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第329話 『ベップの宿へご案内 その1』 (▼アテナpart)




 ――――ベップの宿。


 ミューリとファムの知り合いのドワーフ、ベップさんが経営しているという宿へ向かった。


 そこは、ドワーフの王国の最北エリアにあるそうで、行って見ると大きな岩が沢山ある場所だった。そこに坂になっている細い道があり、ぐんぐんと歩いていく。


 するとすぐに、ベップの宿と言う立札と、それを立ち止まって見ている可愛い猫耳娘の後姿を見つけた。



「ルーキア!」


「にゃっ! アテナ!」



 可愛い猫耳娘が振り返った。その顔を見て私は、驚いてしまった。なんと、痣だらけ。よく見ると、顔だけではなく、腕や太腿、首筋などにも痛々しい痣があった。



「ど、どうしたの!? ルキア! もしかして、何処か高い所から足を踏み外して落ちて転がったとか?」


「アア、アテナこそ、どうしたんですか!! その魔物!! っていうか、蜘蛛ですか?」


「そう。これはねえ、ソイルスパイダーっていう蜘蛛の魔物で、別名荷運び蜘蛛とも呼ばれているの。用途はその名の通りで、この国でも馴染みがあって親しまれている蜘蛛よ。言わば益虫だね」


「へ、へえ……で、でもやっぱりちょっと怖いですね。蜘蛛は……こんなにも大きいですし」


「そう? 可愛いと思うけど」


「か、可愛い?」


「うん。とっても、可愛い蜘蛛だと思うよ」



 とりあえず、ルキアの傷を見る事にした。痣の他に、切傷擦傷も多数。私は、ルキアを跪かせると怪我している部分に回復魔法ヒーリングで癒した。すると痣や傷は、すっと薄くなっていくらかマシになった。



「ふう……これだけしておけば、そのうちに何事もなかったように消えるわ。それで、何があったの? もしかして、何かトラブルに巻き込まれた?」



 ルキアは、笑うと後で話すと言った。確かに後で、皆集合したらそれぞれ何があったか話を聞いてみたい。私も、この王国の地底で偶然遭遇したドワーフの王子や、ヴァレスティナ公国のシャルロッテやキョウシロウの事など話したい。



「それじゃ、皆ももう待っているかもしれないし、宿へ行こう。ルキアは時別にこれに乗せてあげる」


「え? ひええええ!! こ、怖いですよ!!」


「大丈夫、大丈夫。ルキアだって何も悪いことをしていないのに、誰かに怖がられると悲しくなるでしょ? モークだって一緒なんだから、優しく接してあげて」


「モ、モーク?」


「この蜘蛛の名前。さあ、ルキア、モークに跨って!」


「は、はい」



 こうして、恐る恐るだけどルキアはモークの背に騎乗した。それは傍から見ると牛程の大きさの蜘蛛に、猫娘が跨っているというどうにも面白い絵図らだった。



「っぶうう!!」


「え? どうしたんですか、アテナ?」



 まずい。あまりの可愛いさと、面白さで吹き出しちゃった。あれ? そう言えば……



「あれ、そう言えばカルビは?」


「ああ。カルビでしたらここです。あれからずっと私にくっついて歩いていたので、疲れちゃったみたいで」



 見るとルキアの背負うザックの中に、カルビの尖った耳が見えた。なんだ、ちゃんと一緒だったんだ。良かった。



「それじゃ、宿に行こうよ。モークの手綱は私が引っ張って歩くから、ルキアはそのまま背中に乗っているといいよ」


「わ、解りました」



 震えているのか、いっこうに表情から緊張が消えないルキア。蜘蛛なので、怖がる気持ちも解るけど。


 宿に到着。


 入口やその軒下には、青色の炎を灯した松明が掲げられていた。


 通常の炎は昼、青い炎は夜だとファムが言っていた。青色鉱石と言う特殊な石の粉末を、松明に油と一緒に混ぜて使用すると青い炎が発生するという。


 ノクタームエルドの大洞窟では、こうやって時計と共に昼夜を区別する手段としている。



「ここが、ベップさんの宿みたいね。なかなか情緒があっていいね」



 ドワーフの王国にある建造物は大概が石造りだった。でも、この宿は木造で木のいい香りがする。そして、洞窟ではあるけれど、その洞窟内でも育つ植物と思われる赤と緑のシダ植物が宿の周辺に群生していた。


 つまり、この植物は太陽の光を必要としない植物。もしくは、松明などの灯の光だけで、生きながらえる事ができる植物。そう思うと、とても神秘的な感じがした。



「あそこに厩があるわ。モークをそこに繋いでおこう。店の人に言っておけば、大丈夫だよね」



 ルキアの方を振りむく。すると、ルキアはすっかりモークの事を気に入ってしまったのかその背に張り付いていた。大蜘蛛に張り付く猫娘。また、笑いが込み上げてきた。


 ガラガラガラ……



「おや、いらっしゃい! お客様でっか?」



 宿の入口が開いて、中から店員と思われるドワーフが顔を出した。因みに、扉は引き戸になっていてそれもまた情緒を感じさせるいいものだと思った。ノクタームエルドにやってきてから、ずっと岩ばかりに囲まれているので、木に触れると落ち着く。



「はい。私達、ミューリ・ファニングと、ファム・ファニングの友人で冒険者のアテナと言います。こっちはルキア。それで、今日そのミューリ達も含めてここで、宿泊したいんですけど」


「ああ。あんさんがアテナはんでっか。ワテがこの宿を経営しておりますベップ言いますわ。ミューリから話は聞いてますわ。どんぞ、どんぞ。中へあがってくださいな」



 私とルキアはベップさんに案内されるまま宿へ入った。宿は大きな木造で、中へ入るとロビーに通された。


 何処もここも木の香り。落ち着く……


 ふと見るとロビー内に設置されているソファーに、ミューリとファムが腰掛けていて、その二人を相手に楽しそうに会話しているルシエルの姿があった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

この物語の主人公。旅も食事もキャンプする事も大好き。ドワーフの王国に到着してから早速王国の名スポット職人街へ行った。目的は二振りの剣を作る事。デルガルドという巨人のように大きな身体のドワーフに最高の剣を作ってもらおうと彼に酒を運んだり、つまみを一緒に獲りに行ったり剣の素材の鉱石を集めた。それらを達成し、ようやくベップの宿へ。


〇ルキア・オールヴィー 種別:獣人

アテナと旅をする猫の獣人。心優しく真面目な性格。カルビとは可愛いコンビで、いつも悪さをするルシエルを監視している。ドワーフの王国に来てから別行動し、ゴーディ、テディ、ブラワーというドゥエルガルの少年たちと友達になる。獣人の特性である、飛びぬけた運動能力も開花し始めている。


〇カルビ 種別:魔物

子供のウルフで、ルシエルの使い魔。そして、心強いアテナ達のパーティーメンバー。子供なので体力が尽きるとフラフラする。そうなると、最近はルキアのザックの中に入って運んでもらう。たまに目が覚めてザックから顔を出している事があるが、とても可愛い。


〇モーク 種別:魔物

ソイルスパイダー、別名が荷運び蜘蛛というドワーフの王国でロバや牛などのように代わりに働く大人しい蜘蛛。アテナはこの蜘蛛を気に入って、モークと名付けた。決してクモだからモークって名付けた訳じゃないよ。ホントだよ。


〇青色鉱石 種別:アイテム

ノクタームエルドにある様々な鉱石の一つ。砕いて松明など火に注ぐと炎が青くなる。

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