第326話 『ウインドファイアの帰還』 (▼ミューリpart)
ドワーフの王国に到着するなり、皆で早速食事をした。それで食べたお好み焼きは、やっぱり最高だった。
この王国で食べる事のできるお好み焼きは、冒険者等にも有名で、職人気質のドワーフが作る『ドワーフ風お好み焼き』と言われて親しまれ、この王国では名物でもあった。
幼い頃にこの王国にやって来た僕とファムにとっては、その頃からとても馴染み深い食べ物の1つで、いつも夢中になって食べていたのを覚えている。
だから、アテナちゃん達がこの王国にやって来た時には、まずこの料理を食べて欲しいと思ったし、食べて貰えたのはとても嬉しかった。
――ドワーフの城の方へ歩き始める。
僕とファムは、このドワーフの王国に戻ったらまずやるべき事があったので、アテナちゃん達とは一旦別行動をする事になった。
アテナちゃん達もこのドワーフの王国を訪れるのは、初めての事だし折角の機会なので、夜まではそれぞれ別々で行動しようって事になったみたいだった。
その事にルキアちゃんは、戸惑いを隠せなかったみたいだけど、自分で考えて自由行動するというのは、ちょっとした冒険。戸惑う中に、楽しそうにワクワクドキドキと胸を弾ませている彼女の姿もあった。
「ミューリ、皆と待ち合わせは、ベップさんの宿でいいんだよね」
「うん。ベップさんの宿は意外とこの王国では知られているし、皆たどり着けるよ。夜になるのが楽しみだね」
僕の知り合いにベップさんという名のドワーフがいる。奥さんはユフーインさんという女性のドワーフ。他に何人か従業員を雇って、この王国内で宿を経営している。僕とファムの、昔からの知り合いだった。
宿も、隠れ家的ないい宿だし、知る人には人気の高い宿。きっと、皆喜ぶに違いない。
その彼の宿で、今夜皆で合流して泊まる計画を立てた。もちろん、あの宿に泊まるのも久しぶりだという事もあるけど、アテナちゃんやルシエルちゃん、それにルキアちゃんと一緒にゆったりと宿に泊まるなんて今から楽しみで仕方がない。
「ミューリ。にやけている。もしかして、夜の事、ずっと考えている?」
「そうだよ。ってファムもにやけているよ」
「しまった、悟られた」
ドワーフの城の前まで来ると、門番が立って僕達の行く手を斧で塞いだ。
「ちょっと、僕なんだけど」
「なんだ、ウインドファイアの二人か。いいぞ、通れ」
門番をしているドワーフ兵にそう言われ、通される。僕達ウインドファイアは、ノクタームエルドでもその名はそれなりに知れ渡っているんだけど――――普段は、このドワーフの王国を拠点にして活動しているので、ほとんどのドワーフ達が僕達の事を知っている。
城はこのノクタームエルドに広がる大洞窟の岩を切り出して造り上げたものだった。だから天井も床も壁も全てが石造り。そして壁には、ずらっと松明が掲げられていた。
玉座の間に行くと、ドワーフ王ガラハッド・カザドノルズが、息子のガラード王子と激しく言い争いをしていた。ファムが耳打ちする。
「ガラード王子がぞろぞろ連れてきている人達……その中にシャルロッテがいるね」
「本当だ。シャルロッテがいる……」
確かに、見事なまでのあの金髪縦巻きロールは、シャルロッテ以外の何ものでもない。
シャルロッテは僕とファムに気づいて一瞥すると、黙ってガラハッド王とガラード王子の話の成り行きを他の者と同じく跪いて見守っている様子だった。
ポールというちょび髭の男、それにドルフス・ラングレンと言う大男、キョウシロウまでもがいた。キョウシロウは、如何にも貴族と言った感じのおじさまの横に侍り、この玉座の間にいても常時辺りを警戒している。
ふむ。……っていう事は、あのおじさまがヴァレスティナ公国から遥々とやって来ているという伯爵様で、シャルロッテの父。ルイ・スヴァーリ伯爵。ファムがまた耳打ちしてきた。
「キョウシロウがしっかり守っているのは、ルイ・スヴァーリ伯爵。シャルロッテのお父さんだよ」
「うん、解ってる」
更に目を動かしてみると、ガラード王子の方にも鋼鉄のフルプレートアーマーに身を包んだドワーフ王国の戦士長、ギリムが侍っていた。アイアンゴーレムの異名を持つだけあって、鋼鉄の鎧兜に身を包み跪いている姿は、鉄の塊に見える。
王と王子の言い争いは続いていたが、ガラハッド王は僕とファムの顔を見るなり、嬉しそうな声をあげて手招きをした。
「おお!! ミューリ、それにファム!! 二人とも、よくぞ戻ったな!!」
喜ぶ陛下と違い、王子は僕達の方に目を落とし舌打ちをした。
僕達は、陛下にのみ完全なる忠誠を誓っているというのが気に入らないようだ。だって、僕達は冒険者だ。兵士じゃない。だから、このドワーフの王国にだって使えているつもりもない。
僕とファムは、ガラハッド・カザドノルズと言う人物に忠誠を捧げているのだ。僕達にとっては、父親同然でもあるから、だからガラード王子は余計に面白くはないのだろう。
「戻りました、陛下。何かガラード殿下と、穏やかならぬご様子とお見受け致しますが何か、ございましたのでしょうか?」
「いや、何……前々から言っておる事よ。こやつ、あのドルガンド帝国と同盟を組むと言ってきかぬのだ。しかも余の知らぬ所で、すでにその帝国と同盟関係にあるヴァレスティナ公国の者を連れてきておる」
困った顔で陛下が言うと、ガラード王子が進み出た。
「親父!! これからの我らの時代は、このヨルメニア大陸全土を巻き込んだ戦争へと発展していく。しかも、そうなればドルガンド帝国が大陸を制覇するだろう。だから、我々も今のうちに帝国と同盟を結び、国力を強化し今のうちに帝国の内情を知り備えておかなければならんでしょう」
「まだ申すか、この馬鹿息子!! 戦なぞ余は許さんぞ!! そんな事を帝国と一緒にやってみろ!! ドワーフは、悪しき種族として、世に汚名を遺すぞ!!」
「それならばもはやドゥエルガルなど、その名を地に落としたドワーフの種もおります。帝国と一緒に新時代を築くのです!! 既にクロム鉱石など、来るべき戦争において兵器に有用できる鉱物資源などは、帝国や公国に輸出する手はずも整え問題なく進めております!」
「すると何か!! このヴァレスティナ公国のスヴァーリ伯爵たちは、我が国の豊富な鉱物資源を軍事力に利用しようと買い付けにやってきたのか!!」
「その通りです、父上!!」
「ぐぬぬぬぬ!! なんとも、バカな息子じゃ!! 戦争戦争と簡単に言うが、戦争が始まればいったいどれ程の死人がでると思っておるんじゃ!! お前にその沢山の死の責任がとれるのか? 王とは、国の為、民の為にあるのじゃぞ!!」
「いや……それは違うな……親父の事は尊敬してますがね、それは俺の考えとは違う。国や民は王の為にあるんだ! 王が民の為にあるのではない!!」
「お、おのれ!! う……うぐぐ……」
ガラード王子の言葉に陛下は、苦しみだした。お年を召されているというのもあるけれど、興奮しすぎると発作を起こしてしまう。
「続きはまた明日。俺は親父がどういってもこの計画を進める。ドワーフ王国は、ドルガンドやヴァレスティナと共に新時代の三強国家になるのだ」
「ぐぐぐ……」
ついに陛下は怒りで顔を真っ赤にすると、その場に倒れてしまった。
「陛下―――!!」
「衛兵!! すぐに医者を呼んで!!」
僕とファムは、陛下に駆け寄って叫んだ。
実の父が倒れたというのに、ガラード王子は陛下に冷たい視線を送り、玉座の間をシャルロッテやキョウシロウ達とともに出て行った。
僕とファムは陛下に寄り添うと、「早く、医者を!!」ともう一度叫んだ。
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〚下記備考欄〛
〇ミューリ・ファニング 種別:ヒューム
ノクタームエルドを拠点に活動をする冒険者。火属性魔法を得意とする、赤髪マッシュヘアの可愛らしい女の子。ロックブレイクでアテナ一行と知り合い、意気投合し行動を共にする。一人称は「僕」。
〇ファム・ファニング 種別:ヒューム
ノクタームエルドを拠点に活動をする冒険者。風属性魔法を得意とする、緑の髪マッシュヘアの可愛らしい女の子。ミューリの妹で、ミューリと共にアテナ一行とドワーフの王国まで旅を共にする。ルシエルとよく張り合う事が多いが、言い合いでルシエルが不利になると実力行使に出られて酷い目に合う事もしばしば。一人称は「ファム」。
〇ガラハッド・カザドノルズ 種別:ドワーフ
ノクタームエルド全域を治めているドワーフの王国の王様。一見武闘派のように見えるが、温厚で物事に関しても広く柔軟に考える性格をしており、多くのドワーフ達に慕われている。ミューリとファムとは、特別な親交があるようだ。
〇ガラード・カザドノルズ 種別:ドワーフ
ガラハッドの実子で、ドワーフの王国の王子。ガラハッドには、他にも子供がいたようだが今は、第一王位継承者のガラードのみ。粗暴で短気な性格。父とは正反対の性格をしている。
〇シャルロッテ・スヴァーリ 種別:ヒューム
ヴァレスティナ公国の使者、ルイ・スヴァーリの娘。金髪縦巻ロールがチャームポイント。ガンロック王国ではアテナ一行と敵対関係にあったが、ノクタームエルドの地底湖キャンプで仲良くなった。
〇ルイ・スヴァーリ 種別:ヒューム
ヴァレスティナ公国の伯爵。ドワーフの王国への使者と、鉱物資源発掘して公国に送り届ける役目をおってきている。
〇キョウシロウ 種別:ヒューム
ロックブレイクでアテナ一行と知り合った侍。ルイ・スヴァーリ伯爵に恩があり、彼の護衛を勤めている。ルイのもとへ向かう途中にノエルに襲われるが撃破した。アテナの使う剣術【居合】を使える。
〇ドルフス・ラングレン 種別:ヒューム
ヴァレスティナ公国の男爵。大男でパワー型。貴族だがヴァレスティナ公国のエゾンド公爵にその武勇を認められ、外交の使者の護衛や調査などの役目を受ける。ドワーフの王国に出入口にある大きな吊り橋で、アテナと戦ったが見事に投げ飛ばされた。アテナの事を気に入っている。
〇ポール・パーメント 種別:ヒューム
ヴァレスティナ公国の男爵。ちょび髭が特徴的。エゾンド公爵の命令で色々と暗躍し、アテナとやり合う事も多い。
〇ベップの宿 種別:ロケーション
ドワーフの王国にあるベップさんというミューリとファムの知り合いが経営している宿。温泉も有名で、現在別行動をそれぞれしているアテナ一行が夜に落ち合う場所。温泉つかりたーーい。
〇クロム鉱石 種別:アイテム
ノクタームエルドの鉱物資源の一つ。やや黒光りしている、鉄鉱石の仲間。熱にも強く、ドルガンド帝国が兵器を作る為に大量に使用しているようだ。




