表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

313/1358

第313話 『ボクの天使』




「いらーーさい」


「どうも。早速何だが、ここで少し休憩をしたい。ここに来ればテントを借りられると聞いたんだけど、それであっているかな」


「あーているよ。そだーよ。ここに来れば借りられるーよ。じゃあ、ついてきてー」



 ここロックブレイクにて、テントを貸してくれるという商売をしているドワーフについて行くと、既に設営されているテントの前に案内された。


 ドワーフは、そのテントの入口をめくりあげると、満面の笑みでその中をボクに見せた。カンテラに枕や毛布、小机まである。


 そのテントの充実っぷりに驚いた表情を見せると、ドワーフは更に自慢げに設営されたテントの脇に積んであるキャンプ用品を指した。――なるほど、充実している。


 テントの前には、石でこじんまりと円状に囲った場所があり、その中心に金属製の三脚があり、鍋が吊るされていた。これで、あとは薪さえあればもうここで直ぐにでも焚火ができるという仕組みか。至れり尽くせりだな。



「解ったよ。それで、薪や食糧なんかはどうすればいいのかな?」


「薪は、うちでも取り扱っているから、欲しければゆーーて。もちろん、有料だけどねーー。食糧は自分で調達してもらう事になってるけーどねー、それが嫌ならその辺の露店でも食糧は手に入るーよ。それとーー、水はあそこだーーで」



 向こうの岩がいくつか集まっている場所から、水の流れる音が聞こえる。水は無ければ無いで、水生成魔法(クリエイトウォーター)の魔法で作り出すことはできる。だが、美味しくはない。でもあの湧き水は美味しそうだし、飲んでみようと思った。



「そーれーでー、お代はーー」


「ああ。それなら、冒険者ギルドのラコライさんが支払ってくれるという事になっているんだがね……それで大丈夫だろうか?」



 ラコライが支払うという事を聞いて、ドワーフはにっこりと微笑んでお辞儀し、もといた場所というか店の方に戻って言った。


 さて、それじゃあ早速――ボクは三脚にぶら下がっている鍋を手に取ると、湧き水を汲みに行った。そして戻ると、次はその辺の露店を見て回り食糧を調達する事にした。


 露店が沢山並んでいる方へ歩いてみる。すると、見たこともない商品が色々と並んでいた。


 黄色くとても大きなキノコ。



「お客さん、どうだい? これはかなりいいイエロースマッシュだよ! 安くしとくよ!」



 イ、イエロースマッシュ? いいイエロースマッシュってなんだ? 初めてその名を聞いたけど、食用なのだろうか。そんな名前のキノコが存在するのか……実に興味深い。



「こっちの肉はなんの肉なんだい?」


「お!! お客さん、目の付け所がいいねー。こっちがグレイトディアー。そして向こうのがホワイトヌーの肉。更にこっちは、ちょっと中々手に入りやせんがね、ケルピーですよ」



 ケルピー!! その名を聞いて、いつぞやのテトラと狩ったケルピーの事とその味を思い出した。


 確かあの二人で狩ったケルピーの肉は、カルパッチョにして食べたんだったな。あれは、凄く美味しかった。今、あの時食べたあの味の事を思い出すだけでも、口の中に唾液が溢れてくる。



「っで! どうしやす? お客さん?」


「うーーーん、それじゃあ……」



 待てよ。待て待て。


 ここで、一つ重要な事にボクは気づいた。そう言えば、ボクは確かにそういう知識は持ってはいるけれど、そもそもちゃんと料理をした事もないし作る自信もない。作れない。


 料理というのは、魔法や武術と一緒で知識だけでは役に立たない。センスと経験が必要だ。無理矢理作ったとしても、きっと得体の知れないものができるに違いない。


 うーーん。これは参った。いくらいい食材が手に入った所で、今のボクに美味しい料理を作れるはずもないのだ。



「それで、どーしやす?」


「あっ。そうだね、もう少し考えるよ。迷ってしまって悪いね」


「ええーー、そんなお客さん! どれも美味しくて、いい商品ですぜ」


「悪い、今すぐに決められなくて。まったく自分の優柔不断さには、ほとほと愛想がつきるよ。また欲しくなれば寄るから、それじゃあね」



 そう言ってその場を離れると、再びレンタルしたテントのもとへ戻り、椅子代わりになる手ごろな石を見つけてそれに座った。そして、考える。


 まいったーー。参ったなーー。『水の悪魔』や『アクアデビル』と言われたこのボクでも、流石にご飯を食べなければそのうちに餓死しちゃうよ。参ったな、これは。


 ポリポリと頭をかいて、まいっていると誰かに肩を叩かれた。



「よっ! もう用事は済んだのかい?」



 振り返るとそこには、レインが笑顔で立っていた。手には何やら美味しそうな串に刺したこんがりと焼かれた肉。


 少なくともボクの目には、レインの姿が天使に映った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇イエロースマッシュ 種別:食べ物

ノクタームエルド内に生息する黄色い食用の大きなキノコ。焼いてソテーにしても最高。ルシエルが特に気に入っていたけど、このキノコのネーミングのせいだろう。


水生成魔法(クリエイトウォーター) 種別:黒魔法

下位の、水属性魔法。魔力で水を作り出すだけの魔法。マリンは、こんな魔法も色々と使い慣れているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ