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第311話 『干し肉分解』




 レインはまた煙草をひと吸いすると、ボクに質問を返した。



「じゃあさー、仮にあれはマナー違反さねーって今あたしがここでそう言ったらどうすんのさ。引き返すのかい? 良心が痛んで引き返して、倒したあれだけの蟻を何処か通行の邪魔にならない場所まで運んで行って処理する? 面倒くさいよー、それは。あんたも目的があると言っていたけど、それだってきっと遅れるよ、そんな事をいちいち繰り返していったんじゃね」


「いや、今更戻りはしないよ。やってはならない事だって今、きつく言われるのであれば戻る事も吝かではないが、別にそうではないのならボクは気にしない。単なる好奇心で聞いているんだ。どうなんだろう?」


「うーーん、それなら答えてやるが……グレーゾーンかな」


「……グレーゾーンか……」


「……片付けるにこしたことはないけど、必要がない感じっていうのかな」


「……ふむ。結局、どちらでもいいということかな」


「……なんで、マリンはそんな事を聞くのさ?」


「ああ。だから単なる好奇心だよ。自身の知恵の泉を満たしたいだけかな。別にレイン達を攻めている訳でもない。ただ、辺りがこんな洞窟でなく草原や森のようであったなら、襲ってきた魔物を倒して放置しも、他の動物や虫なんかの生物がその死骸を食べたりして分解して自然に返す。それは、自然の理として上手に成り立っている。だから、こんな洞窟であれ程の死骸が放置されると、どうなるのかなと思ってね。単純にそれだけなんだ」



 前を歩きながらも、ボクとレインの会話に聞き耳を立てていたサミュエルが笑いだした。その隣を歩くヴァスドも。更にレイン。「え? なに?」っと戸惑っているのはボクと、その後ろをついてくるメロだけだった。



「な、何? もしかして、何かあるの? 何か秘密があるの? この洞窟でもあっと驚くような自然のサイクルがあったりなんかするのかな?」



 くくくと笑うサミュエルとヴァスド。レインは、声をあげて笑いだした。ボクはどうしようもなくなって、レインの腕を引っ張った。



「はいはいはい、引っ張らないでマリン。特別にあたしが教えてあげるからさ」


「え? 本当に?」


「ええ。本当さね」



 そう言うと、歩いていた私達はいったんその場に立ち止まった。そして、サミュエルとヴァスドが周囲をカンテラで照らし始める。



「あった。あったぞ、レイン。良かったな、すぐに見つかって?」


「え? 何が?」



 サミュエルがカンテラで照らし出した場所は、岩壁だった。レインはそこへ近づくとボクの手を引いた。



「ちょっとこっちに来て見てごらん」



 レインは自分の荷物、ザックの中から干し肉を取り出すと岩壁の前に置いた。それを見たボクは、なんとも奇妙な事をしているなと思った。何の変哲もない岩壁の前に干し肉を置いたりなんかして。


 ……いや、何の変哲もないこともない。よく見ると、その岩壁には無数の穴があいている。干し肉はその岩壁にある一つの穴の前に置かれていた。



「こ、これ……」


「シーーーーッ! ちょっと静かにして!」



 レインに言われ、暫くその場でじっと様子を見てみる。


 時間にして3分位だろうか……じっと見ていると、穴の中から何かが頭を出した。蟲? 人の頭の半分位はあるんじゃないだろうかと思える、巨大なダンゴムシが現れた。



「で、でかいな!! なんだこの立派なダンゴムシは!!」



 他の穴からも順々に顔を出してくる。そして、レインが地に置いた干し肉に群がり始めた。



「な、なんだ!! 外の世界と一緒じゃないか。ダンゴムシが、干し肉を分解している!」


「アッハッハッハー! 分解とか言わないで! 食べてんだよ、アーーハッハッハ」」



 皆笑っていた。メロも笑っていたけど、彼女は絶対ボクと同じで知らなかったはずだ。メロめ、やはり彼女は信用できない。



「因みにこの巨大なダンゴムシ、なんていう名前なのかな? 知っているのであれば教えて欲しい」


「そうさね。この子達はダンゴムシじゃない」


「え? でもどう見てもダンゴムシじゃないか、ほら」



 傍にいる1匹を杖でつつく。するとその蟲は団子のように丸まった。



「似ているけど違うよ。正確に言うと、分類学的にはヤスデの仲間よ。オオダマヤスデっていう……これでも魔物さね」



 まったく世界は不思議で溢れている。このノクタームエルドでは、何かしらの死骸などあった場合、もちろん他にも掃除役はいるのだろうが、こういった蟲達がノクタームエルド内を綺麗に保ってくれているのだと思った。


 よくできている世界だ。それに、このダンゴムシによく似た生物、オオダマヤスデに至っても実に興味深い生物だと思った。


 いつまでも干し肉を貪るオオダマヤスデを眺めていると、サミュエルがボクの肩を叩いた。



「さあ、じゃあ謎がまた一つ解けた所で、再びロックブレイクを目指そうか。もうじき、到着するぞ」


「そうなんだ。もうそんな近くまで来たのか……」



 レインがにこりと笑った。きっと、近道を選んで通ってきてくれたんだろうと察した。


 そんなこんな楽しい会話を続けて歩いていると、サミュエルが言ったようにあれから間もなくしてロックブレイクに到着した。


 ロックブレイクとは、この大洞窟の中にできた空洞。拓けた場所に冒険者や、旅をしている商人などが拠点を作って商売をしていたり休憩できる場所だった。


 水飲み場もあって、有料だけどキャンプの設営もできるという。そしてこの場所は、冒険者ギルドが運営しているみたいだった。



「いんやーー、お疲れお疲れー。じゃあ自分ちょっと用事がありますんで、ここら辺でー」



 到着するなり、あれだけ向こうに行けと言っても、無理やりくっついてきていたのに、今度は逃げる様にメロは何処かへ駆けて行った。そういえば、ロックブレイクで何か用があるとは言っていた。まあ、どうでもいいけど。


 ボクも早速ここで、リアのお姉さんの行方を探らなくちゃならない。運が良ければこの場所に、もうリアのお姉さんのルキアや、それに一緒に旅するクラインベルトの第二王女殿下がいるかもしれない。


 クラインベルトの第二王女、アテナ・クラインベルト。残念な事に、王都では彼女は不在だったが、ボクはその王女殿下が産まれ育ったクラインベルト城に少し前にいた。


 それを思い出すと、物凄く不思議な気分になった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇オオダマヤスデ 種別:魔物

ヤスデタイプの魔物。見た目は、大きなダンゴムシ。ノクタームエルドのような洞窟に生息しており、壁や地面に時間をかけて、口から酸を放出して穴をあけてそこに住む。酸は、極々少量で弱いため他の生物を攻撃する為の役には立たない。しかし、時をかければ岩にも穴をあける。腐肉が好物で、洞窟内の残飯処理を行い掃除屋さんとしても知られている益虫。無害な魔物。ヨルメニア大陸東部では、生息していない為マリンは初めてこの虫を見た。

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