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第317話 『続・ロックブレイク防衛依頼 その3』




 オオダマトゲヤスデ。別名を、デビルスパイクボールというらしい。


 そんなカッコイイ……もとい凶悪な別名を名付けられたのには、ちゃんと訳があった。この老人剣士の話では、その魔物はオオダマヤスデと同じく丸まるらしい。


 しかも、その性格は好戦的かつ凶暴で、オオダマヤスデの見た目に加えその身体には、沢山の鋭い棘が生えており、丸まると針をこちらに向けて転がって攻撃してくるらしい。そういう訳だから、もしもうっかり転がって突進してくるオオダマトゲヤスデを身体全体で受け止めようものなら、全身を棘でブスブスと刺され穴だらけにされると言う訳だ。


 老剣士は続けた。



「それと、これも長年こういう魔物退治なんかを生業としてきている俺の感なんだがな、ボス級の奴もきっと出てくるぞ。前回、ここを襲ったアシッドスライムの群れにもいたらしいが、今回もその棘付き丸虫の親玉版ってのが登場すると俺は見ている」



 これはとんでも無い事になってきた。そう思った。



「それはそうと、魔物の群れはこうして悠長にお喋りしている間にも接近してきているのだろう? 急いだ方がいいんじゃないか?」

 


 そう言って老剣士はマントを翻し、その魔物の群れが向かってきている北東へと軽やかに向かって行った。その足は、とても老人とは思えない程に素早くて、もう視界の先にもいなくなっていた。



「それじゃ、敵の正体も解った事だし、ボクらも行こうか」


「そうだな! またこのメンツでパーティーを組むことになったが、ひとつよろしく頼むな」



 サミュエルがニカっと笑い、レインとヴァスドも頷いた。


 




 ロックブレイクを出て、北東の洞窟を進む。なるほど、確かに幅があって広い洞窟だ。天井までの高さもあるし、長柄武器を得意とする【ランサー】でも、ここなら十分に槍を振り回して戦う事ができそうだ。だけど群れを相手にするのであれば、気を付けて戦わないとあっという間に囲まれたり、一斉にのしかかられたりされそうだ。


 大量に討ち漏らしてしまう事もあるかもしれない。そうなれば、ボクらを抜けて突破した魔物は、ロックブレイクへ向かう。



「お前ら!! 早くこい!! ここだ、ここだぞー!! もう奴らもそこまで迫ってきている」



 先行していた老剣士だった。腰の剣を抜いて手に持ち、立っているのが見えた。その老剣士の周囲には、既にいくつかカンテラを配置していて辺りも十分に見渡せるようになっている。これなら、戦いに専念できそうだ。



 ギチギチギチギチ……



「いよいよ、やって来たようだね。まずは、あたしが射かけるよ!!」



 レインが背負っている筒から矢を手に取り、弓に添える。そして、思いきりギュンと矢を引き絞る。すると間も無く、暗闇の中から大量の棘付きダンゴムシがその姿を現した。圧倒的な蟲の数。しかも身体のサイズも、ボクが目にしたオオダマヤスデよりも大きい。



「これでも喰らいな!!」



 レインが矢を放った。


 しかし、矢はオオダマトゲヤスデの背に命中すると刺さらずに弾かれてしまった。



「な、なにさ? 嘘だろ? あんなに硬い背中しているのあいつら……」



 老剣士が言った。



「矢で狙うなら、やつらの裏側を狙え。棘のある背中はかなり硬い。通常の矢攻撃ではまず射貫けんぞ」


「なにさ!? そんな事を言われても、じゃあどうやってこいつらの腹に矢を当てりゃいいんだよ! 常時、背がこっちに向いているのに、これじゃあ狙えないよ」


「それなら問題ない。ワシらの出番だ! いくぞヴァスド!」


「承知!!」



 サミュエルがウォーハンマーを振り、ヴァスドが華麗な蹴り技を繰り出した。その攻撃は下から上にえぐり上げるようなもので、向かって来るオオダマトゲヤスデを次々とひっくり返していく。そして、むき出しになった腹をレインがここぞとばかりに矢で射貫いた。



「はは! こりゃいい!! これなら、あたしの矢も通用する!!」



 サミュエルやヴァスドも続いた。敵をひっくり返しては、その上から攻撃する。これなら背の方にある棘も怖くは無いし、弱点攻撃もできて理にかなった攻撃。


 皆の活躍に目を奪われていたボクも、攻撃に転じた。両手を翳し、水属性魔法を詠唱。



「水の散弾だ! 飛び散れ、《水玉散弾(ウォーターショット)》!!」

 


 無数の小さな水の粒が弾となりて、オオダマトゲヤスデ達に着弾する。硬いその背中は、この魔法では完全に潰せないけど、弾き飛ばすだけなら十分だ。こちらに向かってきている大量のオオダマトゲヤスデ達は、ボクの水玉散弾(ウォーターショット)で吹き飛び弾んでひっくり返った。


 レインがその光景を見て、くくくと笑う。



「まったくやるねー、マリンも。他の皆も、凄いけどあんたの魔法の威力は本当に凄いよ。威張っていい位さね。ラコライや他の冒険者が騒いでいるのを見てどうなる事かと思ったけど、これなら拍子抜けだねー。案外、簡単に片が付きそうだよ」



 ヴァスドも続いた。



「左様! これで全てというのならば、至極容易。しかもあのベテラン剣士殿も、マリン……お主のように化物であるぞ」



 え? 化物?


 ヴァスドのその言葉を聞いて、老剣士に目を移した。老剣士も剣を振って戦っている。


 しかし、目を疑うような光景だった。老剣士の腕が並外れているのか、それとも装備している剣が凄い名剣なのかは解らないが、レインの矢でも射貫けなかったオオダマトゲヤスデ達の身体を一刀のもとに斬り飛ばしていた。その周辺には、沢山の蟲達の死骸。


 そして老剣士は、剣を素早く鞘に一度戻すと、重心を落とし深く構えた。


 先程まで剣を握っていた手が、剣の柄に触れると同時に物凄い勢いで抜刀し、まるで大鎌を振ったかのように回転した。その周囲に押し寄せていた何十匹ものオオダマトゲヤスデは、一斉に真っ二つに両断されてぐちゃりと潰れた。


 な、なんだあの剣技は!!


 ボクだけでなく、サミュエルやヴァスド、それにレインも魔物との戦闘中だというのに目を奪われている。


 しかし、これで解った。


 あの老剣士が使う位なのだから、あの剣もきっと凄いものに違いはないのだろうが、あの老剣士の強さは異常だ。異常な存在。


 なぜ、こんなとんでもない男がノクタームエルドの冒険者達の拠点に? 老剣士は、驚くボク達を見て叫んだ。



「前を見ろ!! ちゃんと集中して戦わねえと、足元をすくわれるぞ!!」


「あ、ああ……」



 色々気になるけど、とりあえずは戦いに集中しないといけないと思った。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇老剣士 種別:ヒューム

謎の老剣士。年齢は70歳前後? 髭を蓄え、年季の入ったマントに身を包む。


水玉散弾(ウォーターショット) 種別:魔法

下位の、水属性魔法。小さな水の弾を無数に生成し、一斉に放って目標を撃ち抜く散弾魔法。

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