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第314話 『魔力ブースト』




「ニク――ニクニク―――!!」


「こら、やめないか!! この肉はあたしんだよ!!」


「ニク―――!!」


「わーった! わーったから、ちょっとマリン、あんた落ち着きな!! だが言ったように、この肉はあたしんさね! あんたの分も調達してきてやるから、ちょっとここで大人しく待ってなよ」


「解った。じゃあここで大人しく待っている事にしよう」


「はあーーーー、まったく」



 レインは溜息を吐くと、露店の並んでいる方へ歩いて行った。そして帰ってきた。お腹の減り始めていたボクにとっては、この待っている時間がまるで何年も何十年にも感じられたのは言うまでも無い事かもしれない。だが、あえて正確に言えば10分そこらだろう。まさに相対性理論だな。



「よし、買って来てやったよ。串焼き肉だ。ナマで売っているのを買ってきたから、焼かなくちゃだめさね。それじゃ、マリンは薪を用意して焚火を熾してくれる?」


「薪……薪ないね」


「え? 無いなら用意しなよ」


「用意する? ボクが?」


「そりゃそうでしょ。肉はあたしがご馳走してやるつもりだったけど、薪位はあんたが用意してよ。食べないならいいけど、食べるでしょ?」


「食べるね」



 そう言えばそうだった。レインの言うとおりだ。まったくもって、筋が通っている。


 ボクは、ここのテントをレンタルする時に会ったドワーフがいる店の方へ行ってみた。確かあのドワーフは、薪も取り扱っていると言っていた。


 店につくと、ドワーフはそこにいた。何か、鼻歌を奏でながら道具を手入れしている。



「ちょっといいかい?」


「いらーーさい。って、あんたかねー? 何かある?」


「あるよ。薪が欲しいんだけど、あるかな?」


「ああーー、薪。それならそっちに置いてあるからーー。好きなだけ持っていけばいいよーー。代金はまとめてラコライにつけておくからーーね」



 ボクは頷いて、ドワーフの指した薪置き場へ近づいた。すると、確かによく知っている見慣れた薪が積んでいた。だが、その横に見たこともない樹皮を纏ったような変わったキノコも沢山積み上げられていた。


 ボクはその変わったキノコを一つ手に取ってもう一度、店番をしているドワーフのもとへいった。ドワーフは、機嫌良さそうにまた鼻歌を奏でながら道具を触っている。



「いらーーさい。ってまたまたあんたかねーー。なんぞ、あった?」


「いや、これ……薪の隣にこんな変なのがあった。この樹脂を纏ったような不思議なキノコはなんだい? もしかして、食べられるのかい?」



 ドワーフは笑って首を振った。



「バフーーーバワッハッハッハ」


「バフー?」


「いやいやすまんね。笑ってしまったーーわ。そのキノコは食用ではないし、食べられんぞな。薪茸と言って、薪にできるキノコだーーよ。火も点きやすいし長持ちするーわ」


「薪にできるキノコなのかこれは。フフ……プフーーー」


「プフーー?」


「いやいや、そんなキノコはオズワルト魔導大国にもクラインベルト王国でも見かけなかったキノコだ。面白くて、ついつい笑ってしまった。すまない。しかし、実に興味深いな。気に入った。これを使用してみよう」



 キノコというものは不思議なもので、中には魔法の効果のあるものもあるという。それだけに【ウィザード】というクラスを持つ者の中には、キノコを好んで採取し色々研究したりする者も少なくないという。


 ボクはそれ程詳しくはないし、魔法のキノコを使って何か薬のようなものを作るという事もした事はないけれど、それでも薪にできるキノコというものは珍しく思える。


 フフフ。きっとこれは、このノクタームエルド特有のキノコなのかもしれない。



「プフーーーー。しかし、あの店番のドワーフの笑い方。傑作だった。あんな面白い笑い方をする者が世の中にいるとはな。再び思い返しても笑えるな。プフーーーー」



 レンタルしたテントの設営場所。レインのもとに戻ると、早速手に入れた薪茸を石で囲んだ焚火場所の中心に積み置いてマッチで火を点けた。


 何気ない事をしたつもりだったが、それを見てレインが不思議な顔をした。



「ねえ、マリン。あんたウィザードでしょ?」


「まあ……そうだね。ボクはウィザードだ」


「それじゃ、当然火属性魔法を使えるんだろ? 今、あんたは薪に火を点けるのにマッチを使ったよね? 魔法使いのあんたにとっちゃ、別にマッチなんてなくても点火できるんじゃないの?」


「ボクはね、水属性魔法が得意なウィザードなんだよ」



 それで、納得……っていう訳にはいかないようだった。レインは更に聞いてきた。



「でもさ。あたしの知り合い、冒険者にもウィザードはいるから知っているんだけどね。火属性魔法ってウィザードになる者がまず最初に覚える魔法なんじゃないの? 火を生み出し操る事が、黒魔法の基本であり、魔法使いになる為の最初の試練って聞いた事もあるからさ。だから、いくらマリンが水属性魔法が得意だと言っても、当然火属性魔法も使えるだろうし、薪に点火する程度の事なら尚更なんじゃないかってさ」



 ふむ。確かに冒険者から見れば、【ウィザード】であるボクのさっきのマッチで火を点けるという行動は、不自然に感じるのかもしれない。


 焚火がメラメラと音を立てて火が大きくなり炎になると、レインが調達してきてくれた串に刺さった肉をその周囲に突き立てて焼き始めた。火に炙られる肉を目にするだけで、ぐーーーっとお腹が鳴る。


 ボクは肉が焼けるのを待ちつつも、レインの質問にこたえた。



「これはまあ、願掛けにも似たものなんだ。当然、火属性魔法は使える。……と言うか風属性、土属性など他の属性もボクはそれなりに使えるよ。でもね、どの属性か絞ってそれを使い続けるという事を引き換えに、その唯一使用している魔法の力をブーストするっていうスキルがボクにはあるんだよ」


「なるほどねー。それで、そんなに水属性にこだわる理由とマッチを使用した秘密が解った。いやー、あたしは【アーチャー】だからね。自分の知らない世界を覗くっていうのは、なかなか面白いね」


「それ程、秘密でもないよ」



 ジュジューーー


 焼いている肉から、油が滴り落ち始めた。そろそろ食べてもよさそうだなと思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇薪茸 種別:アイテム

ノクタームエルドに生息するキノコ。樹脂に覆われたような形のキノコで燃えやすく、燃え尽きにくい。草木の無い大洞窟では、薪の代わりになり需要がある。他の国から初めて来た旅人は、大抵このキノコを知ってびっくりする。


〇オズワルト魔導大国 種別:ロケーション

ヨルメニア大陸の南東部にある魔法の国。マリンや、クラインベルト王国の、アテナの爺ミュゼ・ラブリックの出身地。因みに、マリンの祖父とミュゼはかつてオズワルト魔導大国にある魔導都市マギノポリスの双璧と呼ばれた。

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