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第328話 『ラウンジ』




 アテナ達と合流するまでは、まだ時間があった。


 今頃は皆、単独で自由行動を思い思いに過ごしている事だろう。



「ファム。まだ時間があるけど、どうしようか」


「そうだね。ちょっと喉が渇いたからラウンジに行きたい」


「ラウンジか。いいねー」



 巨大なこのドワーフ城には、内部にラウンジがある。他の建物にそんな贅沢な場所があるのかどうか解らないが、少なくともこのドワーフの王国にある王の住む城にはそれがあるのだ。


 ラウンジとは簡単に言うと、城内にあるめちゃくちゃお洒落な酒場の事。そう言えば、一番解りやすいかな。


 でも本来は休憩所兼、待合室も兼ねていて王に謁見する者が待たされる場合に時間潰しに利用したり、城内で働く者が休憩にやってきて使用したりもする場所らしい。


 ここでは酒場同様にバーテンがいて、酒やジュース、珈琲や紅茶などお好みの飲物を注文する事ができる。


 もともとドワーフと言う一族は、大酒飲みなのだ。何処から見てもドワーフ族であるガラハッド陛下も、その息子であるガラード殿下も勿論大酒飲みで、このラウンジには入り浸る事もあり、何種類もの酒やそれにあったつまみを揃えるという拘りを見せている。


 王の寝室がある通路から、ずっと歩いて広い城内を1階へ。ファムと一緒にラウンジへ入った。


 すると、そこには知っている顔があった。地底湖で一緒に蟹鍋を食べた4人のメイド。そして、見事な金髪縦巻きロールのシャルロッテ・スヴァーリが紅茶を楽しんでいた。


 僕は、彼女に近づいて声をかけた。



「よっ! 公国の貴族令嬢シャルロッテ・スヴァーリさん!」


「あら、これはミューリさん。それにファムさんも。先程もお会いしましたけれど、なにかあまり好ましくない感じでしたわね」


「そうだね。ガラード王子は、このドワーフ王国を帝国のように軍事国家にする事が強国になる事だと信じている。それに対して、ガラハッド陛下はこの世から争いをなくす事こそ、真の強さであり、平和をもたらす事と思っていられるからね」



 シャルロッテは、紅茶を一口飲むと溜息をついた。



「そして、あなたはガラハッド陛下側。わたくしはその息子、ガラード殿下側。図らずして対立関係になってしまいましたわ」



 その通りだと思った。すると、ファムが言った。



「シャルロッテのお父さんルイ伯爵は、ヴァレスティナ公国の使者としてもここへきている。そしてガラード殿下はルイ伯爵……というか公国と結託し、恐らくはガラハッド陛下をどうにかして玉座から引き下ろし、とってかわろうとしている」


「ええ、そうですわね」


「ガラード王子は、このドワーフ王国を乗っ取る気なんだと、ファムは思っている。だけどそうなる事を、ファム達は許さない。陛下が嘆いておられたから。だから帝国へ鉱物資源なども、これ以上届けさせない」


「僕達は本気だよ。これまで、自分達だけの為に生きてきた訳じゃない。この国の為でもない。僕達は陛下に御恩があり、陛下の為ならなんでもするんだ。そう決めている」



 シャルロッテは、再び溜息を吐いた。僕とファムの方を見て言った。



「わたくしだって、折角知り合った気の合う友人と争いたくはないですわ。でも、お父様にはお父様の使命があって、ここまでやってきたの。わたくしは、その補佐を仰せつかっていますし、その立場は解ってほしいですわ」



 シャルロッテの目は、こちらを真っ直ぐに見ていた。真剣に言っている事が解る。



「お互いに立場があって、譲れないものもある。でしたら、もしあなた達がわたくし達、公国とガラード殿下の謀を邪魔するというのであれば敵同士になるかもしれない。もしそうなったとしても、お互いに立場がある限りどうする事もできませんわ。ですが、わたくしは親愛なるあなた方に、せめてできる限り真摯に向きあいたいと思っていますわ。刃を交わすとしても」


「僕らも同じ気持ちだよ。シャルロッテとは、いい友人になれた。また一緒にキャンプもしたいよ。だけど、それとこれはまた別の事だ。お互い、貫きとおすものがある以上は、仕様がないね」


「キョウシロウとも、できれば戦いたくはない。だけど、そうしなければならないならファムも覚悟する」



 皆、同じ仲間で同じ方向を見ていればどれ程いいだろうと思った。


 ………………


 シャルロッテと少し話をした所で、僕はアイスオレ、ファムはミックスキノコジュースとフレンチトーストを注文した。


 注文が出てくると、シャルロッテがファムの頼んだミックスキノコジュースを見て、慄いた。



「な、なんですの? そのジュースは? なんとも言えない色をしていますわ。それに何か、とてもカラフルな何かが浮いていますわ」


「キノコだよ。ミックスキノコジュースだからね。味はまあ――あれだけど飲み続ければ癖になる。シャルロッテも飲んでみる?」



 ファムはそう言ってシャルロッテの目の前に、なんとも言えないカラフルなジュースを押し出した。シャルロッテは、言うまでも無く怪訝な顔のまま顔を横へ振った。

 

 でも暫くしてフレンチトーストが出てくると、それに顔を近づけた。



「これは美味しそうですわね。美味しそうな卵とミルクの香り。そして、焼き上げたパンのにおいも食欲をそそりますわ」


「少し食べてみる?」


「是非! じゃあ、ひとくちよろしいかしら」


「ちょっと、そんな事言っていると僕も食べたくなったよー!!」



 シャルロッテがフレンチトーストを一口もらうと、目を閉じて幸せそうに味わっている。ううーー。僕も食べたいよ。


 だけど、これ以上は自分の食べる分が無くなるとファムは、フレンチトーストを両手で覆ってガードした。


 しょうがないので、僕は自分用にフレンチトーストを注文した。すると、シャルロッテも同じものを注文した。


 やっぱり、フレンチトーストって美味しいよね。改めてその、魅力の虜になってしまった。




 ラウンジで、そんな感じに3人で盛り上がっていらと、シャルロッテとは本当に戦いたくないと、心からそう思いそうならないよう願った。


 ファムの表情を見ると、ファムも同様だと見てとれた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ドワーフ城のラウンジバーテン 種別:ドワーフ

探索や発掘、冒険よりも酒を愛し、いきついた先がドワーフ城のラウンジの仕事。彼はバーテンが自分の天職だと信じて疑わない。だけど食べる事が好きな彼は昔から自分でよく調理もしていたので、料理の腕もいい。彼のいるラウンジはドワーフ城の中にあるので、観光客や冒険者にはあまり知られていないが、ここで食事やお酒を飲んだりするのを楽しみにやってくるものもいる。因みに酒好きでこのラウンジを作ったガラハッド王や息子のガラード王子はしょっちゅう来ている。

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