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第315話 『続・ロックブレイク防衛依頼 その1』




 レインは、串焼き肉の他にも食べ物を買って来てくれていた。


 しかもそれはボクも大好きな種類の芋だった。


 歪な形なのに、それが美味しいと解るフォルム。長い形状で紫色をした芋。人はこの芋の事をスイートポテトと呼んでいる。



「まさか、レイン。これからもしかしてこのスイートポテトをこの焚火で焼くのかい? 火に包まれた薪茸の中へ、押し込むというのかい?」



 レインは、満面の笑みで「そ!」と短く肯定した。


 これは極めて大変な事態になってきた。スイートポテトは荒地でも育つ事で有名な馬鈴薯と共に、今やヨルメニア大陸全土で好まれる芋だ。当然ボクも非常に好んでいる芋なのではあるが、かれこれ暫く食していない。


 肉も美味しかったが、これはこれでとんでもなく美味しい。飛び切りのデザートと言える。


 レインがスイートポテトを焚火の中へ順々に、押し込んでいく。パチパチと焚火が音を立てる。


 肉を焼いている時は、色々とお喋りをした。でも、スイートポテトを焼いている今は、なぜだがボクもレインもじっと黙って焼けるのをひたすらに待っている。待つ体勢もなぜだか、自然と三角座りになっていた。



「そろそろ焼けたかねー。いい感じ! ほいっ……マリン、食べてみな」



 レインは自分の矢筒から矢を一本取り出すと、それを焚火の中に突っ込んで、芋を突くとそのまま引っ張りだした。芋に矢が刺さった状態で、そのまま差し出される。


 受け取った芋からは、美味しそうな湯気がホクホクと上がり、表面の所々が焦げていてそれがまた一層香ばしそうで食欲を掻き立てられた。


 ごくり……



「ボクからいいのかい?」


「飛び切り美味いから、食べてみな」


「ありがとう。それじゃ、遠慮なく頂こう」



 矢に刺さった芋を、矢からゆっくりと外す。あ、熱い。一旦膝を合わせている所に落とすと、今度は芋に帯びた熱で膝が熱くなった。


 ボクは慌てて、芋をまた手で掬い上げ、掌で転がして普通に持てる位にまで冷ます。そして、丁度いい感じになった所で芋の両端を持って、ポキリと二つに割った。湯気。割った芋の断面からは、黄金色に輝くホクホクの身が現れた。



「う、美味そうだね。実に美味そうだ」


「いって、いって! ほら食べてみて」



 パクリ……むっぐむっぐむっぐむっぐ……ごくんっ



 ――――これは、絶品! 美味い!! 



「どう?」


「これはとても美味だよ。スイートポテトはボクの大好物の一つでもあるんだけど、この芋は特に甘さもあって凄く美味しい。これは、いい芋だ」



 レインはそれを聞くと、うんうんと頷きもう一本矢を取り出すと、焚火から自分の食べる分の芋を突き刺して取り出した。そしてそれを食べると、レインも「うんめーー」っと唸った。



「本当は落ち葉を集めて、そこで焼くのが一般的なやり方らしいけどね」


「いや、なかなかキノコで焼いて食べる焼き芋というのも、面白いと思うよ。うん、実に面白い」



 モッチャモッチャモッチャ……



 食べ終わろうとした所で、レインがまた矢を取り出した。



「実は、もう一本ずつあるんだよ」


「モッチャモッチャモッチャ……うむ、いいね」


「食べる?」


「モッチャモッチャモッチャ……うむ、もらおう。これだけスイートポテトを味わう事ができれば、ボクの水属性魔法は更に強化される。水と芋には密接な関係があるからね」


「モッムモッムモッム…………ごめん、それは流石に嘘だと解るわ」


「うん……そう言えば、これからもっと出てくるかと思った。ごめん……モッチャモッチャ……」



 2本目のスイートポテト。それをレインと食べてすっかり、愉悦に浸ってしまった。


 スイートポテトの余韻を楽しんでいると、周囲……というか、このロックブレイク内がなんとなくざわつき始めた。


 なんだ?


 暫く焚火の前で食後の休憩をしていたが、そこにいてもこのざわつきが次第に騒ぎになりつつある事が解った。これは。何かあったに違いない。


 レインもそれに気づいたようだ。



「あたし、ちょっと行って見てくるよ」


「そうか、それじゃあボクも見に行って見よう」



 すっかりお腹が満たされて重くなった身体。しかし、鞭を打ち立ち上がる。うがーーっ


 露店が並ぶ場所まで行って見ると、確かに大勢の人があっちへ行ったりこっちへ行ったりと騒ぎになっていた。行きかう人の中から、レインがサミュエルを見つけ、腕を掴んて引き留めた。



「うおっと! なんだ? レインか?」


「なんだって何よ、この騒ぎ? 何かあったのかい?」


「そうだ!! 魔物だよ!!」



 魔物?



「魔物の群れがこのロックブレイクへ向かって来ているようだ。このままじゃその魔物共が、ここへ突っ込んでくるぞ。ラコライが今、その魔物を喰い止める為の冒険者を集めている。ワシは当然行くつもりだが、お前さん達もどうだ? 冒険者ギルドからちゃんと報酬も出るみたいだから誘いはしたが、何よりお前さん達がいると心強い」


「そうさねー。マリンはどうする? あたしはお金も欲しいし、防衛に加わってもいいかな? マリンも手伝ってよ。じゃないと、明日無事に出発できないよ」


「確かにそうだね。じゃあボクも加わろう」



 こうして、ボク達3人はラコライのもとに向かった。すると、すでにそこにはこのロックブレイクの防衛に協力すると言った腕自慢の冒険者達が集まっていた。【モンク】のヴァスドもいたので、手招きして近くに呼んだ。



「マリンにレイン。それにサミュエル! どうやら、またパーティー再結成のようだな。魔物に拠点を襲われそうになっている今、こんな事をいうのは不謹慎かもしれないが、皆と再びまた並んで戦えると思うと嬉しく思う」


「ボクもだよ。ヴァスド」



 握手をする。すると、集まった何十人もの冒険者の前にラコライが現れた。



「皆、ここに残ってくれてありがとう! 今ここへ、大量の魔物共が向かってきている。だが皆で協力し、一丸となれば必ず退治できる。冒険者ギルドからは、報酬も出すから手を貸してくれ。それじゃ早速、ここへ向かってきている魔物共の情報を伝える」



 ラコライの言葉にあちらこちらで、どよめきが起こる。「またかよ」「どうなっているんだ?」等々。


 そう言えばこの場所には、少し前に大量のアシッドスライムが雪崩れ込んできかけたという話を聞いた。リアのお姉さん、ルキアやアテナ王女もその防衛戦に参加しここを守り抜いたという話。


 ……そして、また今ここに、再び何かしらの魔物の群れが向かって来ているというのか。


 そんな短期間で同じ拠点が魔物の群れに襲われるなど、あるのだろうかと思った。もしもそんな事があるのであれば、それは偶然では無く必然。


 何かこの良からぬ事態になった原因が、何処かにあるのに違いないと思った。それを解明しない限り、またこの場所は頻発して魔物の群れに襲われるかもしれない。そんな気がした。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇スイートポテト 種別:食べ物

甘くてとっても美味しいお芋さん。その味は、とってもとってもスウィーティー。だからスイートポテトなんだね。蒸かし芋にしても焼き芋にしても、ライスに混ぜて炊き込んでもめちゃウマですわ。皆大好き。食物繊維も豊富で、お腹にもいい。

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