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第322話 『水の悪魔vs老剣士 その1』




 ロックブレイクから南に位置する、何もない広々とした空洞。そこで老剣士のヘリオスさんと向かい合っていた。


 ヘリオスさんは、ボクと向かい合うとおもむろに腰に下げている二振りの剣のうち、1本を抜いた。それでボクは、なんとなくこの先の展開が予想できた。


 恐らくこの老剣士は、ボクの力を見て何かを感じた。それで、ボクの実力を見たくなったのだろう。いや、見極めようとしているのか。まあ、どうしてもそうしたいのであればそれでも構わないが、いささか面倒なようにも思える。こういうベテラン冒険者はなかなか自分の負けを認めないからだ。


 確かに蟲達と戦いでは、凄まじい剣裁きを見せていたが、それでもボクに勝つには足りないだろう。


 ……剣を抜いた事で、ボクと手合わせする気だ。だとすれば、倒してしまっていいものかどうか。いや、ラコライの反応を見ても、このヘリオスという人はそれなりに名声のある冒険者だ。つまり冒険者界隈では、それなりにちゃんとした人。きっちりと負けを認めさせれば、解ってもくれるだろう。


 老剣士が剣を前に突き出し構えたので、合わせてボクも杖を前に出した。



「一応、聞くけどどういうつもりなのかな? まさか、ボクと戦うつもりかな? そうだとしても、理由がないね」


「そうだったな。理由が必要だったなー。これは、うっかり。まいったまいった」


「ふざけているのかい? ねえ、なぜボクとあなたが戦わなければならないのかな? 理由があるのなら、聞いておきたいね」


「そりゃあれだろ。俺がお前の実力を見ておきたいからだろ。それに、お前の中に何かを感じた。それが善か悪か。俺は剣を交えれば、だいたい解るんだよ」


「ボクのは、剣ではなく杖だけどね」



 ボクは気が短い方ではない。物事も淡々とこなす方なのだが、なぜか今ヘリオスとう老剣士の言葉に関しては、随分上からえらそうにものを言うなと苛立っていた。


 ボクはもう一度、諭すように言った。



「デビルスパイクキングとの戦いを見てなかったのかい。言っておくが、ボクはただのウィザードじゃない。あまく見ていると、怪我だけじゃすまないよ。大した用がなければ、ボクはテントに戻って休みたいんだけど」


「知っているよー。ちゃんと、お前の事を知っている。水の悪魔って呼ばれてんだろ? もしくはアクアデビルだっけか? かっこいいな」


「フッ」



 迂闊にも鼻で笑ってしまった。この老剣士の事を過大評価しすぎていたのかもしれない。水の悪魔……アクアデビル……その噂を何処からか聞いて、腕試しという訳か。あれだけ見事な剣を振るっていただけに、そうだとすればがっかりだ。でも、それなら合点がいく。


 そう思っていると、老剣士は更にボクの事を言った。



「それともあれかー。マーリン・レイノルズ。お前、勝手にマリンとか名乗っちゃいるが本名はマーリンだったよな。お前の爺さん、魔導都市マギノポリスのミュゼ・ラブリックと共に、魔導大国の双璧と言わしめたラダン・レイノルズが聞いたらがっかりするんじゃねーか? 折角マーリンって立派な名前があるのによ」



 水の悪魔。アクアデビル。ラダン・レイノルズ。マーリン。魔導都市マギノポリス。……オズワルト魔導大国。



 ――この男は、知りすぎだ!!



 ボクの頭の中で、カっと何かが熱を帯びて弾けた。……これは、怒り?


 この色々とボクの事を知る老剣士が何者であろうと、もう関係なかった。そんな事よりも、なぜ会った事もないこの老剣士が、あったばかりのボクの事をこんなにも知っている? それがなぜなのか、解らない。そして、何処の誰かも解らない他人に、自分の聖域を犯されているような気がした。



「剣を抜いたという事はそう言う事だよね。そう認識して、いいという事だよね」


「やる気になったか。じゃあこいよ、遠慮せずによ」


「笑えるね、後悔してもしらないよ。水よ、我に仇名す者を打ち砕け! 《水玉散弾(ウォーターショット)》!!」



 気が付いたら老剣士に向けて魔法を唱え放っていた。無数の水の散弾が老剣士を襲う。いや……襲ったはず。



「なっ……いない!! 消えた?」



 老剣士はもう、ボクの目の前にはいなかった。だとしたら、何処にいる? 辺りを確認しようとした刹那、ボクの首が宙に飛んだ。飛沫が舞う。身体から頭が離れて転がり落ちた。



「そういう白々しいのはもういい。本体じゃないというのも、バレているぞ。誰を相手にしていると、思っているんだお前。俺はベテランキャンパー、ヘリオス・フリートだぞ」



 老剣士の高速で振った剣に首を飛ばされるボクを、少し離れた場所から見ているボク。……そう。首を飛ばされたのは、ボクではない。ボクが魔法で作り出したレプリカだった。水で作ったレプリカ。



「水属性魔法で生成したレプリカにカラーリングの魔法やらで自分そっくりに作った影武者ってところか。血まで、本物そっくりに作り出してやがる。こんな精巧なのは、普通のウィザードじゃまず作れんだろうな。なかなかやるな、マーリン」


「黙れ!! ボクはマリンだ!!」



 今まで見破られた事が無かった水で生成したボクのレプリカ。それを初見であっさりと見破られてしまった。


 この老剣士は危険だ。途轍もなく、危険な存在。ボクの心の奥底で、黒い炎のようなもの……いや、黒い泥のような水が吹きあがり溢れ出てきた。



「ただものでないのは、解った。そして、ボクにとって極めて危険な存在だという事も。もう、どうなっても知らないよ。水よ、この老剣士を貫け! 《貫通水圧射撃(アクアレーザー)》!!」



 腕か足を狙えばいいと思ったが、それに反した行動をとっていた。老剣士の額を狙う。殺すつもりで狙っている。手加減しているようでは、いつまでたってもこの老剣士を捉えられない……そう思ったからだ。


 しかし、老剣士は顔色一つ変えずに貫通水圧射撃(アクアレーザー)を避けて見せた。それを小さく、無駄な動きをせずに最小限の身のこなしで。



「それなら、こうするまでだ!! 追尾すればいい!! 水よ、追ってその身体を切断せよ! 《貫通水圧射撃(アクアレーザー)》!!」



 強力な水圧ビームを放ったまま、周囲を駆けまわる老剣士を追尾する。転んだり、立ち止まったりすれば終わり。剣で防ごうとしても、その剣ごと身体を水圧ビームで両断する。どちらにせよ、終わり。



「ほう、凄いな。貫通水圧射撃(アクアレーザー)なら知っとるが、こんな使い方もできるなんてな。体内に膨大な魔力エネルギーを保持しているから、成せる業か。でもな……」



 そう言って老剣士が更に早く動いた。もう、目で追えないスピード。


 何処に行った? 必死で探していると、ボクはまた老剣士に首を刎ねられた。先程同様に、首を刎ねられたのは、貫通水圧射撃(アクアレーザー)を放っていたボクの作ったレプリカ。


 もしもレプリカでなければ……それを考えると、ぞっとした。それでようやく、カッと熱くなっていた頭が冷却されてきた。

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