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第32話 『その魔物、ウルフ その2』






 のんびりと歩いて、ニガッタ村へ向かっていた。


 道なりに進んだ。


 さっき出会った冒険者のアレアスが言っていた事だが、ゆったり歩いて途中野宿をしても明日の昼頃には、ニガッタ村に到着するとの事だ。


 じゃあ、一人でキャンプするとすれば、今日が最後になるな。ふむ。


 確か、アテナが言っていた。キャンプにも色々あって……複数でキャンプする楽しさもあるが、あえて一人でキャンプする事を好むキャンパーもいると。確か、ソロキャンって言っていた……


 アテナと出会う前、エルフの里を出てからは基本的に一人だったので一人で野営していたが……あれも言ってしまえばソロキャンだな。


 ただあの頃はそれを楽しんでいなかった。単純に寝床を探す。そういうものだった。テントや他のキャンプ用品も、持ってもいなかったし。



「よし。一日早く村についても良かったが…………考えてみれば、一人最後の夜をソロキャンというのもいいかもな。――――決めた! 今夜は、何処か途中で良いところを見つけてソロキャンしよう。……フフフ。オレも随分いっぱしのキャンパーになってきたな」



 道なりに歩き続けていると、草の茂みから気配を感じた。殺気?



「誰だ!! 誰か隠れているのか?」



 足を止めて、その茂みの方に弓矢を構えた。



 ウウウウウウウ……



 茂みに隠れていたそいつは、唸り声をあげながら飛び出して来た。



「なに? 追って来たのか?」



 現れたそれは、ついさっきアレアス達に襲い掛かっていたウルフの群れの中にいた、子供のウルフだった。



 ガウガウッ



 飛び掛かってきた。っが、軽く避ける。続けて牙で噛みつこうと何度も飛び掛かってきたが、あしらうように回避する。



「無駄だ。辞めておけ! でないと、退治するぞ。子供でも魔物は魔物だ」



 そう言って睨みつけたが、子ウルフは唸り声を上げ続ける。怯まない。



「もしかして、あのボスウルフか、その他の倒したウルフの中に親がいたとかか? だとしても、それでも仕方ないぞ。おまえらは、危険な魔物だし人間を襲ったんだ。被害も出ていると聞いた。だからおまえが子供でも、退治するぞ」



 言っても通じない。犬型の魔物。当然か。



 ガルウウ!!



 また飛び掛かってきた。だが避けると同時に、子ウルフを蹴飛ばした。



 ギャンッ!!



 子ウルフは、蹴られた衝撃で派手に吹っ飛んで転がったがすぐに体勢を調えて、再びこちらを威嚇した。



「まったく……さっさと、仕留めるか。…………それとも…………そう言えば、アテナが言っていた。ネバーランの森で森林ウルフを初めて食べたけど、凄く美味しかったって…………」



 子供ウルフに目をやる。――――よだれ。



 …………じゅるり。



 すると、何かを感じたのか、それまで全く怯まなかった子ウルフが後ずさりをした。



「ウルフと森林ウルフって違う種類だよな。……それで、こいつは何ウルフなんだろうな? 森林ウルフなのか? …………わからん。でも、食べればきっと……」



 弓矢をしまい、ナイフを手に取り、子ウルフにじりじりと近づく。すると、子ウルフは更に後ずさりし、林の中へ逃げ出てしまった。



「残念。逃がしてしまった」



 オレは、残念そうにそう言うと手に持っているナイフをホルスターにしまった。


 




 ――――途中、何人か旅人とすれ違った。その中には、干し肉など何か食べながら歩いている者もいた。



 グーーーーーー



 それを見て、腹がなった。そして、昼飯がまだだった事に気づく。



「おっ! そう言えば昼飯がまだだった。アレアス達や、あのちびっこウルフやらで、すっかり忘れていた」



 周囲を見ると、少し先に丁度いい感じの大きな石が見えた。あれがいい。


 そこへ移動すると、石の上にピョンっと飛び乗って座った。ザックを下ろし、中から水筒と包みを取り出した。包みを広げると、サンドイッチ。中身は、コッコバードのスモーク肉とレタスにキュウリにトマト、それにたっぷりと特製ソースとマスタードが塗られている。食欲を誘うかおり。もう、我慢ができない。



 モッチャモッチャ……モッチャモッチャ……



「うんまいーー!! これは、うまいぞ!! ミャオ!! これを教えてくれたミャオには、本当に感謝だな」



 エスカルテの街を出る前に、ミャオがオススメしてくれた店で買ったサンドイッチだ。腹が減っているっていうのもあるが、凄まじく美味い。



 ――――水筒に入った水を飲む。んっんっんっ。



「ん?」



 ウウウウウウウウ…………



 聞き覚えのある唸り声。まさかと思い振り向くと、さっきの子ウルフが目前の木の影からこちらを睨みつけ、唸り声をあげている。なんてやつだ。しつこいな。


 石に座って食事をしていたが、立ち上がった。その動きにビクっと警戒する子ウルフ。



「まったく、しょうがないやつだな。こいつはずっと、オレを狙って追ってくるつもりか?」

 


 残っているサンドイッチの三分の一を手に取り、子ウルフに近づいた。更に警戒をする子ウルフ。目前の木の葉が、丁度良いサイズだったので1枚ちぎって、その上にサンドイッチをのせて子ウルフの前に差し出した。


 子ウルフは、それをチラっと見つつも唸っている。しかし、少しよだれが垂れているぞ。



「かなりうまいサンドイッチだ。おまえとは、敵対関係かもしれないがとりあえず、おすそ分けだ。あれから、ずっと追ってきているなら腹も減っているだろう? ――――言っておく。食う食わないは、おまえの自由だが、このとびきり美味いサンドイッチを食わないのは、ハッキリ言って馬鹿だぞ」



 ガルウウウウ



 一応は、言っておいたが唸り続けている。言葉は通じないだろうが、目の前にこんな美味い物を差し出しているのだから、なんとなくは解るかもしれない。それに、一向に止まる事の無いよだれも…………

 

 サンドイッチをそのまま、子ウルフの前にそっと置いて再び大きな石の上に座った。空を見上げる。青い空。太陽。快晴だ。鳥が飛んでいる。


 子ウルフの方へ背を向け、ニガッタ村へ続く道を眺めながら残りのサンドイッチを再び食していると、暫くして後ろの方で何か食べる音が聞こえてきた。



「フフフ。こんな美味いサンドイッチを食べない訳がないんだ」



 誰に言った訳でもないが、オレはそう呟いた。


 食べ終わり水を飲んで、なんとなく子ウルフの方を振り返った。すると、もう子ウルフの姿は無く、サンドイッチの姿も無くなっていた。


 立ち上がり、子ウルフが恐らくそっちへいっただろう方に向かって叫んだ。



「なあ!! 言ったろ? こんな美味いサンドイッチを食わないのは馬鹿だって?」



 ――――返事はない。


 だけど、今叫んだ事は、なんとなくちゃんと相手に伝わったと思った。



 ザックと弓矢を背負い、再び歩き出す。もう暫く歩いたら、今日キャンプできる所を探そう。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。アテナと合流する為、単身ニガッタ村へ向かう。途中、戦闘になったウルフの群れにいた子ウルフの事が、自分と少し境遇が似ているかもと気になっている。


〇子ウルフ 種別:魔物

狼の魔物、ウルフの子供。脅威度は極めて低い。他のウルフと共に行動を共にしているようだが、その力の低さから仲間から相手にされていない。ルシエルに、追っ払われてからもその後をつけ回す。こんな所も少し、ルシエルと似ているかもしてない。本作8話でそういう事があった。


〇サンドイッチ 種別:食べ物

アテナとローザが去ったあと、ルシエルが一旦ミャオの家にご厄介になった。そして、アテナと再び合流を擦る為に、ミャオのもとを旅立つ時にミャオがお勧めしたエスカルテの街にあるお店で入手したサンドイッチ。使用されているコッコバードの燻製肉と、綺麗にスライスされているチーズは絶品。味付けも濃い目でしっかりしていてルシエル好みの味。子ウルフもきっと夢中になって、食べているに違いないのだ。


〇ルシエルの持つ弓 種別:武器

見るからに立派で特別な弓。エスカルテの街の武器屋でもこれほどのものは売っていない。何か特性がありそうな感じもあるが、今はまだ明かされていない。


〇水筒 種別:アイテム

冒険者や旅人の必需品。旅をするのであれば、必須。街にいけば、手に入る物ではあるが、エスカルテの街へお越しの際は、ミャオのお店を御贔屓下さいませ。


〇ニガッタ村 種別:ロケーション

ルシエルのパーティーメンバー、アテナと合流する待ち合わせの場所。ライスが特産品。




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