている事にはわたくしは賛成できない」
「シャルロッテ……」
「でもわたくしには、ヴァレスティナ公国のスヴァーリ伯爵の娘としての、立場と責任がありますの。だから、ミューリがガラード殿下の悪だくみを叩き潰したいというのであれば、わたくしは全力であなた達を応援します。でも、それは心の中の話で、実際にはわたくしは全力でミューリ達を阻止する事になるかもしれませんわ」
「そんな……」
「阻止するからと言ってそれが本意では無い事だけは、伝えておきたかったのよ。フフフ。なんだかおかしいですわね」
私はシャルロッテの手を握った。
「おかしくはないよ。私も王国で色々とあったし、シャルロッテの立場や気持ちは解る部分があるよ。それに公国の君主、エゾンド公爵の娘であるエスメラルダ王妃は私の義理の母で、実際関係は上手くいってないし、私も複雑な気分。あははは。もっと物事解りやすければいいのにね」
そう言うと、二人とも笑った。そして、ミューリがいつになく真面目な顔で言った。
「アテナ。……いや、アテナ王女殿下。どうか僕とファムと一緒に、明日この宿を出たら城に行って陛下に謁見してほしい。それで、陛下の力になって欲しい。前に、冒険者に依頼するような感じで言っていたからそんな感じじゃなくて申し訳ないけど、僕達だけじゃ駄目なんだ」
「それほどガラード殿下は今、力を持っているって事? それにスヴァーリ伯爵がここへ連れてきている戦力が強大?」
シャルロッテに、あのドルフ・ラングレンと言う男爵。ちょび髭男爵はまあ置いといても、キョウシロウも伯爵の護衛をしていると聞いた。
確かにミューリとファムだけじゃ、公国の戦力にガラード殿下の勢力も加わるとなると、その悪だくみは簡単には打ち破れないかもしれない。
「いや、ギブンから聞いた情報では、陛下とガラード殿下の争いがもう少し深刻化したら、ドゥエルガルや、リザードマン達も行動を起こす気配があるんだって」
ギブンは、あのロックブレイクのキノコ採取依頼で知り合ったミューリとファムの仲間のドワーフ。
え? ドゥエルガルって言うのは、この王国のドワーフ達に敵意を持っている灰色ドワーフでしょ? それとリザードマン達も行動を起こすって……それって、もしかして。
「もしかして、王国の混乱に乗じてドゥエルガルとリザードマンがこの王国へ攻めてくるって事!?」
私の言葉にシャルロッテも、はっとする。そこまでは知らなかったようで驚いている。ミューリは、私が言い当てた事に少し驚いた顔をし、話を続けた。
「だから、まずこの国の問題を収集させて、外敵を弾き返せるように統制をとっておきたいんだ」
「解った。もしも、この国にドゥエルガルやリザードマンが、攻めてきて戦いになったら大変な事になる。明日、ドワーフの王、ガラハッド・カザドノルズに謁見するわ」
「ありがとう、アテナ」
「ドゥエルガルとリザードマンが攻めてくる事に関しては、公国も望むところではないと思いますし、それについては公国も力になれないか、わたくしもお父様に聞いてみますわ」
「ありがとう、シャルロッテ」
「フフフ」
「ん? どうしたのアテナ?」
「いや、でもこんな話、ルシエルが知ったら、きっと怒るだろうなって思って。お好み焼きとかヤキソバとかが食べられなくなったらどうするだー!! とか言ってね。アハハ」
「確かに、ルシエルちゃんなら言いそうだよねー」
「フフフ。そうですわね。……さて、もう十分に温まった事ですし、出ません?」
「うん、部屋で皆、遅いって言ってそうだしね。そろそろ戻ろう」
この王国に入る前に吊り橋で、ちょび髭ポールやドルフス達公国の連中と遭遇し戦闘になった。
その時に、ドルフスを助ける為に負った足の傷。それが温泉に浸かってからは、その効能なのかすっかり完全に痛みもなくなって良くなっていた。
だから本当はもう少し、入っていてもいいなと思った。
よし! 今日はこの位にしておいて、明日朝早く起きて最後にもう一度温泉を満喫しよう!




