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第320話 『魔力開放』




 老剣士が蟲達の親玉であるデビルスパイクキングに斬りかかろうとした刹那、周囲にいたオオダマトゲヤスデ達が一斉に丸まり、その背に無数に生える棘を向けて老剣士に対して攻撃を仕掛けてきた。


 しかし、老剣士はまったくひるまない。



 ――一閃。そして、連続切り。



 老剣士は次々とオオダマトゲヤスデを斬り倒すが、蟲達の攻撃も止まらない。老剣士に集中する。


 なるほど、この蟲達……オオダマトゲヤスデは、あの老剣士が自分達にとって一番の脅威だと判断したんだね。しかし、それは大間違いだ。このボクの存在を忘れているよ。


 老剣士は、襲い掛かる蟲達を片っ端から殲滅しつつもこちらに向かって叫んだ。



「おい!! おまえら!! 見れば解ると思うが、こっちは手が離せなくなった。だから、お前らでそのボスダンゴムシを倒せ!!」


「え? あたし達がかい?」



 レインの引きつる顔を横目にボクは代わりに頷いて、解ったと答えた。


 人差し指をデビルスパイクキングに向けて、魔法詠唱をする。



「水よ! 敵を貫け! 《貫通水圧射撃(アクアレーザー)》!!」



 指先から高圧の水が発射された。そしてそれはデビルスパイクキングの身体を貫く。



 キシャアアアアアア!!



 身体を貫かれた事により、痛みで身を捩る蟲達のボス。ダメージはあたえたようだが、その身体はおよそ3階建ての家程の大きさで、致命傷には程遠い。


 ヴァスドが叫んだ。



「警戒しろ! 来るぞ!!」



 デビルスパイクキングは、その巨体を他の蟲同様に丸めて、棘を突き出しこちらに転がってきた。


 レインはかろうじて回避できたが、あまりにも巨大な体当たりは、規格外。サミュエルとヴァスドを弾いて吹き飛ばした。二人は大きく弾かれ、岩壁に叩きつけられる。幸いあの大きな棘は、外れていたようだけどいずれにしろ結構なダメージだろう。


 ボクは再び魔法を詠唱した。



「これなら、どうかな。爆発する水属性魔法――《水爆弾(ハイドロボム)》!!」



 宙にブヨブヨした水の球体を出現させる。するとそれは、デビルスパイクキングに吸い寄せられるように宙を漂い向かって行くと、着弾し爆発をした。爆風と水飛沫が辺りに飛び散り、デビルスパイクキングは大きくその巨体を揺らした。



「マリン!!」


「大丈夫。ボクがちゃんと仕留めるから、レインは下がってて。それと、サミュエルとヴァスドを頼むよ」


「解った!! じゃあ二人の事はあたしに任せな!! でもマリン、くれぐれも無茶するんじゃないよ」



 二人の方へレインが走って行くのを見て、ホッとする。すると、デビルスパイクキングはボクの方を睨んだ。その目は赤く充血していて怒りに満ちている。次の攻撃がくる。



 キシャアアアアアア!!



 ちらりと老剣士を見た。すると、変わらず大量の蟲達を相手に奮闘している。二振りの剣で、まるで竜巻のように巻き込んで斬り刻んでいる。


 周囲に夥しい蟲達の肉片が飛び散り、血飛沫が舞う。圧倒的な光景だけど、こっちへ手を貸す余裕はないようだ。



「どうやら親玉の方は、本当にボクが仕留めなければならないようだね」



 デビルスパイクキングは、再び丸まった。今度はボクだけに狙いを絞って転がってくる気だ。 


 ボクはデビルスパイクキングに向けて両手を翳し、魔法を詠唱し始めた。ウォーターショットや、ウォーターボールなんかじゃ、この蟲は止められない。


 これだけの巨体とパワーを持っているのだから到底無理だ。でも止められなければ、ボクはペシャンコだ。


 なら、どうすればいいか。もっと強力な魔法で勝負だ!!



「来るならこい!! 君のパワーが上か、ボクの魔力が上かの勝負だよ!! 岩をも穿つ流水よ! 目前の魔物を打ち払え!! 《水蛇の一撃(ハイドロプレッシャー)》!!」



 デビルスパイクキングが丸まり、勢いよく回転しながらこっちへ転がってきたのと同時に、ボクは両手から大量の水を放水した。その威力は強力で、そう唱えたように岩をも穿つ威力。



 バシャシャシャシャシャ……

 


 ボクの放った水魔法と、回転するデビルスパイクキングの身体がぶつかった。ぶつかった所で、ボクの両手から放たれている放水は、デビルスパイクキングの身体をその場に押し止めている。しかし、このままではやがてこちらの魔力が尽きて、ボクの方が押し負かされてしまう。そうなると、やっぱりボクはペシャンコだ。


 ならば、ここは更に一段階大きな魔法を詠唱し、一気に倒すしかない。



「あまり、これ以上魔力の開放をしたくはないんだがね。このままじゃ、被害が拡大しそうだしそうも言ってられなさそうだから仕方がない」



 水蛇の一撃(ハイドロプレッシャー)を放つ両手を交差し、更なる上位魔法を詠唱した。デビルスパイクキングは、放水をひたすら耐えている。



「魔力を解放しよう。だが、一時的だ。一時的な魔力の開放で決着はつく。これで終わりだよ。《絡み合う水蛇(アンデュレイトクロス)》!!」



 そう叫ぶと両手から放たれていた大量の水は、片腕ずつ放水されて左右二本になり、それは絡まり合ってツイスト状になった。それは魔力で発現させた水を、ぎゅっと圧縮させてたものに捩りを加え貫通力のを高めたもの。


 先程まで、互角に押し合っていたデビルスパイクキングの巨体をたちどころに穿ち、遠くまで吹き飛ばした。身体を覆っている甲殻と棘が弾けて飛び散る。


 遠くまで吹き飛ばされたデビルスパイクキングは、足がかろうじてピクピクと動く程度で、もう起き上がって再び襲い掛かってくる事はできなかった。


 老剣士の方をみると、そちらも決着がついたようで、大量の蟲の死骸の中に佇んでこちらの様子を眺めていた。見物。そして咥えた煙草に火を点けると、二振りの剣を勢いよくビュッと振って付着した血を飛ばし、鞘に納めた。


 そして、老剣士は蟲達と戦っていてもまるで見せなかった、鷹のような鋭い目でボクを睨んだ。まずい……魔力の開放をしてしまったからだ。


 彼はそれに気づいて、ボクの正体を探る様に……まるで内側を見透かすように奥深くまで覗かれているようだった。そんな気がした。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


水球強弾(ウォーターボール) 種別:黒魔法

中位の、水属性魔法。大きな水の球を生成し目標へ投げつける。魔力を帯びた水球は岩をも砕く。


水爆弾(ハイドロボム) 種別:黒魔法

中位の、水属性魔法。拳サイズの水の塊を発射に、それが接触すると大量の水となって弾け飛ぶ。その威力と衝撃で巻き起こる大爆発の威力は、目標を粉々にする威力。


絡み合う水蛇(アンデュレイトクロス) 種別:黒魔法

上位の、水属性魔法。両手からそれぞれ高圧力の放水を発射し、捻じれ合わせて威力と貫通力を特化させる。ツイスト状の放水。大型の魔物でも、この魔法を喰らえばひとたまりもない。

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