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第330話 『ベップの宿へご案内 その2』




 ロビーで皆揃うなり、結構な長話をしてしまった。


 皆、思い思いに過ごし、充実した自由行動ができたようで、たった半日で積もる話が沢山できたようだ。まあ、私もなんだけど。


 新たな剣を作りたくて、デルガルドさんという凄腕の鍛冶職人に会って剣の生成を依頼した事。その為、その剣作成に必要な材料である鉱石を採掘しに、今いるドワーフの王国よりも更に地底の採掘場に行ってきた事。


 そこで、シャルロッテやキョウシロウ、シャルロッテのお父さんのスヴァーリ伯爵に加え、この国の王子であるガラード殿下にも偶然遭遇した事。あれには、驚いた。


 色々話終えた後、ミューリが言った。



「実は、僕達からも折り入って話があるんだ。そのアテナが地底の採掘場で見かけたガラード殿下にも関わる事なんだけどね」


「お客さん、そろそろ……」



 あっ、そうだった。そう言えば、長話をしすぎていて宿にチェックインするのを忘れていた。


 ルシエルが手を叩く。



「とりあえず、部屋へ案内してもらおうぜ。それで、ひとまずゆっくりしてから話の続きをしようぜ」



 ファムがくくくと笑う。



「そうだね。ルシエルがメール達やノエルにまであって、ドゥエルガルと喧嘩までした挙句、ラーメンまで食べに行っていたなんて傑作。是非、その話の続きもききたい」


「ははは。ノエルにちゃんとあの肉の事、もう一度謝れて良かったよ。それはそうと、ノエルはどっか行っちまったけど、メール達はこの宿に泊まっているよ」



 メール、ミリー、ユリリア。地底湖キャンプで知り合ったあの3人もこの宿で宿泊しているんだ。それを聞いて、なんだか凄く楽しい気分になってきた。


 ミューリがこの宿の主人、ベップさんと話をし、宿帳に名前を書いてチェックインを終えると、廊下の向こうから3人のドワーフの女性が近づいて来た。ドワーフなので背丈は低いが、丸みがあってふくよかな感じ。なんとなく愛らしい。


 3人の中でも、特に恰幅の良い恐らくベップさんの奥さんと思われる人が、他の二人に私達の荷物を部屋まで運ぶように指示した。



「初めまして。わたくし、この宿の主人ベップの妻の、ユフーインと申します。これから皆様をお部屋へご案内しますので、こちらへどうぞ」


「はい。よろしくお願いします」


「ユフーインさんは、昔から僕やファム、それにノエルにも良くしてくれているんだ。例えるなら、僕らのお母さんみたいな人なんだ」



 ミューリのその言葉に、ユフーインさんはニッコリと微笑んだ。


 部屋に案内される。


 3階角部屋で、部屋の扉は引き戸。ここも全て木造で情緒があっていい。



「火蜥蜴の間……なんか、暑そうだあ」



 部屋の入口に吊り下げられた部屋の名前の書いた木版を読んで、ルシエルがそう言った。すると、ルキアも反応する。



「これは部屋の名前ですよね。火蜥蜴って事はファイヤーリザードの事でしょうか? ファイヤーリザートと言えば、ガンロック王国に入国するなり戦闘になりましたよね。それで、ファイヤーリザードを狩って、そのお肉を美味しいカレーにして食べた事を思い出しました。美味しかったな」


「美味しかったよね! なんだか、またファイヤーリザードのカレー、食べたくなっちゃったね」


「はい!」



 もう既に懐かしく思える想い出話をしていると、それを聞いていたユフーインさんが笑った。



「ガンロック王国では、ファイヤーリザードの事を火蜥蜴とも言いますが、このノクタームエルドで火蜥蜴と言えば、サラマンダーの事を指すんですよ。なので、ここはサラマンダーの間という事です」



 サラマンダー! ファイヤーリザードとは、ぜんぜんグレードの違う上位の魔物。だけど言われてみれば、確かにサラマンダーも火蜥蜴だ。火を吐く事以外に火を纏う蜥蜴。



「サ、サラマンダーってなんですか? ねえ、アテナ。サラマンダーってなんですか?」



 まるで、何か買って欲しい物でもあって、ねだっているいるようにルキアが言った。好奇心いっぱいの猫娘。でも、好奇心は人を大きく成長させる材料だからいいことだ。うんうん。



「サラマンダーもファイヤーリザード同様に、火を吐く蜥蜴の魔物なんだけど、サラマンダーは全身に炎を発生させて纏っているの。しかもファイヤーリザードなんかより遥かに格上の上位種の魔物で、危険度も高いんだよ」


「へえー!! そんな魔物がいるんですね!! 炎を纏っているなんて凄いです!! しかもそんな凄い魔物の名前が、私達のお部屋の名前になっているんですね」



 尻尾を振って、うるうると目を輝かせる猫耳娘。



「さあ、とりあえず何でもいいけど、いい加減中に入ろうぜ!!」



 火蜥蜴の間という名前について、話していた私とルキアの背を押すルシエル。確かに、こんな所でまた長話をしてしまった。


 部屋に入ると、黒塗りの木材を使用した部屋になっていた。煌々としているよりも、この方が落ち着いて凄くいいなと思う。



「それでは、まず温泉にでもお入りになってくださいまし。場所はミューリちゃんとファムちゃんが、案内してあげてね」



 ――温泉!! その言葉に反応する私、ルシエル、ルキア。今、確かに温泉にでもお入りなってと言ったよね。


 え?  この宿、温泉があるの!?



「はーーい!」


「解った」


「皆さんお湯から上がられて、少ししましたら1階の食堂の方へいらしてください。では、ごゆっくりどうぞ」



 ユフーインさんは、ぺこりと頭を下げてそう言うと部屋を出て行った。


 私とルシエルは、すぐにミューリとファムに駆け寄った。



「ねえ!! ここ、温泉あるの?」


「温泉!! オレ、温泉何て入った事ねーぞ!! 温泉があるんだったら、入りたい!!」


「まあまあ今から、そこへ行くから焦らない焦らない。とりあえず、皆この浴衣とタオル、それにバスタオルを持って」



 やばい。浴衣まであるって事は、間違えなく温泉だ。ドワーフの王国でまさか温泉に入る事ができるだなんて思ってもみなかった。

 

 ミューリの指示に従って皆、浴衣に着替えるとタオル等を持つ。



「じゃあ、温泉に向かおうか」



 ミューリの言葉に皆ついて行くと、ルキアのザックの中からカルビが飛び出して私達のあとをついてきた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナと知り合い、共に冒険をしているハイエルフ。弓矢が得意で精霊魔法も使えが特に、風の精霊魔法が得意。アテナ達と共にドワーフ王国へやってくると、それぞれ別行動をとってみる事になった。すると早速グルメツアーに出かける。地底湖キャンプで知り合ったメール、ミリー、ユリリアと更にロックブレイクで出会ったノエルと共にドワーフの作る濃厚な極上ラーメンを食べる。夜になり、他の仲間と合流をするべくベップの宿に集まった。


〇ベップ 種別:ドワーフ

ドワーフの王国で宿を経営するドワーフ。ドワーフの中でも恰幅のいい方でまるっとしている。ミューリやファムとは昔からの顔なじみで、親戚のような間柄。


〇ユフーイン 種別:ドワーフ

ベップの奥さん。夫と同じくまるっとした感じのドワーフ。見るからに包容力がありそうで、優しそうな感じで宿の女将さんとしても人気がある。実は料理の腕もかなりのもので、厨房に入り宿のお客に出す料理を作ったりもしている。


〇ファイヤーリザード 種別:魔物

火炎を吐く蜥蜴の魔物。全体的に身体は赤いため、ジャイアントリザードとの見分け方は、簡単。アテナ一行がガンロック王国に入国した時に戦闘になり倒した。因みにお肉は、カレーにしたよ。


〇サラマンダー 種別:魔物

炎を纏い、火を操る大きな蜥蜴。鉄をも溶かす火炎を吐き、炎による攻撃はほぼ効かない。ドワーフの王国では火蜥蜴と言えばサラマンダーの事を指すそうだ。

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