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第334話 『白熱!温泉卓球!! その2』




 こ、こりはまずい……こりはまずいですよ!!


 額から流れる冷たい汗が頬を伝い、下に落ちた。


 まさか、ルキアが卓球が得意だったなんて、思いもしなかった。このままでは、負けるかもしれない。っていうか、既にもう2点リードされてしまっている。


 ルキアは、出会ってから一緒に旅をする事になり、凄く可愛い妹のような存在だと思っていた。


 そう、私にはルーニと言う腹違いの可愛い妹がいるけれど、ルキアの事もルーニと同じように思っているのだ。


 また同様に、ルキアも私の事を頼りになる姉だと思ってくれている。きっとそうだと私は感じている。


 だから、私はルキアの頼りになるお姉さんになれるように、文字や剣術、冒険者としての心得やキャンプの楽しみなど教えてきた。頼りになると言うか、頼る事のできる姉でありたいと思ってきた。


 なのに、まさかのドワーフ王国での温泉宿で、こんなピンチに直面する事になるとは……


 何につけても、私がいるから心配ないよとお姉さんの風格を見せつけてきた私に、実はそうではないのかもしれないと思われるような展開が迫ってきている。これは、まずい。


 ――温泉卓球。ムムム……


 ルキアはこの温泉卓球に関しても、当然私には敵わないと思っているだろうし、勉強熱心で好奇心旺盛なこの子は、私に勝てないにしても色々と何か得ようとしている。


 だから、どうしてもここで私が負けるわけにはいかないと思った。



「あれれ? アテナってもっと凄い冒険者だと思っていたんですが、ただのキャンプ好きのお姉さんだったんですね。ふーーーん」


「ヒンッ!! ルキア!! 違うの!! テ、テニスならちょっとやった事あるんだけれど、卓球って初めてでさ!! あっ、ちょっと待ってーー」


「ふーーーん。これからは、ルシエルやファムに色々と教えてもらいます。私はもう、アテナを超えてしまったようですから。ねー、カルビ。向こうに行こう」


 ワウッ


「アッハーーン!! そんなご無体な! 今までお姉さんみたいに慕ってくれていたのに!! 待ってルキア!! ルキアーー!!」





 尋常じゃない汗――――


 そんな感じの事を想像して、ラケットを力いっぱい握りしめて苦しんでいると、ミューリが冷たいお茶を持ってきてくれた。



「ア……アテナちゃん、凄い汗。どうしたの? はい」


「え? ああ、うん。ありがとう。ごくごく……うん、凄く美味しい」



 ルキアも私の様子がおかしくなったのを察して心配な顔をした。



「アテナ? どうしたんですか? 大丈夫ですか? 何か具合が悪いんでしてら、この辺にしときましょうか?」


「ううん、いいのいいの。ちょっとさっきの温泉でのぼせたのが、後から音も無くやってきたみたい。アハハ、まいったよーホントー」



 苦しい言い訳。ふと視線を感じてその方を見ると、恐ろしい眼でこちらを観察するように見ているルシエル。そのルシエルと、目があった。いかん、何かに気づいたか!!



「じゃ、じゃあお腹も減って来たし、続きをちょいちょいとやって終わりにしよう。先に10点と言ったけど時間もあれだから、先に5点とったら勝ちにしよっか」


「はいっ! いいですよ!」


「そ、それじゃあルキアからサーブどうぞ」


「解りました。それじゃあ行きますよー」



 ルキアのサーブ。それを打ち返した。暫くラリーが続く。


 隣の台でルシエルも、ファムと猛烈なラリーを始めたようだ。シャルロッテは、あれ? 物凄く下手くそ?


 メール達が一番何事もなく楽しんでいるようだった。でも、実際温泉卓球ってそういう和気藹々とした遊びだよね。


 少なくとも今、私とルシエルとファムに至っては、本気の戦いになってしまっていた。



「それえっ!!」



 来た!! ラリーを続けているとついに来た。ルキアの無邪気な笑顔で放たれる、デビルスマッシュ!!



「そ、そーいっ!!」



 今度はなんとか打ち返した。


 私の「そーい!!」って掛け声に「なんなんだそりゃっ」て顔になっているルシエル。そのせいで、隙を見せてしまい、ファムに点を入れられたようだ。責めるような目で私を睨み付けるルシエル。私は知らなーい。


 そして、それと同時にまたしても、見事に打ち返されルキアに私も点を入れられてしまった。……うそ、0対3なんですけど……



「大丈夫ですか、アテナ? もしかして、本当に何処か具合が悪いんじゃ……」


「えへへ。いやー、ルキアけっこう強いね。こうなったら私も本当に本気だそうかなー?」



 そう言うと、近くの台に置いてある予備のラケットを手に取った。両手にラケット。それを見て、ルキアがはっとした表情をした。



「ねえ、ファム。ラケット二刀流ってルール上オッケーかな?」



 隣の台で、ファムとの勝負に負けてしまったルシエルが絶望的な表情で私に言う。



「アテナ。お前、そうまでしてルキアに……」



 不思議な顔をして首を傾げるルキアとカルビ。



「うるさい、うるさい、うるさい!! いいの!! これは私とルキアで楽しんでいる事だからいいの!! っもう!! ルシエルは黙ってて!! ファムにもう負けたんでしょ!! 敗者は勝手な発言しないでください!!」

 

「うう……アテナめー、お姉さんぶろうとしてからにー」



 恨めしそうに見るルシエルをシカトし、もう一度ファムに問うた。



「それで、どうなの? 両手にラケットってありかしら?」


「うーーん。卓球って種目でいうなら、バツだよ。でも、これは温泉卓球だからね。プレイしている本人達が楽しめればそれでいいんじゃない?」


「つまり、ありって事ね!」



 私はラケットを両手に持って、ルキアの方を向くと自信満々に構えた。



「さあ、続きをやろうよルキア。今度は本当に本気でいくからねー」


「は、はい! それじゃあ行きますよ!」



 通常のルールとは違う、私達のルールで遊んでいたので、なんとなくサーブ権も点を入れた方が続けて打つという感じでやっていた。だから、もう一度ルキアからのサーブで始まる。



「それじゃいきますよ!! それえっ!!」



 来た!! キレッキレのサーブ!! 出遅れたとしても、二刀流なら拾える!! ……はず!!



「そいっ!!」



 私はルキアの打った球を打ち返した。そして今度は、今までとは一目で違うとわかる程の激しいラリーが続いた。


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