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第333話 『白熱!温泉卓球!! その1』




 ――――大浴場の外、脱衣場。その隣に広い部屋があり、そこには涼んで休める椅子が備えられていて、なんと冷たい飲み物も用意されていた。


 温泉で大量の汗をかいて、すっかりポカポカになっていた私達は、その飲み物を早速頂いた。


 アイスコーヒーに、アイスティー、それに冷たいお茶もある。


 専用の陶器に入ったそれらは、物凄くキンキンに冷えていて一気に飲むと私達の身体を冷却し、喉を潤した。



「おーい! 皆、これやらない?」



 向こうで手招きしているミューリ。


 見ると、真ん中をネットで区切られた大きな長方形の台が4つ並べられて設置されている。あれは、ゲーム台? そして、ミューリのその手には白い球と小さなラケットのようなものが握られていた。



「え? これは何? 何かのゲーム?」



 ファムの目が光る。いつもうんちくを語るモードになった。



「これは卓球という。小さなラケットを手に持って、この白い球を弾き合う遊び。……いや、スポーツと言ってもいい」


「うおーー!! もしかして、これ勝負するやつなのか!! すっげー、面白そう!」



 ファムの説明を聞いて、ルシエルが興奮し始めた。ルシエルは、勝負事が大好きだから、こんなの見つけちゃったらもうやらずにはおられない。



「1対1か、2対2が基本。最初にどちらかが、このラケットで球を弾いて打ち合って対決する。ルールもあって、返球する時は必ず一度バウンドさせなければならない事と、台から落ちたりネットに引っかかったら負け。卓球と言っても、温泉卓球というラフなゲームだから、とりあえずルールはそれ位かな」



 ファムの説明。ルシエルはもう、るんるんとした目をしていた。そして、いつもの如く騒ぎ出す。



「よ、よし!! じゃあ早速やろうじゃないか!! とりあえず、じゃあファム!! 勝負しようぜ!!」


「いいよ。でも、ファムは強いよ。ルシエルより強い」


「な、なんだと!? オレのが強いわ!!」


「ううん、ファムの方が強い」


「こ、このーー!! なにをーー!! オレのがぜってー強い!! ファムなんか、こなんしてこなんして、丸めてこうだ!!」



 フフフ。また、ルシエルとファムの競い会いが始まった。私は、そんな二人をいいコンビだなと思った。



「じゃあ、はっきりさせようか。因みに当然だけど、魔法なんて使っちゃダメだよ。使っても、まあファムが勝つけど一応それ、反則だからね」


「なにをーー!! 解った、それでいい! 勝負して白黒つけようぜ。こうなったら、意地でも勝ってやる!!」



 こうして、二人の卓球勝負が始めると、メールやミリー、ユリリアも卓球で遊びはじめた。



「じゃあ、私も少し遊ぼうかな。でも、もう少ししたら晩御飯だからね。少し遊んだら、行こうか」



 そう言ってふと見ると、ミューリも卓球をし始めた。シャルロッテと勝負している。以外にもいい勝負。うーーん。こういうのって、見ているとウズウズしてくるよね。私もルシエルやファムと、同じかもしれない。勝負事は、熱くなっちゃうタイプ。



「ア、アテナ。私と勝負しませんか?」

 


 ルキアだった。



「いいよ、ルキア。じゃあ勝負しよう」


「はい!」



 専用ラケットを握り、台を挟んでルキアと向かい合う。その勝負を、丁度その中間でカルビがじっと見ていた。他の皆は、それぞれに楽しんでいる。



「じゃあまずは、10回程ラリーを続けてからそのまま勝負しようか」


「はい!」


「それじゃ、ルキアからサーブを打って。それと先に10点取ったら勝ちにしようか」


「はい! 解りました! それじゃ、行きますね!」



 ルキアのサーブ。なかなか手馴れている感じだった。


 それを打ち返す。以外にもラリーが続き、10回目。なんと、ルキアが台の角を狙って打ち返してきた。慌てて、打ち返す。


 あれ? ルキア、強い? 私はルキアとラリーを続けながらも聞いてみた。



「ちょと……ちょっともしかして、ルキアって卓球経験者?」


「いえ、卓球はやった事がありません。でも、リアと一緒に考えて遊んでいた遊びの中にこのゲームによく似たものがありました!」



 リア……ルキアの妹。なるほど、そういう事か。



「私とリアは、家の用事をしてその合間を見つけては、こういう事を考えて遊んでいましたから。だから、こういうゲームなら少しは、慣れていますしアテナの相手に少しはなるかもしれませんね」


「へ、へえ。そうなんだ」



 そうは言うけれど、ルキアのこのゲームの実力は凄かった。


 楽しく会話しながらやっているように見えて、ルキアの打ち返すスピードがどんどん増していく。楽し気で余裕の表情。そう言えば、この子獣人なんだっけ? 


 獣人と言えば私達ヒュームよりも遥かに身体能力や動体視力に優れていて、しかも猫の獣人ともなると……



 ターーーーンッ!!



 強烈なスマッシュ。まさか……まさかの1点をルキアに、取られてしまった。



「やったーー!! アテナから1点取れました。手加減してもらっていると、解っていても嬉しいです。でも次は、もう少し本気になってもらっても、大丈夫だと思いますよ。私、もう少し大丈夫な気がします」


「え? あ、うん。そ、そうだね。アハハ。じゃあ、今度はもう少し本気を出そうかな」


「はい! お願いします! それじゃあ、行きますねー」



 ルキアの無邪気で可愛い笑顔。しかし、そこから繰り出される強烈な電光石火のようなスマッシュ。


 私は直ぐに反応し、打ち返そうとしたけれどルキアの強烈なスマッシュは、急いで突き出した私のラケットをすり抜けて下へ落ちていった。


 ピョンピョンと、喜びながら飛び跳ねるルキア。



「やったやった! やりました!! またアテナから1点取れました。とっても嬉しいです。でも、本当にもう少し本気を出してもらっても大丈夫ですよ。ゲームですし、それにまともにやっても流石にアテナには、勝てないでしょうし」



 え? ぜんぜん見えんかったけど!! 今のスマッシュと言うか、ルキアの振り自体が見えなかった。


 額から一粒の汗が滴り落ちる。しかもこの汗は、温泉に浸かってすぐ動いたから発汗したものじゃない。冷たい汗。


 私は、ルキアに平静に余裕のある姿を保つよう努力していた。だが内心は、ルキアがいかなる時も頼れるお姉さん的な私のイメージをどうすれば守りとおす事ができるだろうかと、フル回転で考えていた。


 対してルキアの方はというと、本当に楽しそうな表情で私の方を見て笑っていた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルキアの卓球技術

カルミア村に住んでいた時、ルキアと妹のリアは両親の仕事や家事を手伝う毎日だった。その合間合間の時間で二人はよく色々な遊びをしていたようだ。誘惑の少ない小さな村なので、遊びを見つけるととことんやっていたのかもしれない。それで、温泉卓球のような遊びも極めていた。ルキアの隠れた才能。

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