第318話 『続・ロックブレイク防衛依頼 その4』
ボク、レイン、サミュエル、ヴァスド、そしてかなりの使い手と思われる謎の老剣士。
5人で一丸となって力を合わせて、次々と迫りくる蟲達を撃退していると、津波のように攻め寄せるそのオオダマトゲヤスデに、変化が現れ始めた。
身に纏う無数の棘を武器に、真っ直ぐとこちらに突貫してきていたのに、急にその場にとどまって様子を見ているものが現れ始めたのだ。なんだろう、嫌な予感がする。
すると老剣士が目の前のオオダマトゲヤスデを10匹程、瞬時に斬り捨てるとこちらに駆けてきて言った。
「全員で固まれ。ドワーフのあんた、あんたの背中に背負っているその大きな盾、それが役に立つ時が来たようだぞ。前衛で俺と共に構えて備えろ。魔法使いと弓の娘、そして拳闘士も後衛だ。大盾の後ろで身を隠せ。ぐずぐずするな」
サミュエルは老剣士に言われた通り、背負っていた鉄製のラージシールドを両手に持って構えた。それに疑問を持ったレインが聞いた。
「守りに入ってちゃ、とてもこの数さ。とても、倒しきれやしないよ。それにヴァスドは、どうみても前衛じゃないかい?」
「備えろって言っただろ。そろそろ来るぞ! それをまず防ぐ! それができたら、チャンスを見つけて猛反撃だ!!」
「はあ? それってどういうことさ……」
レインが聞き終えるまでに、オオダマトゲヤスデ達は、新たな攻撃を仕掛けてきた。
向かって来る群れの中でその場に立ち止まっていたもの達が、身体全体の筋力を使ってその場で跳び跳ねるようにジャンプした。跳躍した高さは、それぞれで異なる。
跳んだオオダマトゲヤスデは、そのまま宙で丸くなり高速回転する。そこから、まるで棘付き鉄球のようになり、こちらへ向かって飛んできた。それを見てやっとボク達は、この老剣士が備えろと言って皆に固まらせ防御させた意味を理解した。
前衛でサミュエルがラージシールドを押すようにして構えて、次々と回転して飛んでくるオオダマトゲヤスデを弾き返す。回転する棘と鉄製の盾が接触すると、その度に嫌な金属音が鳴り響いた。
なるほど、これが別名デビルスパイクボールと言われる由縁という訳か。
一度ぶつかってきたオオダマトゲヤスデは、盾に跳ね返された時点でまた距離をとって、先程と同じように棘付き鉄球のように丸まって、またもや体当たりを仕掛けてくる。その繰り返しが、かなりきつい。
次第にサミュエルは大汗をかき始め、盾を必死に押さえる手が震えだす。そりゃそうだろう。これだけの数のオオダマトゲヤスデの攻撃を真正面から受け止めて凌いでいるのだから。
そしてその大盾を構えるサミュエルの横に立ち、同じく前衛でオオダマトゲヤスデの進行を止めている老剣士。盾も無いのによく、凌げていると思った。
気づけば両手に剣を持ち、二刀流になっていて凄まじい剣速で蟲達を斬り刻んでいっている。しかし、年齢からいっても、このまま蟲達を全て倒せないだろうね。きっと、スタミナが持たない。
――ふう、仕様がない!
「ちょっと!! マリン!! ウィザードのあんたが前に出ちゃ危ないよ!!」
「そうだ!! もう少し攻撃が収まるのを待つんだ! そしてチャンスが生まれれば拙僧が飛び込むから援護してくれ!!」
ボクは、レインとヴァスドの心配してくれる声に対して「大丈夫だ、任せて」というと、老剣士と共に前衛でラージシールドを構えてひたすら攻撃を受け続けているサミュエルの横に並んだ。そして、魔法を詠唱し杖を迫りくる蟲達の方へ翳した。
「強固なる水の壁よ!! 蟲達の猛攻から我らを守りたまえ!! 《噴水防壁》!!」
唱える。ボクらとオオダマトゲヤスデの群れの対峙する境界線。その地面から、水が吹き出し一列となって壁となった。これで、水の壁が蟲達の攻撃を防ぎ進行を妨げる。
サミュエルがもう力の限界だったのか、そこで膝をついて息を大きく吐き出した。レインとヴァスドは水の壁を見て、一時的にでも助かった事を喜んでいる。
「はあ、はあ、はあ。き、きついなー。もう限界だった。すまんなマリン」
サミュエルのお礼の言葉に、微笑んで見せる。
「でもこれは一時的に凌いでいるだけだからね。少し、休憩したら第二ラウンド開始と言う訳だ」
それを聞いてサミュエルとレイン、ヴァスドの3人はげんなりした顔をした。老剣士は、意外にも少し笑っている。ボクはそれを見て、正直驚いた。
この蟲の群れとぶつかってから、ほぼ休みなくずっと動いて剣を振り回しっぱなしで戦っている老剣士。しかも両手に剣を持って戦うさまは、はたから見て竜巻のようだった。
どう見ても年齢は70前後だろう。そんな年齢で休みなくここまで動けるなんて……一言で言えば、規格外の化物。スタミナ切れをするだろうとふんでいたが、息を切らしている様子もない。
すると老剣士は、ボクがそう思って見ている事を察したのか、また軽く笑うととんでもない行動にでた。
戦闘中――しかも今はボクが大量のオオダマトゲヤスデを水の壁でせき止めている訳だが、そのこちら側で老剣士はおもむろに懐から煙草を取り出して咥えると、マッチを擦って火をつけた。そして、煙を吸い込んで吐いた。一服している。
その光景には、ボクだけではなく、レイン達他の皆も驚いた。
「な、なんとも肝が太いというかなんというか」
「こ、こんな時に、この爺さん正気なのかい?」
「ど、どういうつもりだ? 今のうちに息を整えておかなくていいのか?」
老剣士はまた顔に微笑を浮かべる。
「そもそも俺はこの程度じゃなんてことないし、疲れていない。それより、水の壁……永遠に張ってられる訳じゃないんだろ? 次はどうするんだ? 考えを聞かせろよ」
老剣士は、サミュエルやレイン、それにヴァスドでは無く明らかにボクの目を見てそう言った。
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〚下記備考欄〛
〇ラージシールド 種別:盾
大盾。重量はあるが、大きさがあるのでその分幅広く身を守ることができる。かさばるので、冒険者で所持している者はドワーフ以外にはあまり見かけないが戦場などではよく目にする。降り注ぐ矢の雨などには、効果絶大だからだ。
〇噴水防壁 種別:黒魔法
中位の、水属性魔法。目前足元から水を横一列に魔力で作った水を吹きあがらせて壁を作る。水の壁であるが、魔力で生成しているためその強度も術者に比例する。




